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加護

西寧の書状

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「虎精……な。大丈夫なのか? 白虎がいなくなって久しいあの国。ずいぶん利己できな支配者が出てきている。烏天狗が、黄虎の国と交流を絶ったのは知っているだろう?」

「ええ。ですが、西寧様は、信頼のできるお方です。虎精の内で誰よりも蔑まれ、苦労して育ったためか、誰よりも懐深い方です……まあ、時々、思ってもみない破天荒で無謀な作戦に突っ走るので、苦労はしますが」

 自分の命を軽く考えているところは西寧に早急に直してもらいたいが、それ以外は、何も不満はない。

「……ふうん。よき主を得たのだな」

 悠羽は、少し寂しそうな表情を浮かべる。
 悠羽の盾になると息巻いていた子供の烏天狗が、自らの主を見つけて仕えている。かつての壮羽に想いを馳せているのだろうか?

「では、ここに戻ったのは? その主の使いか?」

「ええ。それが無ければ、ここに足を向ける気はありませんでした」
壮羽は、主の西寧からの書状だと、悠羽に一通の書状を渡す。

 目を通して、悠羽が悩む。

 書状の内容は、分かっている。
 軍の組織編成を改変している青虎の国。虎精の中では、武力に長けた国で長年の剣技を培ってきたが、どうにも国内の技術だけでは、画期的な進歩はない。
 だから、武芸に長けた烏天狗の国から、指導者を得て、進歩のきっかけにしたいと。

「壮羽一人では足らんか?」

「私一人では、軍全体を見切れませんので。数名お借りできればと思うのですが」

「虎精の国にねぇ……」

 黄虎の横暴な所業に、虎精の国全体の信頼を失っているのだろう。
 悠羽が簡単にヨシと言わない気持ちは分かる。

「兄上。黄虎の国を制するためにも、必要なのです。黄虎は、勢力を強めて、緑虎の国、青虎の国、それに赤虎の国をも手中に収めようとしている疑いがあります。ですので、青虎の国と烏天狗の里で、武芸交流という名目で親睦をはかり、いざという時には、烏天狗全体の力を借りたいのです」
壮羽は、悠羽に頭を下げる。

 壮羽は、自分が体験した、黄虎の国が緑虎の国を得ようとした作戦のこと、奴隷として生活をしている時に見聞きした明院の人柄、所業。青虎の国の太政大臣にまで、すでに明院が通じていることを訴える。

 静かに悠羽は、それを聞いてきた。
 壮羽が話し終わっても、悠羽はじっと黙っている。

 ……駄目であったか。そう簡単に大切な仲間を、信頼のおけない者に任せることは出来ないということだろう。

「壮羽が信頼している主、西寧王であったか?」

「はい」

「噂では、黒虎の精であるとか」

「いけませんか? 烏天狗の方が黒いくらいですが?」
きょとんとする壮羽に、

「いや、色はどうでもいい。古の占いババアの妄言も信用していない。だが、虎精の間では、問題なのであろう? そんな指導者で、虎精達が付いて来るのか? 肝心の虎精が付いてこなければ、勝機はない」
と、悠羽は指摘する。

 兄の言う通り、西寧が黒虎の精であることで、きっと敵は、悪は西寧の方だと主張して、軍の士気を下げにくるだろう。

「ええ、ですから、烏天狗の権威を使うのです。烏天狗が味方をしているということで、悪しき黒虎の精であるという忌まわしさは軽減されるだろうと」
ニコリと笑いながら、壮羽は言う。

「なんと。はっはっはっ! それは……そうだな。いっそ、四神獣、朱雀様、玄武様、青龍様にも権威を借りに行くか?」

「それも我が主は考えております。自分に正義があるかどうか、それは命がけで戦う兵士には、大切なことです。ですから、四神獣様にも、意向をお伺いに行こうと思っておりますが、そのためにも、烏天狗のお墨付きが必要なのです」

「なるほど……ずいぶん利用しようと言うのだな。まあ、いい。交代で数名、青虎の国に指導に行かせる。それに朱雀様には、この里から使いを出してお伺いを立ててやろう。他の四神獣様は知らん。自分でいたせ」

 悠羽は、サラサラと紙に西寧への返事を書いて、渡してくれた。

「ありがとうございます。……では」

「お、おい? もう帰るのか?」

「ええ、西寧様は、目を離すと何をしでかすのか分かりかねる方ですので、心配でならないのです」
壮羽は、そう苦笑いを悠羽に返して、烏天狗の国を立ち去った。
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