天使の顔して悪魔は嗤う

高校一年生（暗号・トリック中心）

タイムカプセル6

「あったぞ！！」

木根刑事が、棚の一番奥に隠されるようにしまわれていた小さな石膏像を出してくる。

　随分埃を被ったイカツイおじさんの像。
　ローマとかギリシャの偉い人なんだろうけれども、こんな不機嫌そうなおじさん誰も描きたいと思わなかったのだろう。長年誰にも触れられることもなく、棚の奥で眠っていたようだ。

　暗号を隠すには、もってこいということだ。

中には紙が何枚か入っている。一枚は絵で、他は写真。

観たこともない西洋絵画。一人の人物に手書きで印が入れられている。
それ以外には、花の写真が何枚も入っていて、裏には意味不明な文字の羅列。

「フローラの王国だね」

赤野が、絵画を見て教えてくれる。フローラとはローマ神話の女神様。花と春を司る女神様なのだそうだ。
このフローラの王国は、フローラを中心として、花の神話で有名な人物が何人も描かれている。
有名なのは、ナルシル。自分の美貌に見惚れて湖に落ちた男で、水仙になったそうだ。

アイアス・ナルシス・クリュティエ・ヒュアキントス・アドニス・クロッカス・スミラックス……そして中央にはフローラと空にはアポロン。

それぞれの人物にそれぞれ説話があり、表している花がある。
印が入れられているのは、右端の方に描かれているクロッカス。

「そのまま、彼はクロッカスの花。愛し合うクロッカスとリーズは、恋が叶わず二人とも死んでしまう。それを見た神様が、クロッカスをクロッカスという花に、リーズを朝顔に変えてしまうんだ。クロッカスの花言葉は、『青春の喜び』『切望』……写真のクロッカスは紫だから、『愛の後悔』」

赤野が、そう言って、石膏像の中から出てきた花の写真を取り出す。

　表にはクロッカスの写真。裏には、不思議な文字列。

「ARUONUOSIUSUYJONUOYJUKO」




「なんだよ。これ、サッパリ分かんない」

ぼやく俺に、赤野が微笑む。

「ねえ、花言葉は、愛の後悔なんだよね？後悔っていうことは、何するの？」

赤野がヒントをくれる。

後悔。反省する。後ろを振り返る。かえりみる。

「ARUONUOSIUSUYJONUOYJUKO」

この文字列をかえりみるのだから……。





俺は、後ろから読んでみる。

「OKUJYOUNOJYUSUISOUNOURA」





「おくじょうのじゅすいそうのうら」

「屋上の受水槽の裏？」


「順を追って考えれば、簡単でしょ？」

赤野が笑う。
おお、正解だったらしい。

木根刑事が、また正解が分かった途端に走り出す。

「なんだよ。一緒に行けばいいのに」

俺がそう言えば、

「木根叔父さんなりの優しさだよ。不特定多数が出入りする学校だし、証拠の保存がどうのって考えはなくて、もし、そこに子どもが見たらショックを受けるような物や危険があれば、駄目だと思っているんでしょ？　だから、先に現場に到着して、何かあるようならば、僕らが見ないように配慮してくれているんだよ」
と、赤野が教えてくれる。

　連続殺人事件。犯人と鉢合わせる可能性もあるし、何が起こるか分からないということか