黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

文字の大きさ
上 下
13 / 40
立ち向かう者達

青虎の国の壮羽

しおりを挟む
 壮羽は、奴隷として青虎の国で、青虎の国の貴族の元で暮らしていた。
 太政大臣の腰巾着。 
 より権力がある者にヘコヘコして、壮羽のような立場の弱い者を顎で使って暮らしている男であった。『小物』そんな言葉が相応しいと、壮羽は、男を見て思っていた。
 だが、金で買われたとはいえ、主である。壮羽は、男に従い、命じられるままに仕事をこなした。
 真面目な壮羽。心にしみついた烏天狗としての誇りがそうさせていた。

「そこで待っていろ」

 壮羽の主は、馴染みの女の店の前で、壮羽を待たせた。
 壮羽は、言われるままに、立っていた。前回は、店の中で、主と女がいちゃついているのを、ずっと見せられたまま、待たされていた。今回は、店の外ならば、まだマシである。

「ねえ。遊んでいかないの?」

 そんな所に立っていると、客引きの女が声を掛けてくる。店の前だ。当然だ。

「いえ、主を待っています。仕事中ですので」
壮羽が断ると、女が、壮羽の顔を覗き込んでくる。

「失礼。商売の邪魔になりますか。少し横に逸れますね」
壮羽が、店の脇に身を寄せても、女がついて来る。

「何でしょう?」

 たまらず壮羽が女に聞くと、虎精の女がニコリと笑う。

「ねえ、堅物のあなたを落としたら、ご褒美をくれるって、あなたの主に言われているの。落とされてくれる?」

 こっそりと耳打ちされる。どうやら、どこからか主が見ていて、壮羽が困るのを楽しんでいるようだった。
 悪趣味だ。
 フウン。
 今の主は、どうやら思っていた以上に相当な小物らしい。

「いいですよ」

 壮羽が、女を抱きしめて、黒い翼を広げて周囲の目線から自分たちを隠すと、そのままキスをする。
 烏天狗の妖力をそのまま女に注ぎ込む。
 妖力は、精神を清らかにして磨けば磨くほど旨くなると聞く。しかも、烏天狗の妖力は、独特の香りがする。
 しばらくして、壮羽が手を離せば、女は、そこに崩れ落ちてしまった。
 初めて味わう烏天狗の妖力に、腰が抜けてしまったのだろう。

「大丈夫ですか。お嬢さん?」

 ニコリと壮羽は笑う。切込みを入れられて満足に飛べない翼を戻して、壮羽は、女を抱きかかえる。

「こちらのお嬢さんが、貧血で倒れてしまいました。具合が悪いようですので、店の奥で休ませてあげて下さい」

 店の入り口に立っていた黒服に、女を渡す。
 女は、まだ、呆然としている。呆然としたまま、黒服に抱えられて奥に引っ込んでしまった。
 壮羽は、また、外に戻り、警護に戻る。じきに、主が戻ってくるだろう。体調が悪くなったのならば、女も余興が失敗したことを咎められることもないはずだ。
 ひょっとしたら、興ざめだと、壮羽が主に叱られるかもしれない。
 構わない。

 下らない酒の肴にされる位ならば、主の不興を買って罰を受けた方がいい。
 冷めた目で、冷え切った心で外を見つめていると、壮羽を見つめる目線に気づく。金の真っすぐの瞳。布で顔を隠してはいるが、見覚えがある。

 西寧様……?

 壮羽の心が震える。
 生きていた。良かった。
 声を掛けようとして、思いとどまる。壮羽の主は、西寧を探している。目的は知らないが、きっとろくでもないこと。「ニゲテ」壮羽は、口パクで、それだけを伝える。これ以上は、危険だ。壮羽は、きっと、監視されている。
 西寧の瞳が、ニコリと笑う。西寧は、クルリと後ろを向くと、そのまま、行ってしまった。良かった。きっと、意図は伝わった。あの子は、聡明だ。もう、自分の姿を見ても、近づいてくることは、二度とないだろう。それでいい。生きていることさえ分かれば、満足だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...