12 / 49
鬼女
万能薬
しおりを挟む
ススキの揺れる平原で人が襲われるという。
襲われるのは、幼い子ども。身籠った女性。
平原に足を踏み入れて、戻ってこない者が数名。
「万能薬? 知らんな」
晴明に万能薬の作り方を知っているかと問われて、紫檀は、あっさりと知らぬと答えた。
そんな物は必要ない。
浄化の妖力を使うか、それでも効かぬなら、河童の薬を探してきて使えばよい。
妖狐の紫檀にそんな物を作る必要はない。必要のない物の作り方なぞに興味はない。
「その万能薬の作り方に、胎児の臓腑を使う物があっての。恐らく、今回の件は、その薬を作ろうとしている者の仕業ではないかと思っている」
「効くわけがないだろうが! そんな物!」
蟲毒といい、謎の万能薬といい、あまりにおぞましい作り方を、人間は考えだすものだ。誰がどのようにしてその奇妙な方法を考え付くのかは知らないが、人を殺すために多くの命を殺める蟲毒といい、幼子の臓腑を使う薬といい、命を邪険に扱う身勝手な手段に、紫檀は嫌悪を示す。
第一、その薬。たとえ万能薬を創り出したとしても、そのために無垢な幼子が犠牲になるのであれば、全くの無意味。何の価値もない薬にしか、紫檀には思えない。
「それが分からぬ者がいるから、世の中は時々狂う。占いの婆が、うっかり口を滑らせたのだよ。とある高貴な女性が不治の病にかかって、何か助ける方法はないのかと乳母に問われた時に、胎児の生肝で作る薬の作り方を」
やれやれと、晴明がため息をつく。
「そんな迷信……して、その乳母が、その薬を作る方法を信じたのか?」
「信じた。そして、無事作ったが、その為に気が狂って鬼となった」
それを無事と言って良い物かどうかには、大いに疑問が残る。
「作ったのに、狂って鬼となったから、まだ人を襲っているのか?」
「そうだ。母を探しに来た身重の娘の腹を裂いて殺してしまったのだ。それとは気づかずにな。それで鬼女と化して、まだ人を襲っている」
「そこで、どうして自分のしていたことは、恐ろしいことだと改めぬのか。それでは、娘と胎の子が無駄死にだ。その分だと、当初の目的の姫君の不治の病も忘れているのだろう。姫君も死んでしまったか?」
「ああ。とっくの昔に」
酷い話だ。
誰も救われない。そして、残ったのは、心が壊れた鬼女のみ。
それが今なお殺戮を繰り返している。
「晴明は、その鬼女を止めに行こうというのか?」
「そうだ。その女を止めて欲しいと、とある僧侶に頼まれた」
ふうん。
どういった関係の僧侶なのであろうか?
「だから、そこまで乗せろ」
「珍しく呼び出したから来てみたらそれか。本当に晴明爺は、儂の扱いが雑過ぎはしないか? 妖狐とはそのように雑に……」
「後で遊んでやるから。ほれ、新しい技を試してみたいとか言っていただろう? 相手をしてやろう」
尾も定まらないのに、妖力が強い紫檀と手合わせをしてくれる者はそうそういない。晴明だけが、紫檀が本気で挑んでも壊れない。
「まあ……じゃあ、仕方ない」
文句を言いながらも、紫檀は晴明を乗せて平原へと飛んだ。
襲われるのは、幼い子ども。身籠った女性。
平原に足を踏み入れて、戻ってこない者が数名。
「万能薬? 知らんな」
晴明に万能薬の作り方を知っているかと問われて、紫檀は、あっさりと知らぬと答えた。
そんな物は必要ない。
浄化の妖力を使うか、それでも効かぬなら、河童の薬を探してきて使えばよい。
妖狐の紫檀にそんな物を作る必要はない。必要のない物の作り方なぞに興味はない。
「その万能薬の作り方に、胎児の臓腑を使う物があっての。恐らく、今回の件は、その薬を作ろうとしている者の仕業ではないかと思っている」
「効くわけがないだろうが! そんな物!」
蟲毒といい、謎の万能薬といい、あまりにおぞましい作り方を、人間は考えだすものだ。誰がどのようにしてその奇妙な方法を考え付くのかは知らないが、人を殺すために多くの命を殺める蟲毒といい、幼子の臓腑を使う薬といい、命を邪険に扱う身勝手な手段に、紫檀は嫌悪を示す。
第一、その薬。たとえ万能薬を創り出したとしても、そのために無垢な幼子が犠牲になるのであれば、全くの無意味。何の価値もない薬にしか、紫檀には思えない。
「それが分からぬ者がいるから、世の中は時々狂う。占いの婆が、うっかり口を滑らせたのだよ。とある高貴な女性が不治の病にかかって、何か助ける方法はないのかと乳母に問われた時に、胎児の生肝で作る薬の作り方を」
やれやれと、晴明がため息をつく。
「そんな迷信……して、その乳母が、その薬を作る方法を信じたのか?」
「信じた。そして、無事作ったが、その為に気が狂って鬼となった」
それを無事と言って良い物かどうかには、大いに疑問が残る。
「作ったのに、狂って鬼となったから、まだ人を襲っているのか?」
「そうだ。母を探しに来た身重の娘の腹を裂いて殺してしまったのだ。それとは気づかずにな。それで鬼女と化して、まだ人を襲っている」
「そこで、どうして自分のしていたことは、恐ろしいことだと改めぬのか。それでは、娘と胎の子が無駄死にだ。その分だと、当初の目的の姫君の不治の病も忘れているのだろう。姫君も死んでしまったか?」
「ああ。とっくの昔に」
酷い話だ。
誰も救われない。そして、残ったのは、心が壊れた鬼女のみ。
それが今なお殺戮を繰り返している。
「晴明は、その鬼女を止めに行こうというのか?」
「そうだ。その女を止めて欲しいと、とある僧侶に頼まれた」
ふうん。
どういった関係の僧侶なのであろうか?
「だから、そこまで乗せろ」
「珍しく呼び出したから来てみたらそれか。本当に晴明爺は、儂の扱いが雑過ぎはしないか? 妖狐とはそのように雑に……」
「後で遊んでやるから。ほれ、新しい技を試してみたいとか言っていただろう? 相手をしてやろう」
尾も定まらないのに、妖力が強い紫檀と手合わせをしてくれる者はそうそういない。晴明だけが、紫檀が本気で挑んでも壊れない。
「まあ……じゃあ、仕方ない」
文句を言いながらも、紫檀は晴明を乗せて平原へと飛んだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
京都式神様のおでん屋さん
西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~
ここは京都——
空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。
『おでん料理 結(むすび)』
イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。
今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。
平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。
※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる