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それぞれの成長
副店長の男
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程なく、西寧は、商人に雑貨を扱う店を一つ任せられることになった。
子どもである西寧が店長の店。繁華街にあり、何か珍しいことをしないと生き残れないような場所にある店に、話題作りの客寄せとして、西寧を利用しようということだった。
子どもの西寧が、何もしなくても、大人の店員達が居れば、損はしないだろう。これが商人の考えだった。
副店長として、商人の気に入りの男が西寧の目付け役に付いた。
商才の無い男だと、西寧は、副店長の男を評していた。時流や客の流れを見ず、型通りのことだけを繰り返そうとする。何か変化があっても、なぜそうなったのか、分析しようともせず、担当の者が悪いと怒鳴り散らす。ただ、目上の者に対して、おべっかを使うのが上手いだけの男。
そんな奴に仕事を任せれば、きっと何か問題を発生させる。
西寧は、なんだかんだ理由を付けて、男に一目を置いている振りをして、副店長の仕事減らし、なるべく業務に関わらせないように心を砕いた。
副店長は、ある日、とんでもなく高価な衣を着て、ふんぞり返って店に来た。
開店してから何時間も経っているから、遅刻だ。
他の者への配慮も会って、西寧は、一声注意した。
「とにかく、出店時間だけは、守っていただかないと、困ります。何かあったのですか?」
西寧が、副店長にそう言えば、
「うるさい。小僧。偉そうにしやがって」
と、副店長の男に叱られた。
理不尽だ。
「私が偉そうなのと、貴方の遅刻は関係ありませんよね?」
正論をぶつければ、
「そういう所が生意気なんだ」
と、副店長の男が、肩を震わす。
なんて言おうかと西寧が考えあぐねていると、
「いいか。俺は、商人のお嬢様の婚約者になった」
と、言い出した。
「それは、おめでとうございます。では、今日の遅刻は、その婚約の手続きですか? それならば、事前に……」
「やかましい。いずれお前は、俺の部下になる。俺は、あの商人の後継者だ!」
副店長は、そう言って、仕事もせずに帰って行った。
周囲の店員は、ざわつき、西寧に同情していたが、西寧は、心からよかったと思った。
「お前が黒い虎でなかったら、娘の婿にした。娘が、どうしても黒い虎は嫌だと言う」
昔、商人にそう言われたことがあった。
西寧が店で信頼を勝ち取っていく姿を見て、商人は、自分の娘に聞いてみたのだという。
商人の娘は、汚い物でも見るような眼で西寧を見ていた。西寧は、ただ毛並みが黒いというだけで、理不尽な目を向ける者は大嫌いだった。物事を表面でしか見ていない証拠だと思った。そんな者を伴侶にすれば、先々どのような障害に見舞われるか分からない。だから、商人の娘の婿になぞ、死んでもなりたくはなかった。
もし黒い虎でなければ、娘と結婚させられていた。
ゾッとする。
だから、この副店長の男と縁談が決まったのだと聞いてホッとした。
男は、商人の後継者となって、ますます仕事をさぼるようになったので、西寧は動きやすくなり、順調に店を運営していた。
店員たちは、小さな西寧が、ちょこちょこ店を走り回りながら、色々なことに気を配っていることに驚いた。
この値段の表示では、年寄りには読めない。もう少し大きくしてくれ。そろそろ秋になる。冬の準備品を店頭に増やしてくれ。そんな細かなことまで指示してくると思えば、店員達の意見もしっかり聞いて良いと思ったことはどんどん採用して、一緒になって工夫を考えて運営してくれたので、店員もやりがいを持ってまだ小さな西寧に様々なアイデアを提案した。
客の目を引く工夫も見事だった。
店頭に、遠方で仕入れた一点物の珍しい品を、週替わりで展示販売した。客は、その品見たさに、定期的に足を運ぶ。それが、自分が店に行く前に売り切れていれば悔しがり、さらに足しげく通うようになる。西寧は、自分の店に来る客の好みをしっかり観察して、自分で仕入れから展示の指示にまで気を配った。それが的確で、西寧の任された店はどの店よりも利益を出したので、商人は、驚いた。
全ては、順調に動いているように思えていた。
しかし、事態は、西寧の思っていた以上に深刻な方向に動き出した。
