30 / 40
統治
形だけの夫婦
しおりを挟む
一ヶ月ぶりに訪れる正妃の間。
市場の設立、明院の材木相場の動向、学び舎建設と忙しくて、どうしても時間が取れずに放りっぱなしにしていた。
だが、向こうだって、黒い虎精だと西寧を嫌っているはずだ。半年たっても、変わらない関係。正妃の間に行って、西寧は、ただ扉の近くの椅子に座って、玉蓮と話をするだけ。
顔を見せないくらいの方が、清々しているのではないだろうか?
それほど気にも留めないで、「邪魔する!」と気軽に扉を開ければ、玉蓮に睨まれる。
「す、すまん。何かの最中であったか? では、また出直して来よう」
慌てて西寧が外へ出ようとすると、
「お待ちください!」
と玉蓮に呼び止められる。
「なんだ? 何か要望か?」
玉蓮には、結婚した当初に、離婚したくなったらいつでも言えと申し付けている。いよいよ他に好きな男でも出来て、西寧との婚姻は破棄したくなったか。
もとより、いつかはそうなるだろうと思っていたのだから、そうならば、さっさと言えばいい。
「一言!一言、謝ろうとは、お思いにならないのですか!!」
「えっと、何をだ?」
心当たりは沢山あり過ぎて、困る。
前回玉蓮に叱られたのは、同じ服ばかり式典に着るなということだった。玉蓮が季節や式典の内容によって趣向を凝らしているのに、夫である西寧がそれでは、困ると言うのだ。『クソダサい』その一言で一蹴された。
いや、しかし、経費のことを考えれば、衣装にそんなに毎回大金を使うのは困る。できれば、王宮の出費は爪に火を灯すように、ギリギリまで押さえたい。だが、深窓の令嬢として育った玉蓮には辛いかと思って、玉蓮にキツイことを言わなかった。それで勘弁してほしいのだが……。
反論すれば、三倍にも四倍にもなって返ってくる。
とても、口に出す勇気は、西寧にはない。
さて、今回は何が勘にさわったのか……
「何をだって、正妃を一ヶ月も放りっぱなしにする国王がありますか? 前代未聞です!」
「それは……その、すまん」
「何がですか?」
「え? 一ヶ月放りっぱなしにしたことであろう?」
「だから、それの何が駄目なのか! ちゃんと分かっておいでですか?」
玉蓮の剣幕に、西寧は押される。
まだ、明院の動向の方が、読み切れる。
こんな訳の分からない理屈に、どう対応すればよいのか……。
「そうだな。正妃として、体裁が悪かったとか? 周囲の者に、何か言われて気まずかったとか?」
名目だけの夫婦であっても、そういうことは、あるだろう。たぶん。
「まるでお分かりでない!! もういいです!」
玉蓮は、怒りのままにそう叫んで、奥の間に引きこもってしまった。
なんなんだ。一体……。
とりあえず、玉蓮が引きこもってしまったのでは、ここにいる意味はないはず……。
また、時間を空けて訪れようかと、西寧が帰り支度をはじめると、奥から玉蓮が顔出す。
「帰ろうとなさっているだなんて!! そういう所です! もう少し機微という物を、理解して下さい!」
と、また叱られた。
市場の設立、明院の材木相場の動向、学び舎建設と忙しくて、どうしても時間が取れずに放りっぱなしにしていた。
だが、向こうだって、黒い虎精だと西寧を嫌っているはずだ。半年たっても、変わらない関係。正妃の間に行って、西寧は、ただ扉の近くの椅子に座って、玉蓮と話をするだけ。
顔を見せないくらいの方が、清々しているのではないだろうか?
それほど気にも留めないで、「邪魔する!」と気軽に扉を開ければ、玉蓮に睨まれる。
「す、すまん。何かの最中であったか? では、また出直して来よう」
慌てて西寧が外へ出ようとすると、
「お待ちください!」
と玉蓮に呼び止められる。
「なんだ? 何か要望か?」
玉蓮には、結婚した当初に、離婚したくなったらいつでも言えと申し付けている。いよいよ他に好きな男でも出来て、西寧との婚姻は破棄したくなったか。
もとより、いつかはそうなるだろうと思っていたのだから、そうならば、さっさと言えばいい。
「一言!一言、謝ろうとは、お思いにならないのですか!!」
「えっと、何をだ?」
心当たりは沢山あり過ぎて、困る。
前回玉蓮に叱られたのは、同じ服ばかり式典に着るなということだった。玉蓮が季節や式典の内容によって趣向を凝らしているのに、夫である西寧がそれでは、困ると言うのだ。『クソダサい』その一言で一蹴された。
いや、しかし、経費のことを考えれば、衣装にそんなに毎回大金を使うのは困る。できれば、王宮の出費は爪に火を灯すように、ギリギリまで押さえたい。だが、深窓の令嬢として育った玉蓮には辛いかと思って、玉蓮にキツイことを言わなかった。それで勘弁してほしいのだが……。
反論すれば、三倍にも四倍にもなって返ってくる。
とても、口に出す勇気は、西寧にはない。
さて、今回は何が勘にさわったのか……
「何をだって、正妃を一ヶ月も放りっぱなしにする国王がありますか? 前代未聞です!」
「それは……その、すまん」
「何がですか?」
「え? 一ヶ月放りっぱなしにしたことであろう?」
「だから、それの何が駄目なのか! ちゃんと分かっておいでですか?」
玉蓮の剣幕に、西寧は押される。
まだ、明院の動向の方が、読み切れる。
こんな訳の分からない理屈に、どう対応すればよいのか……。
「そうだな。正妃として、体裁が悪かったとか? 周囲の者に、何か言われて気まずかったとか?」
名目だけの夫婦であっても、そういうことは、あるだろう。たぶん。
「まるでお分かりでない!! もういいです!」
玉蓮は、怒りのままにそう叫んで、奥の間に引きこもってしまった。
なんなんだ。一体……。
とりあえず、玉蓮が引きこもってしまったのでは、ここにいる意味はないはず……。
また、時間を空けて訪れようかと、西寧が帰り支度をはじめると、奥から玉蓮が顔出す。
「帰ろうとなさっているだなんて!! そういう所です! もう少し機微という物を、理解して下さい!」
と、また叱られた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる