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蟲毒
浄化
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こちらを向いた女の口で、死にかけの蛙がピクピクと震えている。
自らが蟲毒の呪いとなって、次々と他の蛇や虫、蛙を掴んで喰らう女。
このまま放っておいて、壺の中の生き物がいなくなれば、今度は人を襲い始めるだろう。
蛙に人の違いは見分けがつかない。だが、呪いの指令は、憎き相手を殺すこと。だから、見境なく殺し始めるのだ。
これが、この蟲毒をしくじった者の末路の一つ……。
女がニイッと笑ってこちらに向かってくる。
爪の伸びた血だらけの手が、晴明を掴もうとするが、晴明に避けられてしまう。紫檀ですらなかなか捕らえられない晴明。こんな女には、指一本触れることは難しいだろう。
晴明は、女の首をヒョイと掴んで、狂える女を紫檀の前に突き出す。
晴明に捕らえられた女は、軽くつかんでいるだけなのに苦しんでいる。
妖力をその手に込めた晴明に、女の中に入った呪いごと鷲掴みにされているのだ。
「紫檀、浄化してやれ」
「なんと。儂の出番か? 今回はただ見ていれば良いのかと思っていた」
紫檀は、浄化の妖力を込めた狐火を女にぶつける。
狐火は女を包んで燃え上がり、闇に明るい炎をつくる。
だが、女も晴明も、燃えてはいない。
だが、炎に包まれて、確実に女はもだえ苦しんでいる。
「呪いだけを浄化して焼いているのだが……ちと根深いな。この女、蟲毒を何度やったのか? どれだけの蛙や蛇、虫の恨みをかっているのか……」
焼いても焼いても収まらない炎を見て、紫檀は呆れる。
一度失敗したと気づいたら、そこで自分には手に余る呪法だと諦めれば良いものを、よほど呪いたい相手への想いが強かったのだろうか。
「親兄弟でも殺されたのか?」
「いいや。この女は、恨む相手の顔も見たことがない」
燃え盛る狐火の中の女の首を掴んだまま、晴明が答える。
「だが、自らの身に起こる出来事の全ての要因は、その恨む相手が上手くいって幸せだからだと思い込んでいた。相手が幸せな分、自分に不幸が回ってきてしまったのだと思い込むことは、人間には多々あることなのだよ」
「ふうん。奇妙なものだな……。他人が不幸であったとしても幸せであったとしても、自分の状況なぞさほど変わらないだろうに」
こんな危険な思いまでして呪った相手の顔を見た事すらないなんて。
そんなに嫌いならば、関わらなければいいだけではないのだろうか?
なぜ、わざわざ嫌いな者にちょっかいをかけようとするのかが不思議だ。
しばらく経って、ようやく収まった狐火。
晴明は、そのまま女の首から手を放す。
女は、その場で気を失って倒れたままになっている。
「大丈夫。命に別状はない。ま、放っておいて良いだろう。いずれ家の者が気づく」
ニコリと晴明が笑った。
自らが蟲毒の呪いとなって、次々と他の蛇や虫、蛙を掴んで喰らう女。
このまま放っておいて、壺の中の生き物がいなくなれば、今度は人を襲い始めるだろう。
蛙に人の違いは見分けがつかない。だが、呪いの指令は、憎き相手を殺すこと。だから、見境なく殺し始めるのだ。
これが、この蟲毒をしくじった者の末路の一つ……。
女がニイッと笑ってこちらに向かってくる。
爪の伸びた血だらけの手が、晴明を掴もうとするが、晴明に避けられてしまう。紫檀ですらなかなか捕らえられない晴明。こんな女には、指一本触れることは難しいだろう。
晴明は、女の首をヒョイと掴んで、狂える女を紫檀の前に突き出す。
晴明に捕らえられた女は、軽くつかんでいるだけなのに苦しんでいる。
妖力をその手に込めた晴明に、女の中に入った呪いごと鷲掴みにされているのだ。
「紫檀、浄化してやれ」
「なんと。儂の出番か? 今回はただ見ていれば良いのかと思っていた」
紫檀は、浄化の妖力を込めた狐火を女にぶつける。
狐火は女を包んで燃え上がり、闇に明るい炎をつくる。
だが、女も晴明も、燃えてはいない。
だが、炎に包まれて、確実に女はもだえ苦しんでいる。
「呪いだけを浄化して焼いているのだが……ちと根深いな。この女、蟲毒を何度やったのか? どれだけの蛙や蛇、虫の恨みをかっているのか……」
焼いても焼いても収まらない炎を見て、紫檀は呆れる。
一度失敗したと気づいたら、そこで自分には手に余る呪法だと諦めれば良いものを、よほど呪いたい相手への想いが強かったのだろうか。
「親兄弟でも殺されたのか?」
「いいや。この女は、恨む相手の顔も見たことがない」
燃え盛る狐火の中の女の首を掴んだまま、晴明が答える。
「だが、自らの身に起こる出来事の全ての要因は、その恨む相手が上手くいって幸せだからだと思い込んでいた。相手が幸せな分、自分に不幸が回ってきてしまったのだと思い込むことは、人間には多々あることなのだよ」
「ふうん。奇妙なものだな……。他人が不幸であったとしても幸せであったとしても、自分の状況なぞさほど変わらないだろうに」
こんな危険な思いまでして呪った相手の顔を見た事すらないなんて。
そんなに嫌いならば、関わらなければいいだけではないのだろうか?
なぜ、わざわざ嫌いな者にちょっかいをかけようとするのかが不思議だ。
しばらく経って、ようやく収まった狐火。
晴明は、そのまま女の首から手を放す。
女は、その場で気を失って倒れたままになっている。
「大丈夫。命に別状はない。ま、放っておいて良いだろう。いずれ家の者が気づく」
ニコリと晴明が笑った。
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