黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

文字の大きさ
上 下
39 / 40
加護

玉蓮の鏡

しおりを挟む
 玉蓮の様子が変だ。

 そのような噂が西寧に届いたのは、常盤が来て三ヶ月も経った頃だった。

 常盤が来てからも、玉蓮を蔑ろにした覚えはない。むしろ、常盤には、玉蓮の意向により不自由な生活をさせていると、心苦しく思っていた。

 常盤が、身の回りの物さえあれば十分だと言ってくれるのを良いことに、素朴で慎ましい生活を余儀なくしてしまっている。

「玉蓮? 様子がおかしいそうだが、具合でも悪いのか?」
西寧が玉蓮にそう尋ねれば、

「様子? 私ではなく、西寧様のご様子がおかしいのでしょう?」
と玉蓮は、西寧を睨んだ。
 
 そう言われても、西寧に身に覚えはない。

 玉蓮との仲は、玉蓮が正妃となった時から変わらない。同じように、訪れては、玉蓮が満足するまで話をする日々。

 夫婦というには、あまりにも歪な関係だが、そもそも政敵の娘。玉蓮の方も、黒虎の精である西寧を、忌み嫌っているはず。
 だから、今の関係で十分だし、無理に距離を詰めるつもりもなかった。

「私、西寧様は、女人は愛せない方かと思っておりました」

「へ?」

 意表を突いた玉蓮の言葉に、西寧の口からおかしな声が漏れる。

「なのに、今回の来られた常盤への態度! あんまりでございます。私を騙しておられたのですね!」
ワナワナと震える玉蓮。

「待て。騙すも何も、一度もそうだと申したことはないが??」
相変わらず、玉蓮の言葉の意味がわからない。

「だって! 壮羽様や力上様とあんなにベッタリ! 最近は、孝文様にも手をお出しになって! 私にも少しも興味を示して下さいませんし……」

 いや、その誤解は、壮羽や力上が巻き込まれて可哀想ではないか? 力上に至っては、既婚者だが?
 孝文までその誤解の餌食なのは、なぜ?

「ですから、諦めておりましたのに!」

 涙ぐむ玉蓮に、西寧はオロオロする。
 一体、何をどうしろと言うのか? 何を叱られているのか、まるっきり理解できない。

「で、では、玉蓮は、一体何をどうしたいと言うのか?」

 そう、具体的に言ってもらわないと、何も分からない。

「せ、西寧様は、そういう事を女人の口から言わせるおつもりですか?」
真っ赤な顔の玉蓮。

 もういいです! と叫んで玉蓮は、奥に引っ込んでしまった。

 奥に引っ込んだ玉蓮は、すぐさま鏡の前に向かう。

「どういたしましょう? また喧嘩をしてしまいました」

 玉蓮は、鏡に話しかける。
 鏡に薄っすらと黒い影が映る。

「まぁ、また鈍い西寧様が分かって下さらなかったのですか? 姫がこのように努力なさっていらっしゃるのに」

 鏡が、玉蓮を慰める。

 最近、女官の一人からもらった鏡。
 上半身しか映らない小さな鏡だが、この不思議な鏡は、玉蓮の相談にのってくれる。
 思うようにいかず苦しい胸の内を分かってくれる。

 鏡から、白い女の手が伸びてくる。
 玉蓮の頬を撫でて、涙を拭ってくれる。

「大丈夫でございます。私にお任せを」

 鏡の中の女が、ニィッと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...