黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

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統治

形だけの夫婦

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 一ヶ月ぶりに訪れる正妃の間。
 市場の設立、明院の材木相場の動向、学び舎建設と忙しくて、どうしても時間が取れずに放りっぱなしにしていた。

 だが、向こうだって、黒い虎精だと西寧を嫌っているはずだ。半年たっても、変わらない関係。正妃の間に行って、西寧は、ただ扉の近くの椅子に座って、玉蓮と話をするだけ。
 顔を見せないくらいの方が、清々しているのではないだろうか?
 それほど気にも留めないで、「邪魔する!」と気軽に扉を開ければ、玉蓮に睨まれる。

「す、すまん。何かの最中であったか? では、また出直して来よう」
慌てて西寧が外へ出ようとすると、

「お待ちください!」
と玉蓮に呼び止められる。

「なんだ? 何か要望か?」

 玉蓮には、結婚した当初に、離婚したくなったらいつでも言えと申し付けている。いよいよ他に好きな男でも出来て、西寧との婚姻は破棄したくなったか。
 もとより、いつかはそうなるだろうと思っていたのだから、そうならば、さっさと言えばいい。

「一言!一言、謝ろうとは、お思いにならないのですか!!」

「えっと、何をだ?」
心当たりは沢山あり過ぎて、困る。

 前回玉蓮に叱られたのは、同じ服ばかり式典に着るなということだった。玉蓮が季節や式典の内容によって趣向を凝らしているのに、夫である西寧がそれでは、困ると言うのだ。『クソダサい』その一言で一蹴された。

 いや、しかし、経費のことを考えれば、衣装にそんなに毎回大金を使うのは困る。できれば、王宮の出費は爪に火を灯すように、ギリギリまで押さえたい。だが、深窓の令嬢として育った玉蓮には辛いかと思って、玉蓮にキツイことを言わなかった。それで勘弁してほしいのだが……。

 反論すれば、三倍にも四倍にもなって返ってくる。
 とても、口に出す勇気は、西寧にはない。

 さて、今回は何が勘にさわったのか……

「何をだって、正妃を一ヶ月も放りっぱなしにする国王がありますか? 前代未聞です!」

「それは……その、すまん」

「何がですか?」

「え? 一ヶ月放りっぱなしにしたことであろう?」

「だから、それの何が駄目なのか! ちゃんと分かっておいでですか?」

 玉蓮の剣幕に、西寧は押される。
 まだ、明院の動向の方が、読み切れる。
 こんな訳の分からない理屈に、どう対応すればよいのか……。

「そうだな。正妃として、体裁が悪かったとか? 周囲の者に、何か言われて気まずかったとか?」
名目だけの夫婦であっても、そういうことは、あるだろう。たぶん。

「まるでお分かりでない!! もういいです!」
玉蓮は、怒りのままにそう叫んで、奥の間に引きこもってしまった。

 なんなんだ。一体……。

 とりあえず、玉蓮が引きこもってしまったのでは、ここにいる意味はないはず……。
 また、時間を空けて訪れようかと、西寧が帰り支度をはじめると、奥から玉蓮が顔出す。

「帰ろうとなさっているだなんて!! そういう所です! もう少し機微という物を、理解して下さい!」
と、また叱られた。
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