33 / 49
鬼車
慈しみ
しおりを挟む
「のう。紫檀よ。そなたの妖力とは?」
猫又が問う。
「そりゃ、浄化の力だ」
「ふむ。では、浄化とは?」
「浄化は、邪を祓い消し去り清め、癒す力だ」
紫檀の言葉に、猫又が目を細める。
「なんだ? 何が言いたい?」
「強くなりたいのであろう?」
「まあ……そりゃそうに決まっている」
「では、浄化の根源とはなんぞ?」
猫に問われて、紫檀は黙る。
そんなことは、考えたことは無かった。
力を付ければ、おのずと妖力も高まる。そう考えていた。
「紫檀よ。浄化は陰陽では陽の力。相手を慈しみ憐れむ想いがあって効力を発揮する。紫檀が迦陵頻伽想う心が癒しの力となっている」
「……理屈っぽいな。猫」
「ほっ。そうかの? しかし、紫檀がそれを理解できなければ、いつまで経っても尾は成らず、子狐のままじゃ」
――良く考えることじゃ。
猫又はそう言うと、紫檀の頭を一蹴りして虚空に消えた。
今度こそ、白虎の国へ行ってしまったのかもしれない。
相手を想うだと?
腕の中の迦陵頻伽を見る。
傷ついた幼子。今、紫檀の妖力で傷は癒えつつある。
このような無辜の者を想うことは容易い。
だが……
「妖だ!! 出合え!!」
周囲が騒がしくなる。
バタバタと走る足音が近づいてくる。
邪気を払う梓弓が打ち鳴らされる。
浄化を妖力とする紫檀にも、吉祥の鳥である迦陵頻伽にも、そんな物は効くわけがない。
刀を差し向け、薙刀で威嚇する僧兵たち。
「このようなうっとおしい輩を、どのように慈しめというのか……」
紫檀は、煮えたぎる怒りに苛立ちを覚えながらも、力を抑える。
ここで怒りのままに皆殺しにしてしまえば、紫檀の妖力は邪に染まる。
それは、犬神が村を滅ぼした時と同じになる。
そうなれば、きっと晴明を悲しませるだろう……
ゴウッ
音を立てて狐火が燃え盛る。
鼻先で燃える狐火を見ただけで、僧兵たちは慌てふためいて腰を抜かす。
キャアアアアアアアア!!!!
空気を裂かんとする女の叫び声が辺りに響く。
「母様!! 母様!!」
腕の中の迦陵頻伽が母を呼ぶ。
ということは、この声は、鬼車の物なのだろう。
「ヒイィ!!」
邪気を孕んだ鬼車の声に、僧兵たちが口から泡を吹いて倒れる。
顔は青ざめ、耳を抑えてもんどりうっている。
「まずいな。たった一声でこれか」
女の歌声が近づけば近づくほど、僧兵たちは苦しそうに悶える。
紫檀は、周囲の僧兵たちを浄化の妖力で死なぬように保護する。
苦しむ僧兵の間をゆっくりと進んでくる女が一人。
何かと戦った後なのか、女の体は血にまみれて傷だらけになっている。
遠くに、犬の吠え声がする。
苦手と言われる犬に立ち向かってまで、ここにたどり着いたのだろう。
晴明が鬼車が強い妖だと言っていたのがよく分かる。
紫檀と目があえば、鬼車は静かに紫檀に頭を下げる。
「母様!!」
紫檀の腕の中の迦陵頻伽が、ヨタヨタと立ち上がって女の方へ歩き出す。
女は、迦陵頻伽を抱きしめると、ホロホロと泣き始めた。
紫檀が心を込めて浄化の力を鬼車に向ければ、鬼車の傷は、癒えていく。
「鬼車よ……さっさと迦陵頻伽をつれて逃げるがいい。犬が来る」
鬼車は紫檀の何度も礼を言って、紫檀の言葉に応じ迦陵頻伽を連れて飛び去っていった。
「このっ!! 化け物どもめ!!」
僧兵の一人が、憎々し気に紫檀に言葉を投げつける。
「うるさいのだよ。儂が守ってやらねば、とうの昔に彼岸に逝っていたくせに」
紫檀は、這いつくばる僧兵たちを見て、苦笑いした。
猫又が問う。
「そりゃ、浄化の力だ」
「ふむ。では、浄化とは?」
「浄化は、邪を祓い消し去り清め、癒す力だ」
紫檀の言葉に、猫又が目を細める。
「なんだ? 何が言いたい?」
「強くなりたいのであろう?」
「まあ……そりゃそうに決まっている」
「では、浄化の根源とはなんぞ?」
猫に問われて、紫檀は黙る。
そんなことは、考えたことは無かった。
力を付ければ、おのずと妖力も高まる。そう考えていた。
「紫檀よ。浄化は陰陽では陽の力。相手を慈しみ憐れむ想いがあって効力を発揮する。紫檀が迦陵頻伽想う心が癒しの力となっている」
「……理屈っぽいな。猫」
「ほっ。そうかの? しかし、紫檀がそれを理解できなければ、いつまで経っても尾は成らず、子狐のままじゃ」
――良く考えることじゃ。
猫又はそう言うと、紫檀の頭を一蹴りして虚空に消えた。
今度こそ、白虎の国へ行ってしまったのかもしれない。
相手を想うだと?
