平安の都で妖狐は笑う

ねこ沢ふたよ

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鬼やらい

紅葉

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 庵の庭に、季節外れの紅葉が赤く降り積もる。
 血のように赤い紅葉の床の上に、美しいおもての鬼女が立つ。

「何ともこれは、風情があるな」

 ピョンと、紫檀が庭に立つ。
 紅葉の上に立っているように見えても、紫檀の足元では、カサリとも音はしない。 
 紅葉に足を付けずに、紫檀は妖力で宙に浮いている。

 ブワッ

 夥しい数の真っ赤な紅葉が、紫檀を捕えようと宙を舞う。紫檀は軽やかに空を飛んで避けるが、紅葉は大きな壁となって紫檀に迫ってくる。
 紫檀は狐火を現わして、紅葉の壁を燃やしてしまう。
 火のついた紅葉は、簡単に塵となるが、塵となった紅葉を越えてさらに新しい葉が紫檀を襲う。

「面倒できりがない」

 本体である、鬼女を殺せば、この紅葉が襲ってくることはないだろう。
 だが、あまりに憐れな身の上の鬼女。身籠った途端に、信じていた恋人に捨てられてしまった悔しさは、どれほどであったか。
 野山に慣れぬ身で都を追われての生活。胎の子も、さほど時間も掛からずに堕ちてしまったことだろう。恋人に裏切られ子を失い、一人山奥で過ごす身。心を壊すことは明らかだろう。
 鬼女になってしまったとて、それは無理のないことではないか?

「更科姫よ」

 紫檀が鬼女の昔の名を呼べば、鬼女の顔に苦痛の色が浮かぶ。
 
「更科姫よ。鬼を追いやる追儺の儀、追われた鬼は、どこへ行くのだろうな。鬼となった人間は、どこに行けば良いのやら」
 
 鬼女の攻撃を避けながら、紫檀は独り言のようにそうつぶやく。

 妖と鬼は、根本から性質が違う。
 妖は、そもそもの成り立ちが妖である。だが、鬼や幽鬼は、人の魂が堕ちてなる。

 未練・恨み・悲しみ・恐怖・驕り・傲慢
 そういった感情の末に、人は鬼となる。
 安達ケ原の鬼もまた、そういった類の鬼であった。

 ――さて、どうしようか。

 紫檀は悩む。
 鬼女から人間に戻せるような方法は知らない。
 だが、事情は知っている。
 無下に殺してしまうのは、少し可哀想だ。

「晴明! どうしろというのだ!」
「少しは自分で考えろ。紫檀」

 庵に結界を張って、晴明が悠々と攻めあぐねる紫檀を見ている。
 晴明の結界には、鬼女の攻撃は届かないようだ。

「考えろと言われもなぁ。思い切り攻撃するのは可哀想だ」
「攻撃するだけが解決方法ではなかろうに。考えよ」

 涼しい顔で笑う晴明。
 どう考えろというのか。
 浄化の狐火で更科姫を焼けば、鬼となった身は、焼けて消えてしまうだろう。
 
「なんだ。わからぬのか?」
「分からない訳ではない! 今考えている!」

 晴明の爺め。
 紫檀は考えてみるが、良い考えは浮かばない。
 ただ、更科姫の身の上を思えば、攻撃の手は鈍る。防御一辺倒になってしまう。

「降参だ! 教えてくれ!」

 紫檀は、さじをなげてしまう。
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