突然、西寧は、金で見ず知らずの男に買われてしまったのだ。手かせ足かせを嵌められて、西寧は、罪人のように連行された。
子どもである西寧が店長の店。繁華街にあり、何か珍しいことをしないと生き残れないような場所にある店に、話題作りの客寄せとして、西寧を利用しようということだった。
子どもの西寧が、何もしなくても、大人の店員達が居れば、損はしないだろう。これが商人の考えだった。
副店長として、商人の気に入りの男が西寧の目付け役に付いた。
商才の無い男だと、西寧は、副店長の男を評していた。時流や客の流れを見ず、型通りのことだけを繰り返そうとする。何か変化があっても、なぜそうなったのか、分析しようともせず、担当の者が悪いと怒鳴り散らす。ただ、目上の者に対して、おべっかを使うのが上手いだけの男。
そんな奴に仕事を任せれば、きっと何か問題を発生させる。
西寧は、なんだかんだ理由を付けて、男に一目を置いている振りをして、副店長の仕事減らし、なるべく業務に関わらせないように心を砕いた。
副店長は、ある日、とんでもなく高価な衣を着て、ふんぞり返って店に来た。
開店してから何時間も経っているから、遅刻だ。
他の者への配慮も会って、西寧は、一声注意した。
「とにかく、出店時間だけは、守っていただかないと、困ります。何かあったのですか?」
西寧が、副店長にそう言えば、
「うるさい。小僧。偉そうにしやがって」
と、副店長の男に叱られた。
理不尽だ。
「私が偉そうなのと、貴方の遅刻は関係ありませんよね?」
正論をぶつければ、
「そういう所が生意気なんだ」
と、副店長の男が、肩を震わす。
なんて言おうかと西寧が考えあぐねていると、
「いいか。俺は、商人のお嬢様の婚約者になった」
と、言い出した。
「それは、おめでとうございます。では、今日の遅刻は、その婚約の手続きですか? それならば、事前に……」
「やかましい。いずれお前は、俺の部下になる。俺は、あの商人の後継者だ!」
副店長は、そう言って、仕事もせずに帰って行った。
周囲の店員は、ざわつき、西寧に同情していたが、西寧は、心からよかったと思った。
「お前が黒い虎でなかったら、娘の婿にした。娘が、どうしても黒い虎は嫌だと言う」
昔、商人にそう言われたことがあった。
西寧が店で信頼を勝ち取っていく姿を見て、商人は、自分の娘に聞いてみたのだという。
商人の娘は、汚い物でも見るような眼で西寧を見ていた。西寧は、ただ毛並みが黒いというだけで、理不尽な目を向ける者は大嫌いだった。物事を表面でしか見ていない証拠だと思った。そんな者を伴侶にすれば、先々どのような障害に見舞われるか分からない。だから、商人の娘の婿になぞ、死んでもなりたくはなかった。
もし黒い虎でなければ、娘と結婚させられていた。
ゾッとする。
だから、この副店長の男と縁談が決まったのだと聞いてホッとした。
男は、商人の後継者となって、ますます仕事をさぼるようになったので、西寧は動きやすくなり、順調に店を運営していた。
店員たちは、小さな西寧が、ちょこちょこ店を走り回りながら、色々なことに気を配っていることに驚いた。
この値段の表示では、年寄りには読めない。もう少し大きくしてくれ。そろそろ秋になる。冬の準備品を店頭に増やしてくれ。そんな細かなことまで指示してくると思えば、店員達の意見もしっかり聞いて良いと思ったことはどんどん採用して、一緒になって工夫を考えて運営してくれたので、店員もやりがいを持ってまだ小さな西寧に様々なアイデアを提案した。
客の目を引く工夫も見事だった。
店頭に、遠方で仕入れた一点物の珍しい品を、週替わりで展示販売した。客は、その品見たさに、定期的に足を運ぶ。それが、自分が店に行く前に売り切れていれば悔しがり、さらに足しげく通うようになる。西寧は、自分の店に来る客の好みをしっかり観察して、自分で仕入れから展示の指示にまで気を配った。それが的確で、西寧の任された店はどの店よりも利益を出したので、商人は、驚いた。
全ては、順調に動いているように思えていた。
しかし、事態は、西寧の思っていた以上に深刻な方向に動き出した。
突然、西寧は、金で見ず知らずの男に買われてしまったのだ。手かせ足かせを嵌められて、西寧は、罪人のように連行された。
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