腕の中の迦陵頻伽を見る。
傷ついた幼子。今、紫檀の妖力で傷は癒えつつある。
このような無辜の者を想うことは容易い。
だが……
「妖だ!! 出合え!!」
周囲が騒がしくなる。
バタバタと走る足音が近づいてくる。
邪気を払う梓弓が打ち鳴らされる。
浄化を妖力とする紫檀にも、吉祥の鳥である迦陵頻伽にも、そんな物は効くわけがない。
刀を差し向け、薙刀で威嚇する僧兵たち。
「このようなうっとおしい輩を、どのように慈しめというのか……」
紫檀は、煮えたぎる怒りに苛立ちを覚えながらも、力を抑える。
ここで怒りのままに皆殺しにしてしまえば、紫檀の妖力は邪に染まる。
それは、犬神が村を滅ぼした時と同じになる。
そうなれば、きっと晴明を悲しませるだろう……
ゴウッ
音を立てて狐火が燃え盛る。
鼻先で燃える狐火を見ただけで、僧兵たちは慌てふためいて腰を抜かす。
キャアアアアアアアア!!!!
空気を裂かんとする女の叫び声が辺りに響く。
「母様!! 母様!!」
腕の中の迦陵頻伽が母を呼ぶ。
ということは、この声は、鬼車の物なのだろう。
「ヒイィ!!」
邪気を孕んだ鬼車の声に、僧兵たちが口から泡を吹いて倒れる。
顔は青ざめ、耳を抑えてもんどりうっている。
「まずいな。たった一声でこれか」
女の歌声が近づけば近づくほど、僧兵たちは苦しそうに悶える。
紫檀は、周囲の僧兵たちを浄化の妖力で死なぬように保護する。
苦しむ僧兵の間をゆっくりと進んでくる女が一人。
何かと戦った後なのか、女の体は血にまみれて傷だらけになっている。
遠くに、犬の吠え声がする。
苦手と言われる犬に立ち向かってまで、ここにたどり着いたのだろう。
晴明が鬼車が強い妖だと言っていたのがよく分かる。
紫檀と目があえば、鬼車は静かに紫檀に頭を下げる。
「母様!!」
紫檀の腕の中の迦陵頻伽が、ヨタヨタと立ち上がって女の方へ歩き出す。
女は、迦陵頻伽を抱きしめると、ホロホロと泣き始めた。
紫檀が心を込めて浄化の力を鬼車に向ければ、鬼車の傷は、癒えていく。
「鬼車よ……さっさと迦陵頻伽をつれて逃げるがいい。犬が来る」
鬼車は紫檀の何度も礼を言って、紫檀の言葉に応じ迦陵頻伽を連れて飛び去っていった。
「このっ!! 化け物どもめ!!」
僧兵の一人が、憎々し気に紫檀に言葉を投げつける。
「うるさいのだよ。儂が守ってやらねば、とうの昔に彼岸に逝っていたくせに」
紫檀は、這いつくばる僧兵たちを見て、苦笑いした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
妖狐
ねこ沢ふたよ
キャラ文芸
妖狐の話です。(化け狐ですので、ウチの妖狐達は、基本性別はありません。)
妖の不思議で捉えどころのない人間を超えた雰囲気が伝われば嬉しいです。
妖の長たる九尾狐の白金(しろがね)が、弟子の子狐、黄(こう)を連れて、様々な妖と対峙します。
【社】 その妖狐が弟子を連れて、妖術で社に巣食う者を退治します。
【雲に梯】 身分違いの恋という意味です。街に出没する妖の話です。<小豆洗い・木花咲夜姫>
【腐れ縁】 山猫の妖、蒼月に白金が会いにいきます。<山猫> 挿絵2022/12/14
【件<くだん>】 予言を得意とする妖の話です。<件>
【喰らう】 廃病院で妖魔を退治します。<妖魔・雲外鏡>
【狐竜】 黄が狐の里に長老を訪ねます。<九尾狐(白金・紫檀)・妖狐(黄)>
【狂信】 烏天狗が一羽行方不明になります。見つけたのは・・・。<烏天狗>
【半妖<はんよう>】薬を届けます。<河童・人面瘡>
【若草狐<わかくさきつね>】半妖の串本の若い時の話です。<人面瘡・若草狐・だいだらぼっち・妖魔・雲外鏡>
【狒々<ひひ>】若草と佐次で狒々の化け物を退治します。<狒々>
【辻に立つ女】辻に立つ妖しい夜鷹の女 <妖魔、蜘蛛女、佐門>
【幻術】幻術で若草が騙されます<河童、佐門、妖狐(黄金狐・若草狐)>
【妖魔の国】佐次、復讐にいきます。<妖魔、佐門、妖狐(紫檀狐)>
【母】佐門と対決しています<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)>
【願い】紫檀無双、佐次の策<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)>
【満願】黄の器の穴の話です。<九尾狐(白金)妖狐(黄)佐次>
【妖狐の怒り】【縁<えにし>】【式神】・・・対佐門バトルです。
【狐竜 紫檀】佐門とのバトル終了して、紫檀のお仕事です。
【平安】以降、平安時代、紫檀の若い頃の話です。
<黄金狐>白金、黄金、蒼月の物語です。
【旅立ち】
※気まぐれに、挿絵を足してます♪楽しませていただいています。
※絵の荒さが気にかかったので、一旦、挿絵を下げています。
もう少し、綺麗に描ければ、また上げます。
2022/12/14 少しずつ改良してあげています。多少進化したはずですが、また気になる事があれば下げます。迷走中なのをいっそお楽しみください。ううっ。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる