14 / 83
中学二年生(友人と共に、事件、ゴタゴタを解決)
修学旅行 6
しおりを挟む
皆の注目を浴びていることに気づいて、
「あんまり見ないでよ。そんなに変?」
と、赤野君が頬を赤らめながら言う。
「変なんて……やばいくらい」
夏目君が、見惚れながら言う。
「やばい? そんなに駄目? まあ、いいや。笑いくらいはとれるだろ」
どうやら、赤野君は、『やばい』の意味を、逆に取ってしまったようだ。
赤野君は、お婆さんに踏み台を借りると、そのままトコトコと店の表に出て行ってしまった。
「あ、いや、そっちの意味じゃなくて、その……普通に可愛いって……」
夏目君が慌てて赤野君を追いかけて説明する。
「いいよ、別に。気を使わなくっても。僕自身も違和感しかなくって困っているんだ」
一度逆の意味に取ってしまわれては、夏目君がどんなに説明しても赤野君には言い訳にしか聞こえていないようだ。
それにしても、あんなに可愛いのに、赤野君自身はちっともそうは思っていないようだ。あのチョコチップクッキーのようにしか見えない犬といい、赤野君の美的センスはちょっとずれているのではないだろうか?
店の前に立った赤野君に、沿道の観光客の視線が集まっている。
突然、小さな土産物店から現れた着物姿の美少女。踏み台に載って、何かをしようとしているのは明らかだ。注目を集めるのも当然だろう。
観光客の中には、赤野君にスマホを向けたり、カメラを向けたりしている人もいる。
「弘毅、一緒に歌ってね」
小さな声で赤野君が祈るように、そう言う。弘毅……男の子の名前? 聞いた事のない名前だけれども、誰だろう。赤野君の特別な存在なのだろうか?
僕の胸に、小さな痛みを伴うざわめきが浮かんで消えた。
赤野君は、土産物店の前で、沿道に向かって、おもむろに歌い出す。『You Raise Me Up』。あなたがいるから、私は嵐の海にも立ち向かえ、高い山にも登っていける、という歌詞を英語で歌う。寄り添って傍にいてくれるあなたがいるから、自分は力を発揮できるのだと、綺麗な高い声で赤野君が歌えば、多くの観光客が立ち止まる。海外でも日本国内でも、世界的に有名なこの曲。興味がある人も多いのだろう。
聖歌隊で歌っていたこともあるという赤野君。歌はすごく上手だ。
一曲歌い終わった赤野君が、観光客の拍手の中で、英語で話し出す。
どうやら、土産物店で買い物をすることを促しているようで、赤野君の歌に拍手を送っていた観光客が、次々と店に入って来る。
赤野君は、お土産を買ってくれたお客様と談笑し、握手して、ツーショットの写真にも応じている。なんだか、即席アイドルの握手会みたいになっている。
赤野君は、お土産屋で購入してくれた客には、露骨に親切に対応している。それを見た客は、赤野君と話すために、お土産を購入する。
中には、あの高い傘を一つ購入して、その傘で赤野君と相合傘になってツーショット写真を撮る客までいた。
赤野君の歌の効果が絶大だった。
客の状況を見て、赤野君は、二曲目を歌う。『My Favorite Things』。サウンド・オブ・ミュージックという有名な映画の中の曲。薔薇のしずくに猫のひげ、ピカピカの銅のヤカン……そんなお気に入りを悲しい時には思い出す、そうすれば、気分は晴れる。赤野君の歌声は、沿道に響き、人々を魅了する。
「これで、良い流れができただろう」
何曲か歌って客の相手をしていた赤野君が、休憩に店の奥に座っている。
「見て。狙い通り、SNSにアップしている人が出てきた」
そういって赤野君が見せてくれた画面には、赤野君が歌っている姿の動画。
「いいのかよ。勝手に撮らせて」
松尾君が心配する。SNSに子どもの写真や動画をのせるのは危険だと、学校でも散々言われている。
「いいよ。だって、この姿は今日限りの物だし。お土産物屋さんの着物姿で歌う女の子は、明日には、この世には存在しない。それよりも、こうやって宣伝してくれれば、この店にとっては、メリットしかないし」
赤野君がニコリと笑う。
「そうやって、宣伝してもらって、店を知ってもらって。後はお婆さんの人柄で、リピーターや新しい客を掴めばいいんだ」
なるほど。
要は、この赤野君のパフォーマンスは、お店のオープニングセレモニーと一緒なんだ。お店を開店するときに、何か注目を浴びるイベントをやって、客の目を向ける。一度目を向けさせて、興味を沸かせれば、自然とその中から新しい客がうまれるということだろう。
何度かそうやって赤野君が歌って、僕たちも店の中で忙しく働いていた。
だから、異変に全く気付かなかった。
赤野君が忽然と姿を消したことに気づいたのは、閉店間際の事だった。
「あんまり見ないでよ。そんなに変?」
と、赤野君が頬を赤らめながら言う。
「変なんて……やばいくらい」
夏目君が、見惚れながら言う。
「やばい? そんなに駄目? まあ、いいや。笑いくらいはとれるだろ」
どうやら、赤野君は、『やばい』の意味を、逆に取ってしまったようだ。
赤野君は、お婆さんに踏み台を借りると、そのままトコトコと店の表に出て行ってしまった。
「あ、いや、そっちの意味じゃなくて、その……普通に可愛いって……」
夏目君が慌てて赤野君を追いかけて説明する。
「いいよ、別に。気を使わなくっても。僕自身も違和感しかなくって困っているんだ」
一度逆の意味に取ってしまわれては、夏目君がどんなに説明しても赤野君には言い訳にしか聞こえていないようだ。
それにしても、あんなに可愛いのに、赤野君自身はちっともそうは思っていないようだ。あのチョコチップクッキーのようにしか見えない犬といい、赤野君の美的センスはちょっとずれているのではないだろうか?
