黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

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統治

失敗の後始末

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 黄虎の国では、上機嫌な明院に、配下の者が怯えていた。
 上機嫌になるはずがないのだ。
 大切な仕事で失敗したのだから。
 明院は、その失敗の報告書を読んでいる最中。眉間に皺を寄せて読み始めた報告書の途中で、急にこのように機嫌が良くなったのだ。

「あの……明院様? 何か良いことがございましたか?」
おずおずと材木相場の案件を担当した者が、鼻歌まじりの明院に声をかける。

「もう見つからないと思った原石が、勝手に磨かれて宝石になって見つかった。後は、これをどのようにして取り戻すかだが……まあ、それは後で算段するから良い。今は、この材木相場の損失についてだったな」

 明院が報告書を閉じる。
 良かった。必ず利を得るはずの仕事で思わぬ邪魔が入り、損失をだしてしまった。これ以上どう頑張っても、利益に結び付けることができず、仕方なしに損失の報告に来たのだ。
 明院の指示を仰がなければ、損失はもっと大きくなる。
 明院の怒りは怖くとも、どうにもならなくなる前にと思っての、覚悟の報告であったが、これほど機嫌が良いのであれば、思っていたほどの叱責は無いかも知れない。

「そうだな……今までの実績もあるし、無下に裁くのもあまりにも冷酷。……では、選ばせてやろう。今すぐ、一族全員の首を刎ねるか、大切な仕事を一つ引き受けるか。最期のチャンスと思え」
ニコニコと笑いながら明院は、とんでもない事をいう。

 選択の余地など無い。
 おそらく過酷であろう仕事を引き受けろと言っているのだ。
 そして、もし、その仕事に失敗したり、男が途中で逃げたりすれば、一族全員の首を刎ねると言っているのだ。

「あ、有難き幸せにございます」
男は、震える声で、微塵も思っていないことを口にした。

 男の命じられた仕事は、隣国で国王になったばかりの青二才、不吉の黒虎である西寧王の誘拐であった。

 一国の国王の誘拐。その結果、考えられるのは、黄虎の国と青虎の国の全面戦争。
 それを回避しつつ、西寧王の身柄をこちらに確保しろと、明院は言っているのだ。

 最悪、殺しても構わない。その場合は、必ず首級しるしを持ってくるように。
 明院は、近所に使いにでも出すような気軽さで、男にそう言って笑った。

 これも、黄虎の国の繁栄のため……ひいては、いつか戻ってくる覇王、白虎王のため。そう信じて、明院の命じる黒い仕事を数多あまたこなしてきた。
 今さら、その信念を曲げるには、遅すぎる。

 夜風に、いつかの戦で失った右薬指がうずくのを感じながら、前途の危うさに男はくしゃみを一つした。
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