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カイル

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 名前も知らない最上級生。
 君の名は?

「カイルだ。よろしく」

上機嫌のカイルは、さっさとあっさり名前を教えてくれた。

「助かったよ。俺の友達、皆相手が見つかったからさ。俺一人で、寮室でポツンと留守番するか、ボッチで出席するのか。悩んでいたんだ!」

 それで俺にまで声をかけたのか。
 俺は、ロージイに化粧されながら皆の話を聞く。

 プロムの一時間前。図書室に皆で集まっていた。
 どうせ、騒がしい校内。こんな時に図書室に来る人間なんていない、というのは、図書委員のリンネの意見。

 プロムに参加するメリッサは、自分の準備があるから、とてもここには、顔を出すことはできない。
 だから、ロージイだけが来て、俺の準備を手伝ってくれている。

 化粧が出来て、ドレスを着て鏡の前に立てば、それなりに見える。
 こうやってロージイに化粧をしてもらえば、ジュリエットの役の際に自分で化粧をした時には、いい加減な装いだったことがわかる。なるほど、化粧というものは、こうやってするものなんだ。適当に、赤い色を口に塗ってはい終わりでは、駄目なんだ。

 この国では一般的な栗毛色の長い髪のカツラを被れば、出来上がったのは

 病弱で、学校もほとんど出てこられない、カイルのまた従兄弟で幼馴染の最愛の婚約者(四月には、病弱すぎて死亡予定)のリリィ嬢。

 俺のままで参加するのは、婚約者の紹介の場であるプロムでは良くないだろう、というマキノとロージイの主張により、考えた設定だ。

「マキノ様! ご覧になって!」

嬉々としたロージイ。

「さすがリオス! 可愛いな!」

マキノが俺の横に立つ。

「おい、今日は俺の婚約者のリリィだろ?」

カイルが慌てて俺を取り返す。
いや、中身は俺だが?

「こんな可愛い婚約者がいたんだとなれば、俺の株も上がるだろう! ひょっとして、リリィが死んで悲しんでいるって噂を聞いて、ゆくゆくは可愛い子が俺を慰めにきてくれたりとか?」

協力してくれるカイルにこんなことを思うのは、良くないのかも知れないが、チャラい。もう発想の根底がチャラい。
まあ、上機嫌なのは、助かるが。 

「いいですか?リオス。ちゃんと、ミッション内容をもう一度復唱して下さい」

心配性のリンネは、俺に念をおす。

「俺は、カイルの婚約者のリリィ。カイルとのプロムをこなし、異変があれば、それをメリッサとカイル、メリッサの婚約者のアーシュと共に解決する」

もう何度も復唱させられている。

「どうにもならなさそうならば?」

「外で待機しているリンネ達に助けを求める」

「そうです。一人で暴走しても、リオスは何をやらかすか分かりません。もう、セシル王太子の誕生日まで間は無いんです。ここで失態を犯せば取り返しがつきませんよ!」

全く俺を信用していないリンネの言葉は、どこまでも厳しかった。
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