上 下
56 / 83
高校三年生(今までの応用です。暗号・トリック・事件・サイコパス……)

猫は暗号を運ぶ2

しおりを挟む
狭い交番の中、赤野に案内されて中に入れば、そこには、猫と、婦警の制服を着たお姉さんと、もう一人のお姉さん。そして、太めのブチ猫が一匹。私服のお姉さんの膝の上でくつろいでいる。
よほど人慣れしているのか、猫は、俺達が入ってきても、少しも動じない。

「可愛いね。僕が触っても怒らない?」

赤野が、すぐさま猫に寄っていく。
どうやら、赤野は猫好きなようだ。意外だ。動物なんて合理的でない物は苦手だと言うかと思った。

「猫……好きなの?」
今井が聞けば、

「うん。この、モフモフがいいよね。それに、自分の嫌いな人には、絶対に近寄らない、媚びない感じが、なんだか心地いいんだ」
と赤野が答える。

 ……それ、ちょっと赤野に似ているよね? 人とちょっと距離を置いて観察しているけれども、好きな人には、過剰なくらいに寄って行くところとか。

あれ? 今日は、木根刑事はいないのだろうか?

「元子、制服似合っている。警官らしくみえるよ」
猫を撫でながら赤野が、そう言えば、

「なまいき! なんで高校生ごときに判断されなきゃいけないのよ!」
と、婦警さんが言い返す。

 赤野とはずいぶん親しそうだ。

「これが、木根刑事の娘で、僕の幼馴染の木根元子きね もとこ。僕らより二歳年上」
赤野が木根元子を紹介してくれる。

 赤野は、そのまま、俺達を友達だと、順に二人に紹介する。

「周作に友達ね……それは、ずいぶん心の広い子達なのね」

「うるさいな。あまり嫌みばかり言うようだと、帰るよ。元子が呼び出したから、ここに来てあげたのに」
赤野が不貞腐れる。

 赤野と元子さんの仲の良さそうな様子に、松尾はそわそわしている。気が気でないのだろう。幼馴染の男女、恋仲設定のアニメも小説も数多ある。

「そう、本題。この子は、私の高校の同級生で、名前は、寺井樹。この子の飼っている猫が逃げた時に、誰かが首輪を付け替えたみたいなのだけれども。その首輪に変な文字が書かれていて……」

そう言って、事件のあらましを説明した元子さんが見せてくれたのは、赤い首輪。そこに、確かに不思議な文字が書かれている。

『さ・や・・・・あ・・がた・・か・・・・あ・・な・・・・さか・・ら』

? 意味は分からない。

「また、モールス信号?」
俺が聞けば、

「違うと思うよ。長い棒が無いし、文字を棒に置き換えるとしても、点の数が、それらしくない。この文字列で、モールス信号を当てはめるのは、少し強引過ぎる」
と、赤野が即答する。

「ま、まずはこの文字列の法則性注目してみようよ」
赤野がにこやかに読み解いていく。

「まず、この文字。『さ』『や』『あ』『が』『た』『か』『あ』……」

「全部、あいうえおの一番上だ!」
今井が気づく。

「そう。全部の文字の母音が『あ』、そして、その次に、点が書かれている。もう分かるよね?」

「いや? 分からんが?」
松尾は首をかしげる。

「えっと、ひょっとして、使用する母音の位置? 例えば、最初の『さ・』は、『し』?」
寺井さんが、おずおずと提案する。

「その可能性が最も高いよね。僕もそう思う。だって、文字の後に書かれた点の数は、四つが最大。五つの母音を表しているようにしか思えない。だから……」

『さ・や・・・・あ・・がた・・か・・・・あ・・な・・・・さか・・ら』

『し よ    う  がつ  こ    う  の    さく  ら』

『しようがつこうのさくら』

『小学校の桜』

赤野が、暗号の下にサラサラと解答を示す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

時計仕掛けの遺言

Arrow
ミステリー
閉ざされた館、嵐の夜、そして一族に課された死の試練―― 山奥の豪邸「クラヴェン館」に集まった一族は、資産家クラレンス・クラヴェンの遺言公開を前に、彼の突然の死に直面する。その死因は毒殺の可能性が高く、一族全員が容疑者となった。 クラレンスの遺言書には、一族の「罪」を暴き出すための複雑な試練が仕掛けられていた。その鍵となるのは、不気味な「時計仕掛けの装置」。遺産を手にするためには、この装置が示す謎を解き、家族の中に潜む犯人を明らかにしなければならない。 名探偵ジュリアン・モークが真相を追う中で暴かれるのは、一族それぞれが隠してきた過去と、クラヴェン家にまつわる恐ろしい秘密。時計が刻む時とともに、一族の絆は崩れ、隠された真実が姿を現す――。 最後に明らかになるのは、犯人か、それともさらなる闇か? 嵐の夜、時計仕掛けが動き出す。

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~

aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。 ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。   とある作品リスペクトの謎解きストーリー。   本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

弁護士 守部優の奇妙な出会い

鯉々
ミステリー
新人弁護士 守部優は始めての仕事を行っている最中に、謎の探偵に出会う。 彼らはやがて、良き友人となり、良き相棒となる。 この話は、二人の男が闇に隠された真実を解明していく物語である。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

処理中です...