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グスタフ

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 泣く子も黙る悪役グスタフ・エルグ。

 伝統ある貴族社会に改革のメスを入れ続ける男。自身は農奴出身で、農奴として働いてその知恵と力でのし上がって一代で宰相にまでなった男。

 人にも自分にも厳しく、女王アレーナ様にも、必要とあらば、意見する。
 骨太な感じのごっつい父親。

 妻は、双子の出産で命を落とし、男で一つで再婚もせずに俺とシロノを育ててくれた。まあ、その辺は感謝している。男として、見習うべき点は多いし、尊敬はしている。

 尊敬はしているが、この親父のお陰で、俺とシロノは苦労してきた。
 宰相の子として、貴族の集まりに出席させられては、貴族の連中からも、使用人たちからも爪はじきにされた。
泥水を浴びせられ、農奴の子として冷笑され、周囲から病弱な俺を守ろうと、シロノは強く完璧な淑女に育ったのだ。シロノは俺の憧れ。どこが悪役令嬢だというのだ、みんな見る目がない。


「いいでしょ。シロノは、俺の宝物なんです。この家は、シロノさえ幸せならそれで十分です」

 優秀なシロノ。俺は、その邪魔さえしなければ、良いはずだ。
 将来は、ここを離れて辺境に行く。
 農奴出身だろうが、貴族だろうが、もう関係ない場所で、のんびり過ごしたい。

「寮では、このざまで平気なのか?」

「同室に恵まれましてね。親切にしてもらっています」

 マキノは、世話焼きだと思う。
 俺が、ちょっと体調を崩したら、すぐ気を使ってくれる。きっと、そのお陰で、なんとか一学期は乗り越えられたのだと思う。感謝している。

 夏季休暇中にも連絡は来ているが、彼は、彼で忙しい。見舞いに来るという話は、全て断わっている。

「あの軍司令の息子か」

グスタフが、何やら考えている。

「止めてくださいよ。無駄に探りをいれるなんて。だいたい、解雇なんて、そうやすやすとやるものではないんです。お陰で、俺とシロノが、どれほど苦労しているか」

 そう。父グスタフの評判が最悪だから、俺達は苦労している。
 どこに行っても、俺達は、爪はじき。悪人扱いだ。

「親などに左右されるのは、己が未熟だからだ。しっかり精進しろ」

 グスタフがのたまう。
 ムカつく親だ。何しに来たんだ。一体。

「とりあえず、減らず口が聞けるくらいには、元気なようだな」

 グスタフの口元が緩む。
 なんだ、こんな親父でも、一応俺の心配をしてくれたということだろうか?

「セシル殿下が、見舞いに来てくれたぞ」

 親父は、そう言い残して、部屋を出て行った。

 はあ? 先に言えよ、クソ親父。
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