平安の都で妖狐は笑う

ねこ沢ふたよ

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大蛇

昔話

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 真女子がじっと部屋でとぐろを巻いている部屋に法師は再び顔を見せる。

「法師よ。私は警告したはずです」

 厳しい目を真女子が法師に向ける。
 法師は、真女子の厳しい視線に、決心が揺らぐ。
 しかし、決して金のためだけではない。何の落ち度もなく、ただ好いた人と添い遂げたいと思っただけの娘が、このように呪いを受けて命を失いかけている悲劇を何とかしたいだけじゃ。
 法師は、自分の心に言い訳を重ねて、自分を鼓舞する。

「白蛇様のご事情を、若者から伺いました。白蛇様の無念は、ごもっともかと存じます。しかし……しかし、その娘は、何も知らぬのであれば、無実ではないでしょうか?」
「知らぬうちに罪を犯すことはあるだろう?」

 確かにそうだ。知らずに盗人の片棒を担いでしまったことなども、良く聞く話。うっかり隣は老人の一人暮らしだと旅人に話した次の日に、その老人の家に強盗が入ったり。悪いのは、その盗人であったとしても、その罪の一端を自分が担ってしまうこともある。

「私とあの人がどのように過ごしていたのか。どれほど私が、あの男を信じていたのか。なぜ、私がこれほどまでに怒りと悲しみに囚われたのか、法師には分かるまいよ」

 白蛇は、悲しみを浮かべて薄く笑う。

 昔々あるところに、美しい若者がおりました。
 若者はある日、白い小さな蛇が岩に挟まれているのを不憫に思って、白蛇を助けました。
 その日から、若者には、不思議なことが起こりました。
 畑を耕せば、どこの畑よりも作物が育ち、山に山菜を取りに向かえば、小判の詰まった壺を拾う。
 そして、美しい娘が一人。ある夜に若者に礼を言う。「助けていただいた者です」と。若者は、一目見た時から娘に恋をし、娘はそのまま若者と暮らしました。

 そこでめでたしめでたしで終わらないのが、怪異の悲しさ。
 正体はバレて、怯える若者。百年続くと約束したはずの恋は一瞬で消え去り、若者は、あんなに愛していた娘に「化け物め!」と罵声を浴びせて逃げ惑う。

 できれば、説得で穏便に収めたかったが、白蛇を説得することは、無理なようだ。
者と白蛇の日々がどのようであったのかは知らないが、若者が話した以上に、白蛇は若者に尽くし、心を寄せていたのだろう。

「しかし、これが仕事でございますゆえ」

 法師がそう言って部屋の襖を開け放つ。
 襖を開けた途端に立ち込める煙が、部屋に充満する。

 蛇除けに使われるキセルの煙が、白蛇のいる部屋に一気に広がる。
 たまらず真女子は目を閉じて咳込む。

 目を開けた真女子の前から、娘の姿も法師の姿も消えていた。
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