40 / 40
四神獣 朱雀
朱雀
しおりを挟む
烏天狗の長、悠羽は、羽根を持つ妖の長である朱雀の館に向かう。
天界に近い雲海の向こう。通常の獣の鳥ではとても近付けない雲の奥に広がる天の王国。
下半身が鷲、上半身が人間の女の姿の妖、鳥女が国境を見張り、迦陵頻伽の歌声が響く。その先に悠羽が進めば、赤を基調とした雲上の御殿が目に入る。
衛兵に案内されて広間で跪いて待てば、朱雀が姿を現す。
炎をそのまま羽根に変えたかのような美しい紅色の翼を翻し、ルビーの様に輝く瞳を悠羽に向ける。
「悠羽。久しぶりだな? 息災か?」
玉座に胡座を掻いて、艶やかな美女が微笑む。
「お陰様で、妻子共々つつがなく過ごしております。朱雀様も健やかご様子。何よりでございます」
悠羽は、頭を下げて挨拶する。
「妾の前で、まず妻子の話とは、またツレない」
朱雀の言葉を黙って和かに悠羽は受け止める。
「烏天狗が義を裏切るは致しません」
悠羽の言葉に、
「難儀な一族だな」
と朱雀が笑う。
「では、今日は何をしに来た?」
「先に送った書状にあります通り、烏天狗が支援している虎精の西寧王を、朱雀様にも、白虎の末裔として正統性を認めていただきたいのです」
恐らく、朱雀は書状は目を通している。目を通した上で、もう一度尋ねることで試しているのだ。
「ふうん。どうして、その若い虎精の肩を持つ?」
「我が弟、壮羽が信を置き、身を捧げている相手ゆえ」
悠羽は、即答する。
「会うたことは?」
「ありません」
ニコリと悠羽は笑う。
「何と! 会ったこともない人物を、この朱雀に推せと!」
朱雀が大笑いする。
「ええ。壮羽がこの兄に信用の置けない人物を助けるようには申しません」
涼しい顔で悠羽が言葉を返す。
「黒虎の精の話は、妾も聞いている。まだ成人したばかりの若い虎、あの虎が王になってから、青虎の国は、滅びかけていたところを盛り返したとか。だが、敵も多く、いつ首を取られてもおかしくない状況」
朱雀の方でも、四神獣白虎の滅んだ後の虎精の国を気にかけていたということか。
きっと、独自に探っていたのだろう。
「そして、その王は、最近稲荷神の後ろ盾を手に入れて、九尾の白狐を側室に加えたようだ。……知っているか? 常盤。人を喰らいし妖狐だ」
朱雀が、悠羽に探る目を向ける。
常盤の話は、壮羽から話は聞いている。
本来、妖狐が無下に人の命を奪うことは、禁じられている。だが、常盤を討伐することを烏天狗が命じられてはいない。ということはつまり、稲荷神も迦楼羅天も、この件は不問にしているのだろう。
「何か事情がお有りなのでしょう」
「ふふ。弟可愛いさに目が曇ったか? 悠羽なら、自ら調べることを怠りはしないはずだ。なぜ、調べない?」
調べて何かあれば、常盤を可愛がっているという西寧や壮羽と敵対する種となる。西寧はともかく、壮羽とは敵になりたくないのは事実。
だが、それが本音とは、さすがに言い難い。
「その常盤がいるから、西寧の味方は出来ぬと? それは、あまりにも一方的。稲荷神も迦楼羅天も咎めていらっしゃらないことを、一介の妖に過ぎない我らがとやかく言うべきではないでしょう?」
悠羽は、朱雀を見つめる。
苦しい言い訳に過ぎない言葉。
朱雀の返答はない。
「残念です。朱雀様とは、今後も懇意でありたいと思っておりましたのに」
悠羽は、スッと立ち上がる。
「朱雀様も探っておいででしょうが、虎精の国は、これから荒れます。黄虎が不穏な動きを見せています。もし、青虎の西寧王を支持願えないならば、私ども烏天狗とは敵対いたします。今後は、ここに訪れることは無いでしょう」
悠羽は、一礼して立ち去ろうとする。
羽はあっても、烏天狗は迦楼羅天直属で朱雀の国に属する一族ではない。
意見が合わないならば、袂を分つだけだ。
「待て、悠羽。まだ、そうとは言っていない」
「では?」
「条件がある」
「条件ですか?」
「そう。そこまで言うなら、その西寧王を見てみたい。この国に本人が来て、本人を見て納得するまでは、誰も承認しない」
朱雀が、不敵な笑みを浮かべてそう言った。
