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親と子(レシピ本と腱鞘炎〕
しおりを挟む昼食時、俺は本因坊店長に店を任せて一旦昼休憩……コンビニおにぎりを休憩室で食べるだけ。野菜ジュースを飲み終えて店に戻れば、本因坊店長が交代で休憩室へ……。
「本因坊店長。やっぱ、店長の食事って鶏ササミとプロテインなんですか?」
気になって聞いてみる。
聞いたことがあるのだ。マッチョの食事は、ササミとプロテインだと。
「ササミ君! それじゃ足りないぞ! 食物繊維も必要だし、栄養とは、筋肉と同じでバランスが大切なのだ!」
本因坊店長、ササミと間違えるのは、いかがなものかと。俺、佐々木。
まぁ、何かの大会に出るために鍛えている訳ではない本因坊店長。大会前に筋肉を調整するアスリートとは、また違うのかな?
入り口が開いて入ってきたのは、中年女性。なんだかオロオロしている。
そりゃそうだろうな。だって、本ではなくトレーニング器具を前面に推した店内。おおよそ書店には見えないはずだ。
俺だって、いまだに慣れない。
「近所の人の口コミで……その、レシピ本が欲しいのですが……」
お客様は、おっしゃる。
ご近所さん、なぜこんな店を……。遠回しの嫌がらせか??
それにしてもレシピ本かぁ。これは、本人に選んで頂かないと、好みは細分化される。
何冊あったかな。と、考えながら倉庫に向かおうとすると、
「待ちたまえ!」
本因坊店長が、俺を止める。
うぇ? またトレーニング? お客様、そういうタイプに見えないよ? 大人しそうな、小柄なおばちゃん。
「ご婦人! 誰にどのようなお料理を作るつもりかな?」
意外とまともな質問が、本因坊店長の口から飛び出る。そりゃ、どんな料理を作りたいのかを聞かないと、欲しいレシピ本も見つからないか。
「運動部の高校生の息子です」
なんだ。運動部の息子なら、本因坊店長に的確なアドバイスが期待できそうだ。
ご近所さんがこの店を推薦したのも分からなくもない。
「イカン! ご婦人! そんな魔物に一人で立ち向かうとは、正気か??」
て、魔物って。息子でしょう?
「ウゥッ…し、しかし立ち向かわねばならないのです! たとえこの手首が、重いフライパンで粉砕しようとも!」
泣き崩れるご婦人。
ずいぶんノリが良い。
手首って……まるで、テニスプレイヤーのスポコンの漫画のようだ。
「ご婦人!!」
本因坊店長も涙を流す。
さて、小芝居は放っておいてレシピ本を探しに行くか。
ガッツリ肉系、アスリート飯的なレシピ本を探し出して倉庫から帰ってくれば、お客様が増えている。
えっと、息子さん? 運動部だという息子さんが召喚されたようだ。
すでに筋トレ後のようで、息子さんは、地面に這いつくばってゼイゼイ言っている。
「店長! 俺、間違ってました! これからは、母と一緒に戦います!」
と息子さん。
「勇人~!」
息子の言葉に感涙するお客様。
ウンウンと頷く本因坊店長。
相変わらず、何がどうなってこうなっているのか分からない。
お客様は、俺の選んだレシピ本から、息子と二人で選んだ本をご購入して帰られた。
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