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立ち向かう者達
青虎の国の壮羽
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壮羽は、奴隷として青虎の国で、青虎の国の貴族の元で暮らしていた。
太政大臣の腰巾着。
より権力がある者にヘコヘコして、壮羽のような立場の弱い者を顎で使って暮らしている男であった。『小物』そんな言葉が相応しいと、壮羽は、男を見て思っていた。
だが、金で買われたとはいえ、主である。壮羽は、男に従い、命じられるままに仕事をこなした。
真面目な壮羽。心にしみついた烏天狗としての誇りがそうさせていた。
「そこで待っていろ」
壮羽の主は、馴染みの女の店の前で、壮羽を待たせた。
壮羽は、言われるままに、立っていた。前回は、店の中で、主と女がいちゃついているのを、ずっと見せられたまま、待たされていた。今回は、店の外ならば、まだマシである。
「ねえ。遊んでいかないの?」
そんな所に立っていると、客引きの女が声を掛けてくる。店の前だ。当然だ。
「いえ、主を待っています。仕事中ですので」
壮羽が断ると、女が、壮羽の顔を覗き込んでくる。
「失礼。商売の邪魔になりますか。少し横に逸れますね」
壮羽が、店の脇に身を寄せても、女がついて来る。
「何でしょう?」
たまらず壮羽が女に聞くと、虎精の女がニコリと笑う。
「ねえ、堅物のあなたを落としたら、ご褒美をくれるって、あなたの主に言われているの。落とされてくれる?」
こっそりと耳打ちされる。どうやら、どこからか主が見ていて、壮羽が困るのを楽しんでいるようだった。
悪趣味だ。
フウン。
今の主は、どうやら思っていた以上に相当な小物らしい。
「いいですよ」
壮羽が、女を抱きしめて、黒い翼を広げて周囲の目線から自分たちを隠すと、そのままキスをする。
烏天狗の妖力をそのまま女に注ぎ込む。
妖力は、精神を清らかにして磨けば磨くほど旨くなると聞く。しかも、烏天狗の妖力は、独特の香りがする。
しばらくして、壮羽が手を離せば、女は、そこに崩れ落ちてしまった。
初めて味わう烏天狗の妖力に、腰が抜けてしまったのだろう。
「大丈夫ですか。お嬢さん?」
ニコリと壮羽は笑う。切込みを入れられて満足に飛べない翼を戻して、壮羽は、女を抱きかかえる。
「こちらのお嬢さんが、貧血で倒れてしまいました。具合が悪いようですので、店の奥で休ませてあげて下さい」
店の入り口に立っていた黒服に、女を渡す。
女は、まだ、呆然としている。呆然としたまま、黒服に抱えられて奥に引っ込んでしまった。
壮羽は、また、外に戻り、警護に戻る。じきに、主が戻ってくるだろう。体調が悪くなったのならば、女も余興が失敗したことを咎められることもないはずだ。
ひょっとしたら、興ざめだと、壮羽が主に叱られるかもしれない。
構わない。
下らない酒の肴にされる位ならば、主の不興を買って罰を受けた方がいい。
冷めた目で、冷え切った心で外を見つめていると、壮羽を見つめる目線に気づく。金の真っすぐの瞳。布で顔を隠してはいるが、見覚えがある。
西寧様……?
壮羽の心が震える。
生きていた。良かった。
声を掛けようとして、思いとどまる。壮羽の主は、西寧を探している。目的は知らないが、きっとろくでもないこと。「ニゲテ」壮羽は、口パクで、それだけを伝える。これ以上は、危険だ。壮羽は、きっと、監視されている。
西寧の瞳が、ニコリと笑う。西寧は、クルリと後ろを向くと、そのまま、行ってしまった。良かった。きっと、意図は伝わった。あの子は、聡明だ。もう、自分の姿を見ても、近づいてくることは、二度とないだろう。それでいい。生きていることさえ分かれば、満足だった。
太政大臣の腰巾着。
より権力がある者にヘコヘコして、壮羽のような立場の弱い者を顎で使って暮らしている男であった。『小物』そんな言葉が相応しいと、壮羽は、男を見て思っていた。
だが、金で買われたとはいえ、主である。壮羽は、男に従い、命じられるままに仕事をこなした。
真面目な壮羽。心にしみついた烏天狗としての誇りがそうさせていた。
「そこで待っていろ」
壮羽の主は、馴染みの女の店の前で、壮羽を待たせた。
壮羽は、言われるままに、立っていた。前回は、店の中で、主と女がいちゃついているのを、ずっと見せられたまま、待たされていた。今回は、店の外ならば、まだマシである。
「ねえ。遊んでいかないの?」
そんな所に立っていると、客引きの女が声を掛けてくる。店の前だ。当然だ。
「いえ、主を待っています。仕事中ですので」
壮羽が断ると、女が、壮羽の顔を覗き込んでくる。
「失礼。商売の邪魔になりますか。少し横に逸れますね」
壮羽が、店の脇に身を寄せても、女がついて来る。
「何でしょう?」
たまらず壮羽が女に聞くと、虎精の女がニコリと笑う。
「ねえ、堅物のあなたを落としたら、ご褒美をくれるって、あなたの主に言われているの。落とされてくれる?」
こっそりと耳打ちされる。どうやら、どこからか主が見ていて、壮羽が困るのを楽しんでいるようだった。
悪趣味だ。
フウン。
今の主は、どうやら思っていた以上に相当な小物らしい。
「いいですよ」
壮羽が、女を抱きしめて、黒い翼を広げて周囲の目線から自分たちを隠すと、そのままキスをする。
烏天狗の妖力をそのまま女に注ぎ込む。
妖力は、精神を清らかにして磨けば磨くほど旨くなると聞く。しかも、烏天狗の妖力は、独特の香りがする。
しばらくして、壮羽が手を離せば、女は、そこに崩れ落ちてしまった。
初めて味わう烏天狗の妖力に、腰が抜けてしまったのだろう。
「大丈夫ですか。お嬢さん?」
ニコリと壮羽は笑う。切込みを入れられて満足に飛べない翼を戻して、壮羽は、女を抱きかかえる。
「こちらのお嬢さんが、貧血で倒れてしまいました。具合が悪いようですので、店の奥で休ませてあげて下さい」
店の入り口に立っていた黒服に、女を渡す。
女は、まだ、呆然としている。呆然としたまま、黒服に抱えられて奥に引っ込んでしまった。
壮羽は、また、外に戻り、警護に戻る。じきに、主が戻ってくるだろう。体調が悪くなったのならば、女も余興が失敗したことを咎められることもないはずだ。
ひょっとしたら、興ざめだと、壮羽が主に叱られるかもしれない。
構わない。
下らない酒の肴にされる位ならば、主の不興を買って罰を受けた方がいい。
冷めた目で、冷え切った心で外を見つめていると、壮羽を見つめる目線に気づく。金の真っすぐの瞳。布で顔を隠してはいるが、見覚えがある。
西寧様……?
壮羽の心が震える。
生きていた。良かった。
声を掛けようとして、思いとどまる。壮羽の主は、西寧を探している。目的は知らないが、きっとろくでもないこと。「ニゲテ」壮羽は、口パクで、それだけを伝える。これ以上は、危険だ。壮羽は、きっと、監視されている。
西寧の瞳が、ニコリと笑う。西寧は、クルリと後ろを向くと、そのまま、行ってしまった。良かった。きっと、意図は伝わった。あの子は、聡明だ。もう、自分の姿を見ても、近づいてくることは、二度とないだろう。それでいい。生きていることさえ分かれば、満足だった。
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