天使の顔して悪魔は嗤う

ねこ沢ふたよ

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卒業間際

爆弾魔 9

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 少し前では、普通の子だったのに……。
 ニュース番組でありきたりな言葉が、俺の心に浮かんで消える。
 
 何がどうとでもない同級生の女の子。
 それが、少しのきっかけで、こうも犯罪に鈍感になって大それたことをするようになるのかと驚く。
 もし、変な奴らに目を付けられなかったら、田島だって今頃は受験や大学の準備に追われていたはずなのに。
 爆弾魔になんて成り下がったりしなかっただろうに。


「逃げて……」

 赤野の言葉を俺は無視する。
 ここで逃げ出すなんて、有り得ない。
 俺の手に赤野の震えが伝わる。

 ――寒いんだ。

 真冬に濡れた服を着たまま。
 体温は、ドンドン奪われてしまっているに違いない。

 ――どうしよう。

 チラリと赤野に目をやった瞬間に、バチリと俺の体に衝撃が走る。

 そして、俺は、そのまま気を失ってしまった。

 ◇◇◇

 目を覚ました時には、薄暗い部屋に俺と赤野は閉じ込められていた。
 体育倉庫?

 汗の染みついたマットの独特の匂いが充満している。
 バスケットボール、跳び箱、床運動用のマット、三角コーンに得点ボード。そんな物が所狭しと置かれているのが、暗がりの中でも分かる。

 ポケットを探っても、スマホが見当たらない。

 まあ、当然か。奪われてしまったのだろう。


「起きたね」

 赤野の声がする。
 振り返ろうとすると、赤野が慌てる。

「ちょ、ちょっと。後ろは向かないでほしいんだ。……その……濡れた服を着たままだと低体温症で死んでしまうから、さ。だから……ちょっと、見せられない姿をしているから」

 それは……見たいかも。俺が赤野に抱いている長年の疑惑もスッキリするし。
 でも、ここで振り返るのは駄目な気がする。
 グッと堪えて、俺は前を向く。

「あ、赤野? 寒くない?」
「近くにあった段ボールやマットでなんとか凌いでいるけれども、正直寒い……」

 なんだ。じゃあ、赤野は今、段ボールやマットを体に巻いている姿?

「じゃあ、早くここから出ないと」
「うん。そうなんだけれどもね。外から鍵を掛けられちゃったから」

 田島葵は、仙石の手下と一緒にいたらしい。
 複数の手下が、俺と赤野をこの体育館倉庫に閉じ込めた。

「朝になったら、誰かが開けてくれるかな?」
「どうだろう。あの騒ぎの後だからね。調査のために学校は休校かもしれない。刑事さん達は……気づくかな。この倉庫は、旧校舎の隣にあるから。そこまで調べてくれるかどうか」

 見つけてくれなければ、俺たちは、ずっと閉じ込められたままになってしまう。
 赤野と二人きりの状況は、少し嬉しいが、正直俺も寒い。
 俺の方が低体温症になってしまいそうだ。

「松尾君……寒い?」

 赤野が心配そうに聞いてくる。

「ちょっとだけね。プールに入ったし……て、ええ?」

 赤野が背中に抱きついてくる。

「くっついていたら少しはマシでしょ? 寒さは和らいだ?」

 赤野がどこから見つけてきた小さめのマットと段ボール。それに包まれて、赤野二人。
 背中に抱きつく赤野。
 振り返りたくて、必死で我慢し続ける俺。

「明け方には、もっと冷えるよね……やっぱり自力で出る方法を考えようか」

 で、出る方法? 
 もちろん、俺の脳内はそれどころではない妄想でいっぱいなのだけれど、それをなんとか振り払う。
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