天使の顔して悪魔は嗤う

ねこ沢ふたよ

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高校三年生(今までの応用です。暗号・トリック・事件・サイコパス……)

猫を殺さば呪われると思え6

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 一人残った赤野周作が向かったのは、『倉庫』。
 暗号の『3』の示す場所。

「本当、悪趣味だよね。あの生首のメッセージから、何の進歩もない趣味の悪さ」
倉庫に居た男に、周作はそう悪態をついた。

「相変わらず生意気で手厳しいな」
苦笑いして出てきた男は、仙石。

「これ以上僕の大切な物を傷つけるようなら、僕は容赦しない。止めるよ? お前の息の根」

「それは楽しみだ」
男は、悠然と笑う。

 箱の中から出てきた絵は、ガウディの作った『サクラダファミリア』。『受難のファサード』とは、この者がキリストだということを捕縛者に教えるために、裏切り者のユダがキリストにキスをするシーンを再現した像と、4×4で数字が刻まれた『魔方陣』があることで有名な場所。

 ガウディの『魔方陣』の数字には、ある特徴がある。
通常は縦横斜めの数字の和が34になるところを、同じ数字を入れることで『33』になるように調節されている。これは、受難にあった時のキリストが33歳だからとか、有名な暗躍組織フリーメーソンの階級が『33』だからともいわれている。

 『33』から素数を探すならば、『1』と『3』と『11』。その内で、場所を示すのは、『3』。つまり、あの絵ハガキは、この『倉庫』を示していた。

「CICADA3301も、フリーメーソンも、どちらも、闇の組織と言われているよね? それになぞらえて、勧誘だなんて。馬鹿じゃない?」
周作の機嫌は、すこぶる悪い。

 この暗号の影に、仙石を感じてからずっと、腹が立っていた。

「でも、キミはちゃんと一人でここに来た。会いたかったよ」
平然と仙石は笑っている。

「だから、気持ち悪いって言っているでしょ? 僕が一人でここに来なければ、田島さんが解放されないじゃない。同級生が殺されたら、普通困るんだよ? たとえ、裏切り者のユダであっても」

「ふうん。それも気づいていた?」

「当たり前でしょ? 仙石が暗号の置石に使うなら、憐れな猫の遺体ではない。人間の体を少しずつバラバラに置くんじゃない? その方が、警察も焦る。猫を殺したのは、『自己肯定感の低いサイコパス』だからね。人間を殺したことのない人物。一度宗教組織に洗脳されてしまった田島さん、騙して引き込むのは容易だったんだろうね。狙われてしまった。お前にそそのかされて、猫を殺していたのは、田島さんだ」

仙石と距離をとって、周作は話す。
 じりじりと距離を詰めようとする仙石と一定の距離を注意深く保つ。

 いつ、こいつの手下が飛び出てくるか分からない。

 周囲への警戒、仙石への警戒で、周作の集中力が焼き切れそうだった。

「おいで。キミは分かっているのだろう? キミ自身が、本当はこちら側の人間だということを。無理に正義ぶって、才能を眠らせることはない。無能連中は放っておいて、キミの才能を存分に生かせるように手助けしてあげよう」
仙石が手を伸ばす。

「は? まっぴらごめんだ! それに彼らは無能じゃない。無能なのは、簡単な善悪すら自分じゃ分からない僕たちの方だ。僕は、化け物の仲間にはならない」
そう言って嗤う周作に、仙石がやれやれと首を横に振る。

「駄々っ子め。美人には育ったが、中身はまだまだ子どもだな。無理矢理連れて帰るのは、趣味ではないのだが……」

 仙石の手が、周作に伸びてくる。
 いつの間にか壁際に追い込まれて、背後に逃げ場はない。

 ギラリと翻ったのは、周作の手に握られたナイフ。
 仙石の首の皮を一枚切っただけで、避けられてしまった。

「残念。まだ攻撃が甘いか……」

「危ないな。警戒していなければ、頸動脈がやられた」

「僕には、猫を殺して練習なんか必要ない。殺す練習なら、お前本人でやるさ」
ケラケラと周作が笑う。

 人間離れした周作の表情に、仙石が嬉しそうに微笑む。

「悪魔のような傲慢さ。キミはやはりこちら側の人間だ。やはり欲しいね」

「残念。見誤りもいいところだ。僕とお前らには、決定的な違いがある」

「なんだい?」

「友達さ。どうして、僕が、お前の無駄話に付き合っていたか。分かる?」

 周作の言葉に、仙石がはっとする。
 鳴り響くサイレンの音。
 
「あ、赤野に触るな!! 変態!!」
ゼイゼイと息を切らしながら、松尾が叫ぶ。

 バラバラと走って、今井と夏目も追いついてきた。

「ちょっと署まで来てもらえませんかね?」
木根刑事が、仙石に苦虫を噛み潰した表情でそう言う。


 仙石は警察署に連行された。
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