平安の都で妖狐は笑う

ねこ沢ふたよ

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人魚

八百比丘尼

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 人魚の肉を喰らえば、不老不死になると言ったのは誰であろうか?
 人魚の肉を誤って喰らい、不老不死になったと言われる娘がいた。

 娘は、身内の者が誰もいなくなってのも生き続け、八百比丘尼やおびくにと呼ばれているという。娘は、全国を行脚して暮らしている。

「変ではないか!」
その話を晴明に聞いた紫檀がむくれる。

「どうして『不老不死』の体を人間が手に入れる道理がある。変であろう?」
紫檀が、くだらないおとぎ話だと一蹴する。

「お前自体が妖狐のくせに、そこは否定するのか。分からん奴だ」

「だが、妖で生まれたのでなく、人がどうして……ああ、そうか」
自分で話していて気づく。

 人が不老不死になったのではない。
 妖が、その娘に混ざったのだ。長寿を生きる人魚の妖の力が混ざり、娘は、半妖になったか、妖そのものになったか。

 妖である人魚を喰らって、その人魚に憑りつかれたのだ。

「ふふ。そして、その八百比丘尼を、この晴明も探しに行こうと思っている」

「はあ? なぜ晴明がそんなことをしなければならない? 晴明は、不老不死なぞに興味はないだろう?」

 そもそも、晴明は、妖狐を母に持つ半妖。人間である部分も強いから、不老不死とまではいかないが、人間として長い生を得ている。
 その辛さも悲しみも存分に知っている晴明が、今更、不老不死を望むとはとうてい思えない。
 しかも、その不老不死の代償は、とてつもなく大きいことは、晴明は重々承知しているはずだ。

 人魚なんて放っておけば良いだろう。

 それに、人間に捕まって喰われるくらいだから、きっと弱い。不老不死であるだけで弱いならば、紫檀は興味はない。

「うん。私は、興味ない。だが、その八百比丘尼を捕えて、自らが不老不死になろうとしている奴がいる。分かるだろう?」

「まあ……それは確かに」

 深い海の底に身を沈め、めったに捕まることのない人魚。弱い妖であっても、それを捕まえることは容易ではない。
 人間には近づくことも出来ない場所に生きている妖だ。
 それが陸に上がって人として生きているとしたら、不老不死を望む人間ならば、それを捕えて喰らおうと考えてみても不思議ではない。

「つまりは、その八百比丘尼を捕えて喰おうという輩から逃がすのが目的か?」

「まあ、そんなところだ」
晴明が曖昧に答える。

 しかし、全国を行脚して生きている女一人。一体どうやって探すと言うのだろう。
 女の姿かたちもこちらには分からない。
 会えば、妖狐の紫檀ならばその鼻で、人魚かどうかの判別くらいはつくが、それだけではとても全国の女全てを嗅ぎ分けることなど出来ない。
 
 探しようがないではないか。

「できるさ。ちゃんと調べれば、確かな話は出てくるものだ」
晴明が涼しい笑みを浮かべてそう言った。
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