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高校一年生(暗号・トリック中心)
神隠し10
しおりを挟む男は、トランプと紙、ペンを用意する。
「こうやって、手元でお見せするのが、一番分かりやすいですから……単純にするために、使うカードは三枚」
男がそう言って、トランプの中から、ジョーカーを二枚、そしてハートの1を一枚取り出す。
赤野は、涼しい顔で男のすることを見ている。
「本当は、不信心な者にこのような予言の力を、易々と見世物のように見せるのは、気が引けるのですが、仕方ありません」
「ハートの1を見つけるんだね?」
興味津々でカードを覗く今井。
「ええ。他の誰もが間違っても、葵様だけは、間違えません、しかも事前に予言された位置に、必ずハートの1が来るのです。さ、葵様……」
信者の前で何度もさせられているのだろう、慣れた手つきで、部屋の隅の文机の上で、田島が紙に印をつけて隠す。
男は、後ろを向いているから、田島がどこに印を入れたかは見ていない。男は、田島が書いている間に、男の正面の襖をあけて、廊下に出てしまった。
田島が書き終わるころを見計らって戻ってきた男は、カードを三枚、表を見せてこちらに向ける。
「貴方も試しに当ててみますか? 見ているだけではつまらないでしょう? ……そうですね、予言の力はありませんでしょうから、私がカードを置いた後で、正解のカードを当てればいいんです」
男に言われて、今井と夏目、根室と俺は、前に出てカードを見つめる。
赤野と木根刑事は、後ろでその様子をじっと見守っている。
「このカードが正解のカードです」
男が、ハートの1をこちらに見せる。残りのカードは二枚。それも、表を見せてくれるが、確かにただのジョーカーだ。疑り深い夏目が、カードを触らせてもらったが、カードに仕掛けはない。
「分かりやすいように、ゆっくりカードを動かしますから、ちゃんと見ていて下さいね」
言われて俺達は、男の手元を見つめる。
何度もカードを表に返しながら、男は、確かにハートの1を一番下に入れて俺達の前に三枚並べた。一番下のカードから、左から順に裏返しに置いて並べたから、俺達は素直に一番左のカードがハートの1だと指さす。
「これで構いませんか?」
にこやかに男が聞く。
「一番右だよ」
後ろから見ていた赤野が答える。
「あてずっぽうな」
「何度でも当てられるよ。だって、こんなの使い古された古いカードマジックでしょ? スリーカードモンテ。18世紀ごろからヨーロッパの街角でも行われてきたイカサマ賭博の王様だよ。カードの表が見えない水平になった時に、素早くカードをスライドさせて、どこにハートの1を入れたか分からなくするんだよ。」
赤野の言葉を聞いて、根室が一番右のカードをめくれば、確かにそこには、ハートの1がある。紙をめくれば、田島の書いた印も、一番右のカードがハートの1だと示している。
「田島さんが印をつけたところに、その男がカードを操作しているんだよ」
「しかし、私は、葵様がどこに印を入れたのかを見ていませんよ?」
「それも簡単。紙に書いている時に見ていたから」
赤野は、つかつかと歩いて、先ほど男が開けた襖を開ける。
俺も赤野について行って、廊下を覗く。
「やっぱりね」
赤野は、そこにある鏡を見てニヤリと笑う。
「鏡に映っていたって言うの? 今見ても、何にも映ってないぞ?」
映っているのは、俺の顔と赤野の顔。
田島が書いていた手元は見えない。
「男は廊下に出たでしょ? そして文机が見える角度……ビリヤードの玉を打つ要領でその反射を追えば……ほら、ここだ」
赤野が自分のスマホのミラー機能で、廊下で確認すれば、先ほど田島が紙に書いていた文机の上が丸見えだ。
それを、赤野は写真に撮って、部屋に残っていた者達に見せる。
赤野は、田島の手を取って、ニコリと笑う。
「田島さん、帰ろう。そして、二度とここには近づいてはいけない。田島さんを利用して、この男達がどんな犯罪を計画していたか……。キミは、そんなのに巻き込まれて人生を終わりにするべきではないよ」
赤野の言葉に、田島が首を静かに縦に振る。
「ちょっと、待て。葵様は本当に……。この悪魔の言うことを聞いては……」
まだ何か言おうとしている幹部の男の前に、木根刑事が立ちはだかる。
「未成年をこれ以上無理にここに置こうとするのは、感心できませんね。今までのこともありますし、少し署でお話いたしませんか?」
ニコリと笑う木根刑事。
強面の木根刑事の笑顔は、すごみがある。男は、それ以上、何も言えなくなってしまった。
その場に座り込んで呆然としているおばさんを放置して、赤野に促されて、俺達は、建物の外に出た。
あれから、あの宗教団体は、木根刑事が調べあげ悪事が暴露して、解体に追い込まれたらしい。幹部の男は捕まったが、あの信者のおばさんがどうなったのかは知らない。
田島は、根室が献身的に寄り添ったことで、正気を取り戻したようで、なんとか日常生活に戻れたようだ。
二月半ば、田島と根室から、俺と今井と夏目と赤野は、感謝の籠った義理チョコをもらった。赤野へのチョコレートがやたら大きいような気がしたが、気づかないふりをしよう。
「ねえ、僕の作ったチョコも食べる?」
シオシオとしょげ返った赤野が出してきたのは、大きなハートのチョコレート。
「優作に、いらないって拒否された……」
嘆き悲しむ赤野。だから、ハートは受け取ってもらえないって、弁当の時に言ったのに。推理は、キレッキレなのに、どうして、こういうことは、赤野は学習しないのか……。
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