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大蛇
山奥の寺
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紫檀は、晴明の庵を訪ねる。
もう何度目になるか分からないが、最近はようやく多少の稽古をつけてくれる。
これで、少しは尾成りに近づけるだろうか?
いつまでも尾の数が定まらず子ども扱い。当代一の陰陽師の晴明と修行すれば、何とかなるのではないかと思ったが、晴明は、なかなか相手をしてくれない。
雑用ばかりを言いつける。
紫檀を式神と間違えているのではないかと疑いたくなる。
「雑に扱いやがって!」
紫檀は、拗ねはするが、晴明を嫌いにはなれない。
今日も、晴明に頼まれて、手紙と米をとある法師に届ける。
山奥にひっそりと立つ寺。
こんな所に小さな寺を建てても誰も参拝には来ないだろう。
では、ここの法師は、何をもってこのような所に寺を建てたのか。
修験者ならば、断崖絶壁の上や洞窟の中、妖でも驚くような場所に修行場所を求めるが、この法師もそのような類だろうか?
寺の前に下り立って、人の姿になって、杭を打ちつけただけの
門をくぐれば、庭に痩せた老人が一人。
「そなたが晴明の言う法師か?」
紫檀が声を掛ければ、法師は、紫檀を見てコクリと首を縦に振る。
「左様にございます。あなたは妖……晴明様の所縁ということでしたら、妖狐でございましょうか?」
「ああ。そうだ。晴明から、米と手紙を言付かった」
紫檀が法師に渡せば、法師は、ありがたい。と、頭を下げた。
法師は、紫檀の目の前で早速手紙を広げて目を通す。
「……ふむ。なるほど……」
「どうした?」
「晴明様が、あなたに……紫檀様に身の上話をしてやってほしいと申しております
こんな遠くに使いに出した上に、見知らぬ爺の身の上話を聞くのか。
紫檀はうんざりする。
「こちらへ」
名も知らぬ法師が、紫檀を粗末な寺の中へと促す。
これは仕方あるまい。
紫檀は観念して、法師の後へと続いて寺の中へ入って行った。
◇◇◇◇
建っているのが不思議なくらいに粗末な造り。
痩せた板敷きの床はギシギシと軋んで、いつ抜け落ちても何の不思議はない。柱と言うにはあまりに細い柱が、かろうじて板を敷いただけの屋根をささえている。
雨の降る日には、そこここで雨漏りがするのだろう。欠けた茶碗が、あちこちに置かれている。
法師が自分で彫ったのであろう、木製のいびつな形の仏像が、かろうじてこの空間を『寺』という物にしている。
法師はゆっくりと板の間に座り、紫檀も法師の前にドカッと座る。
「何もございませんが」
竹を切って作った湯のみで、法師が水を紫檀の前に置く。
紫檀は、それを躊躇なく飲み干して、湯のみを法師に返す。
「法師。なぜこのような場所に寺を? もっと人里に近い場所に作れば、あと少しはまともな生活ができるだろうに」
人間とはそういう物だ。
一人で生きていくのは、晴明のように式神を使えなければ辛いはず。
誰かと関り、互いに少しずつ何かを分かち合うことで生きているのだと、紫檀は認識している。
法師のように一人で誰もいない山奥に引きこもれば、大工仕事も炊事も庭の手入れも、全てが自分でできなければならなくなる。
「まあ、それには理由がございますから。まずは、この年寄りの恥を、お聞きください」
法師はそう言って笑った。
もう何度目になるか分からないが、最近はようやく多少の稽古をつけてくれる。
これで、少しは尾成りに近づけるだろうか?
いつまでも尾の数が定まらず子ども扱い。当代一の陰陽師の晴明と修行すれば、何とかなるのではないかと思ったが、晴明は、なかなか相手をしてくれない。
雑用ばかりを言いつける。
紫檀を式神と間違えているのではないかと疑いたくなる。
「雑に扱いやがって!」
紫檀は、拗ねはするが、晴明を嫌いにはなれない。
今日も、晴明に頼まれて、手紙と米をとある法師に届ける。
山奥にひっそりと立つ寺。
こんな所に小さな寺を建てても誰も参拝には来ないだろう。
では、ここの法師は、何をもってこのような所に寺を建てたのか。
修験者ならば、断崖絶壁の上や洞窟の中、妖でも驚くような場所に修行場所を求めるが、この法師もそのような類だろうか?
寺の前に下り立って、人の姿になって、杭を打ちつけただけの
門をくぐれば、庭に痩せた老人が一人。
「そなたが晴明の言う法師か?」
紫檀が声を掛ければ、法師は、紫檀を見てコクリと首を縦に振る。
「左様にございます。あなたは妖……晴明様の所縁ということでしたら、妖狐でございましょうか?」
「ああ。そうだ。晴明から、米と手紙を言付かった」
紫檀が法師に渡せば、法師は、ありがたい。と、頭を下げた。
法師は、紫檀の目の前で早速手紙を広げて目を通す。
「……ふむ。なるほど……」
「どうした?」
「晴明様が、あなたに……紫檀様に身の上話をしてやってほしいと申しております
こんな遠くに使いに出した上に、見知らぬ爺の身の上話を聞くのか。
紫檀はうんざりする。
「こちらへ」
名も知らぬ法師が、紫檀を粗末な寺の中へと促す。
これは仕方あるまい。
紫檀は観念して、法師の後へと続いて寺の中へ入って行った。
◇◇◇◇
建っているのが不思議なくらいに粗末な造り。
痩せた板敷きの床はギシギシと軋んで、いつ抜け落ちても何の不思議はない。柱と言うにはあまりに細い柱が、かろうじて板を敷いただけの屋根をささえている。
雨の降る日には、そこここで雨漏りがするのだろう。欠けた茶碗が、あちこちに置かれている。
法師が自分で彫ったのであろう、木製のいびつな形の仏像が、かろうじてこの空間を『寺』という物にしている。
法師はゆっくりと板の間に座り、紫檀も法師の前にドカッと座る。
「何もございませんが」
竹を切って作った湯のみで、法師が水を紫檀の前に置く。
紫檀は、それを躊躇なく飲み干して、湯のみを法師に返す。
「法師。なぜこのような場所に寺を? もっと人里に近い場所に作れば、あと少しはまともな生活ができるだろうに」
人間とはそういう物だ。
一人で生きていくのは、晴明のように式神を使えなければ辛いはず。
誰かと関り、互いに少しずつ何かを分かち合うことで生きているのだと、紫檀は認識している。
法師のように一人で誰もいない山奥に引きこもれば、大工仕事も炊事も庭の手入れも、全てが自分でできなければならなくなる。
「まあ、それには理由がございますから。まずは、この年寄りの恥を、お聞きください」
法師はそう言って笑った。
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