異世界から来た自分の分身が邪悪過ぎるのだけれどどうしたらいい?

ねこ沢ふたよ

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2異世界

挿絵 グリフォン

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 清人が忍を振り返る。その顔には心配と危機感が浮かんでいた。

「忍さん、峪口の双子、しばらく休ませらんねぇの? このまま伊吹に探り入れさせんのは危険だ」

 智颯と瑞悠の二人は、恐らくターゲットであろうという立場を利用して、伊吹保輔を捜査する任務も担っている。

「そうだな、出雲に行かせるか」

 忍が、ぽつりと呟いた。
 ぽかんとする面々の顔を見上げて、顔を顰めた。

「忘れたか? 神在月だ。今年は旧暦が約一カ月ズレたから、そろそろ宴が始まる。頃合いとしては、ちょうどいい。梛木はもう向かったぞ」
「あ、そっか。もうそんな時期だ」

 直桜は、ぽんと手を叩いた。
 色々あり過ぎて、すっかり忘れていた。

「本当は直桜たちを先に行かせたかったんだがな。神具造りのため、大国主と少彦名命に助言をもらってきてほしかった」

 神具は流離と修吾の浄化のために、護と清人が作らねばならない必須アイテムだ。
 流離と修吾は根の国底の国に堕とした久我山あやめが発する「惟神を殺す毒」に今でも蝕まれている。
 二人を救い出すためには、護の解毒術と清人の浄化術を神具に霊現化して、体に埋め込む必要がある。
 そのための助言を薬祖の神である二柱に請う予定でいた。

「皆で抜ける訳にはいかないもんね。せめて二組には、分けないと」
「今年は新顔が多い。主と眷族はセットで行かせねばならんしな」

 直桜と護、清人と紗月は必ずセット、ということだ。
 助言を貰う算段を考慮に入れると、おのずと組分けが決まってくる。

「それだと組織犯罪対策室が全員抜けるけど、それはいいわけ?」

 清人の問いに、忍が渋い顔をする。

「そこは分かれて行ってこい。組み分けは、こうだ」

 近くにあった紙に、忍がさらさらと組み分けを書く。
 最初が律・智颯・瑞悠組、次いで直桜・護組、最後が清人・紗月組になった。

「俺、初めてなんだけど、初めての二人で行かせる気? 忍さん、本気?」

 清人が心細そうな声で縋っている。
 本気で嫌そうだ。

「梛木が向こうにいるから、心配ないだろう。毎年一カ月帰ってこないから、向こうで会える」
「行き方すら、わかんないんだってば!」
「梛木じゃ、正直会えるかも微妙だよねぇ。普通に楽しんでそうだもん」

 忍の提案は安心材料にはならなかったらしい。
 清人と紗月の心配は的を射ていて反論も出来ない。

「……直桜、二回行ってこい」

 苦肉の策といった表情で、忍が折れた。

「別にいいけど、俺が二回行くより忍が行く方がいいんじゃなの? 四季と二人で久しぶりに顔出して来たら?」

 特殊係に入ってからは参加していなそうだったが、その前なら参加したこともあるだろう。神様レベルの仙人に声が掛からないはずがない。

「班長と副班長が揃って不在には出来ない。あの場所は、一度入ったらなかなか出てこられない」

(やっぱり、行ったことあるんだ。前に話した時は全く無関心だったけど)

 何やら辛そうな表情だ。苦い思い出でもあるのだろうか。

「俺が一緒に行けば早く帰って来られますよ。抱えて出てきますので」

 忍が四季を見上げる。
 その目は、どこか照れているように見える。
 
「もしかしたら、前鬼も来ているかもしれません。久しぶりに、会えるかもしれませんよ」

 さっき、ネットで検索した前鬼だろうか。後鬼である四季に会うのも、相当に久しぶりの様子だった。前鬼にも、きっと長いこと会っていないのだろう。

(自分で気が付いていなそうだけど、四季に会えてすごく嬉しそうに見えるもんな)

 直桜たちには見せない顔を、四季には見せていると感じる。

「俺と護が離れるのもあんまり良くないと思うし、忍が清人を連れてってくれたら、俺は助かるけど。三日くらいで帰ってきてくれたらいいんじゃないの?」

 直桜は護を見上げた。

「そうですね。主が神世に行くのに眷族が現世に残る訳にはいきませんから。忍班長、お願いします」

 護に微笑まれて、忍は言葉を失っていた。

「良い部下に恵まれましたね、忍様。あの頃とはもう、随分と変わったようだ。今ならきっと、大丈夫ですよ」

 四季の言葉に、忍は小さく息を吐き、少しだけ、笑った。

「そうだな。時には神世に遣いに行くのも悪くあるまいな」

 そう話した忍の顔は安堵が昇って見えた。
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