黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

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四神獣 朱雀

朱雀

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 烏天狗の長、悠羽は、羽根を持つ妖の長である朱雀の館に向かう。

 天界に近い雲海の向こう。通常の獣の鳥ではとても近付けない雲の奥に広がる天の王国。

 下半身が鷲、上半身が人間の女の姿の妖、鳥女が国境を見張り、迦陵頻伽の歌声が響く。その先に悠羽が進めば、赤を基調とした雲上の御殿が目に入る。

 衛兵に案内されて広間で跪いて待てば、朱雀が姿を現す。
 炎をそのまま羽根に変えたかのような美しい紅色の翼を翻し、ルビーの様に輝く瞳を悠羽に向ける。

「悠羽。久しぶりだな? 息災か?」
玉座に胡座を掻いて、艶やかな美女が微笑む。

「お陰様で、妻子共々つつがなく過ごしております。朱雀様も健やかご様子。何よりでございます」
悠羽は、頭を下げて挨拶する。

「妾の前で、まず妻子の話とは、またツレない」

 朱雀の言葉を黙って和かに悠羽は受け止める。

「烏天狗が義を裏切るは致しません」
悠羽の言葉に、

「難儀な一族だな」
と朱雀が笑う。

「では、今日は何をしに来た?」
「先に送った書状にあります通り、烏天狗が支援している虎精の西寧王を、朱雀様にも、白虎の末裔として正統性を認めていただきたいのです」

 恐らく、朱雀は書状は目を通している。目を通した上で、もう一度尋ねることで試しているのだ。

「ふうん。どうして、その若い虎精の肩を持つ?」
「我が弟、壮羽が信を置き、身を捧げている相手ゆえ」

 悠羽は、即答する。

「会うたことは?」
「ありません」

 ニコリと悠羽は笑う。

「何と! 会ったこともない人物を、この朱雀に推せと!」
朱雀が大笑いする。

「ええ。壮羽がこの兄に信用の置けない人物を助けるようには申しません」
涼しい顔で悠羽が言葉を返す。

「黒虎の精の話は、妾も聞いている。まだ成人したばかりの若い虎、あの虎が王になってから、青虎の国は、滅びかけていたところを盛り返したとか。だが、敵も多く、いつ首を取られてもおかしくない状況」

 朱雀の方でも、四神獣白虎の滅んだ後の虎精の国を気にかけていたということか。
 きっと、独自に探っていたのだろう。

「そして、その王は、最近稲荷神の後ろ盾を手に入れて、九尾の白狐を側室に加えたようだ。……知っているか? 常盤。人を喰らいし妖狐だ」

 朱雀が、悠羽に探る目を向ける。
 常盤の話は、壮羽から話は聞いている。
 本来、妖狐が無下に人の命を奪うことは、禁じられている。だが、常盤を討伐することを烏天狗が命じられてはいない。ということはつまり、稲荷神も迦楼羅天も、この件は不問にしているのだろう。

「何か事情がお有りなのでしょう」

「ふふ。弟可愛いさに目が曇ったか? 悠羽なら、自ら調べることを怠りはしないはずだ。なぜ、調べない?」

 調べて何かあれば、常盤を可愛がっているという西寧や壮羽と敵対する種となる。西寧はともかく、壮羽とは敵になりたくないのは事実。

 だが、それが本音とは、さすがに言い難い。

「その常盤がいるから、西寧の味方は出来ぬと? それは、あまりにも一方的。稲荷神も迦楼羅天も咎めていらっしゃらないことを、一介の妖に過ぎない我らがとやかく言うべきではないでしょう?」
悠羽は、朱雀を見つめる。

 苦しい言い訳に過ぎない言葉。
 朱雀の返答はない。

「残念です。朱雀様とは、今後も懇意でありたいと思っておりましたのに」
悠羽は、スッと立ち上がる。

「朱雀様も探っておいででしょうが、虎精の国は、これから荒れます。黄虎が不穏な動きを見せています。もし、青虎の西寧王を支持願えないならば、私ども烏天狗とは敵対いたします。今後は、ここに訪れることは無いでしょう」

 悠羽は、一礼して立ち去ろうとする。
 羽はあっても、烏天狗は迦楼羅天直属で朱雀の国に属する一族ではない。
 意見が合わないならば、袂を分つだけだ。

「待て、悠羽。まだ、そうとは言っていない」
「では?」
「条件がある」
「条件ですか?」
「そう。そこまで言うなら、その西寧王を見てみたい。この国に本人が来て、本人を見て納得するまでは、誰も承認しない」

 朱雀が、不敵な笑みを浮かべてそう言った。
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