店の前に立った赤野君に、沿道の観光客の視線が集まっている。
突然、小さな土産物店から現れた着物姿の美少女。踏み台に載って、何かをしようとしているのは明らかだ。注目を集めるのも当然だろう。
観光客の中には、赤野君にスマホを向けたり、カメラを向けたりしている人もいる。
「弘毅、一緒に歌ってね」
小さな声で赤野君が祈るように、そう言う。弘毅……男の子の名前? 聞いた事のない名前だけれども、誰だろう。赤野君の特別な存在なのだろうか?
僕の胸に、小さな痛みを伴うざわめきが浮かんで消えた。
赤野君は、土産物店の前で、沿道に向かって、おもむろに歌い出す。『You Raise Me Up』。あなたがいるから、私は嵐の海にも立ち向かえ、高い山にも登っていける、という歌詞を英語で歌う。寄り添って傍にいてくれるあなたがいるから、自分は力を発揮できるのだと、綺麗な高い声で赤野君が歌えば、多くの観光客が立ち止まる。海外でも日本国内でも、世界的に有名なこの曲。興味がある人も多いのだろう。
聖歌隊で歌っていたこともあるという赤野君。歌はすごく上手だ。
一曲歌い終わった赤野君が、観光客の拍手の中で、英語で話し出す。
どうやら、土産物店で買い物をすることを促しているようで、赤野君の歌に拍手を送っていた観光客が、次々と店に入って来る。
赤野君は、お土産を買ってくれたお客様と談笑し、握手して、ツーショットの写真にも応じている。なんだか、即席アイドルの握手会みたいになっている。
赤野君は、お土産屋で購入してくれた客には、露骨に親切に対応している。それを見た客は、赤野君と話すために、お土産を購入する。
中には、あの高い傘を一つ購入して、その傘で赤野君と相合傘になってツーショット写真を撮る客までいた。
赤野君の歌の効果が絶大だった。
客の状況を見て、赤野君は、二曲目を歌う。『My Favorite Things』。サウンド・オブ・ミュージックという有名な映画の中の曲。薔薇のしずくに猫のひげ、ピカピカの銅のヤカン……そんなお気に入りを悲しい時には思い出す、そうすれば、気分は晴れる。赤野君の歌声は、沿道に響き、人々を魅了する。
「これで、良い流れができただろう」
何曲か歌って客の相手をしていた赤野君が、休憩に店の奥に座っている。
「見て。狙い通り、SNSにアップしている人が出てきた」
そういって赤野君が見せてくれた画面には、赤野君が歌っている姿の動画。
「いいのかよ。勝手に撮らせて」
松尾君が心配する。SNSに子どもの写真や動画をのせるのは危険だと、学校でも散々言われている。
「いいよ。だって、この姿は今日限りの物だし。お土産物屋さんの着物姿で歌う女の子は、明日には、この世には存在しない。それよりも、こうやって宣伝してくれれば、この店にとっては、メリットしかないし」
赤野君がニコリと笑う。
「そうやって、宣伝してもらって、店を知ってもらって。後はお婆さんの人柄で、リピーターや新しい客を掴めばいいんだ」
なるほど。
要は、この赤野君のパフォーマンスは、お店のオープニングセレモニーと一緒なんだ。お店を開店するときに、何か注目を浴びるイベントをやって、客の目を向ける。一度目を向けさせて、興味を沸かせれば、自然とその中から新しい客がうまれるということだろう。
何度かそうやって赤野君が歌って、僕たちも店の中で忙しく働いていた。
だから、異変に全く気付かなかった。
赤野君が忽然と姿を消したことに気づいたのは、閉店間際の事だった。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。

昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
先生、それ、事件じゃありません
菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。
探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。
長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。
ご当地ミステリー。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ビジョンゲーム
戸笠耕一
ミステリー
高校2年生の香西沙良は両親を死に追いやった真犯人JBの正体を掴むため、立てこもり事件を引き起こす。沙良は半年前に父義行と母雪絵をデパートからの帰り道で突っ込んできたトラックに巻き込まれて失っていた。沙良も背中に大きな火傷を負い復讐を決意した。見えない敵JBの正体を掴むため大切な友人を巻き込みながら、犠牲や後悔を背負いながら少女は備わっていた先を見通す力「ビジョン」を武器にJBに迫る。記憶と現実が織り交ざる頭脳ミステリーの行方は! SSシリーズ第一弾!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる