黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

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加護

壮羽の里帰り

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 壮羽は、幾年ぶりかで烏天狗の里に赴いた。
 妖の国の人の国の境目。
 昔は、もっと人の国に寄った場所にあったが、人間と妖の間の亀裂が広がった昨今では、妖の国に寄った場所に烏天狗の里はある。
 
 妖術の籠った鬱蒼うっそうとした森。羽を持つ妖の多く住む、朱雀の支配下に近い場所。
 その場所に足を踏み入れられるのは、烏天狗の仲間か特別な許可を得た者のみ。
 里の入り口に壮羽が立てば、烏天狗の使い魔の烏が、無数にこちらを見ている。

「虎精の国から壮羽が帰った! 里に入ることを許可されたし!」 

 壮羽がそう叫べば、烏がざわめく。 
 死んだものとされていた者の帰還。烏が疑っているのだろう。
 なかなか里に入る許可は下りない。

 ……出直そうか

 壮羽が諦めかけたときに、

「壮羽! まこと、壮羽か!!」

 周囲の者に引き留められながら、こちらに物凄い勢いで飛んでくる烏天狗の男がある。一番食い下がっている年老いた烏天狗と、なにやら大声で言い合っている。

「悠羽! 敵に罠かも知れません! 相手は、あの虎精の国から来た者!! 里とは友好的ではございません!」

「ええい! まことに壮羽であったらどうする? ここで追い返して二度と戻って来なければ、お前を七度《ななたび》の炎で焼き殺すぞ!」

「しかし、壮羽様であったとしても、その目的が分かりません。悠羽様が、このように入り口に出迎えるのは、危険です!」

 なにやら揉めている。

「あ、兄上?」

 一族の長になったと聞いていたのだが? 族長が、このように里の表にまで出てくるのは、そうとうおかしい。
 だが、その羽、その顔は、確かに悠羽だ。
 子どもの頃に見たよりもずっと老けて貫禄はあるが、見間違えようはない。

「壮羽だ! 大きゅうなった! なんと、壮羽が戻ってきおった!」

 大はしゃぎの悠羽が、壮羽を抱きしめる。一族の長とは思えない悠羽の無防備さ。この人懐っこさ、無防備さは、西寧に通じる物がある……。相手が悪しき者であったらどうするつもりなのか……。腹が立ってくる。

「いけません! 兄上! そのように素性の分からない人物に抱きつくなど! 私が、兄上の暗殺を目論んでいたとしたら、いかがするおつもりですか!! 一族の長として、もっと危機感を持ってお過ごしください!」
壮羽は、悠羽を叱る。

「そ、その通りです、悠羽様。壮羽様の言う通りです。外部の者をそのようにすぐに信用なされるのは、真に危険!」
悠羽と揉めていた年老いた臣下も、壮羽の言葉に同調する。

「ほら、平気だ。あの壮羽が、そんな逆心を持つわけがない」
悠羽は、優しくニコリと笑った。

 悠羽に案内されて、悠羽の家に赴けば、悠羽の妻と子どもが挨拶に出てくる。
 五歳になったばかり幼子、名を『壮羽』というらしい。

「すまんな。死んだと聞かされ、お前のような優れた子に育つようにと思ったものでな……ややこしければ、改名させる」
兄が、頭を掻く。

 兄が、自分の名前を子どもに付けてくれていたなんて。
 壮羽は、離れていても忘れないでいてくれた兄の心が嬉しくなる。

「いいえ。もし改名が必要ならば、私がいたしましょう。この烏天狗の里で兄上の傍に『壮羽』がいてくれるなら安心です」

「……ということは、やはり烏天狗の里には、このまま残る気はないと?」

「はい、青虎の国に主を得ました。今は、青虎の国の西寧王に仕えております」

 壮羽の言葉に、悠羽が眉をひそめる。
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