天界に近い雲海の向こう。通常の獣の鳥ではとても近付けない雲の奥に広がる天の王国。
下半身が鷲、上半身が人間の女の姿の妖、鳥女が国境を見張り、迦陵頻伽の歌声が響く。その先に悠羽が進めば、赤を基調とした雲上の御殿が目に入る。
衛兵に案内されて広間で跪いて待てば、朱雀が姿を現す。
炎をそのまま羽根に変えたかのような美しい紅色の翼を翻し、ルビーの様に輝く瞳を悠羽に向ける。
「悠羽。久しぶりだな? 息災か?」
玉座に胡座を掻いて、艶やかな美女が微笑む。
「お陰様で、妻子共々つつがなく過ごしております。朱雀様も健やかご様子。何よりでございます」
悠羽は、頭を下げて挨拶する。
「妾の前で、まず妻子の話とは、またツレない」
朱雀の言葉を黙って和かに悠羽は受け止める。
「烏天狗が義を裏切るは致しません」
悠羽の言葉に、
「難儀な一族だな」
と朱雀が笑う。
「では、今日は何をしに来た?」
「先に送った書状にあります通り、烏天狗が支援している虎精の西寧王を、朱雀様にも、白虎の末裔として正統性を認めていただきたいのです」
恐らく、朱雀は書状は目を通している。目を通した上で、もう一度尋ねることで試しているのだ。
「ふうん。どうして、その若い虎精の肩を持つ?」
「我が弟、壮羽が信を置き、身を捧げている相手ゆえ」
悠羽は、即答する。
「会うたことは?」
「ありません」
ニコリと悠羽は笑う。
「何と! 会ったこともない人物を、この朱雀に推せと!」
朱雀が大笑いする。
「ええ。壮羽がこの兄に信用の置けない人物を助けるようには申しません」
涼しい顔で悠羽が言葉を返す。
「黒虎の精の話は、妾も聞いている。まだ成人したばかりの若い虎、あの虎が王になってから、青虎の国は、滅びかけていたところを盛り返したとか。だが、敵も多く、いつ首を取られてもおかしくない状況」
朱雀の方でも、四神獣白虎の滅んだ後の虎精の国を気にかけていたということか。
きっと、独自に探っていたのだろう。
「そして、その王は、最近稲荷神の後ろ盾を手に入れて、九尾の白狐を側室に加えたようだ。……知っているか? 常盤。人を喰らいし妖狐だ」
朱雀が、悠羽に探る目を向ける。
常盤の話は、壮羽から話は聞いている。
本来、妖狐が無下に人の命を奪うことは、禁じられている。だが、常盤を討伐することを烏天狗が命じられてはいない。ということはつまり、稲荷神も迦楼羅天も、この件は不問にしているのだろう。
「何か事情がお有りなのでしょう」
「ふふ。弟可愛いさに目が曇ったか? 悠羽なら、自ら調べることを怠りはしないはずだ。なぜ、調べない?」
調べて何かあれば、常盤を可愛がっているという西寧や壮羽と敵対する種となる。西寧はともかく、壮羽とは敵になりたくないのは事実。
だが、それが本音とは、さすがに言い難い。
「その常盤がいるから、西寧の味方は出来ぬと? それは、あまりにも一方的。稲荷神も迦楼羅天も咎めていらっしゃらないことを、一介の妖に過ぎない我らがとやかく言うべきではないでしょう?」
悠羽は、朱雀を見つめる。
苦しい言い訳に過ぎない言葉。
朱雀の返答はない。
「残念です。朱雀様とは、今後も懇意でありたいと思っておりましたのに」
悠羽は、スッと立ち上がる。
「朱雀様も探っておいででしょうが、虎精の国は、これから荒れます。黄虎が不穏な動きを見せています。もし、青虎の西寧王を支持願えないならば、私ども烏天狗とは敵対いたします。今後は、ここに訪れることは無いでしょう」
悠羽は、一礼して立ち去ろうとする。
羽はあっても、烏天狗は迦楼羅天直属で朱雀の国に属する一族ではない。
意見が合わないならば、袂を分つだけだ。
「待て、悠羽。まだ、そうとは言っていない」
「では?」
「条件がある」
「条件ですか?」
「そう。そこまで言うなら、その西寧王を見てみたい。この国に本人が来て、本人を見て納得するまでは、誰も承認しない」
朱雀が、不敵な笑みを浮かべてそう言った。
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる