拾ったのが本当に猫かは疑わしい

ねこ沢ふたよ

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1巻

1-3

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     ♢ ♢ ♢


 モドキを病院に連れていった翌日。
 会社の女子トイレで、私は大いに困っていた。
 目の前にいるのは、松本幸恵。
 元カレの正樹の新しい想い人。私の後輩。
 それが、トイレの出入口に立ちはだかって、話があると言って、私を足止めしている。

「ごめん。私からは、何も話はないんだけれども。正樹は煮るなり焼くなり、捨てるなり、付き合うなり、勝手にやっててよ。私には一切関係ないから」

 もじもじと半泣きで立ちはだかる幸恵に困り果てて、本心を言う。

「私、本田先輩が正樹とまだ付き合っていたって知らなくって」

 そう言って、幸恵が泣き始める。
 面倒だな。私になぐさめてほしいのか?

「もう、いいから。私に関わらないで」

 やっぱり面と向かうといかりや悲しみががってしまうから、私の目の届かないところで勝手に生きていてほしい。
 そして、この大変に気まずい状況から脱出したい。

「別れた後も本田先輩が付きまとっているだけだって、正樹、私には言っていたんです。でもあの給湯室の事件の後に、同期の子に二人がまだ付き合っていたって聞いて……ひどくないですか? 私もだまされていたんです」

 目をウルウルさせる幸恵。
 知らんわ。私にそんなことを聞かせるな。この状況で泣きたいのはこっちだ。
 叫び出したい心を必死に抑える。
 きっと、この子はこうやって何かあるたびに泣いて、周りに可愛かわいがってもらってきたのだろう。

『あなたは悪くないよ。悪いのは、あの男』

 私にそう言ってほしいのだろう。
 そうやって、先輩の彼氏を奪ったという罪悪感から逃れたい。そんな意図が透け透けだ。死んでも言うか。甘えるな。

「知らない。そっちの事情は、何度も言うようだけれども、私には関係ないから。正樹があなたにどう言って付き合っていたのか、それが嘘だったとしても本当だったとしても、正直どうでもいい。私には関係ない。巻き込まないで」

 きっぱりハッキリ自分の主張を宣言する。

「本田先輩ひどい。先輩なら、私の気持ち分かってくれると思ったのに」

 号泣する幸恵。もう意味が分からない。
 早くその出入口の前からどけ。私はすみやかに業務に戻りたい。

「正樹、別れた後も私に付きまとって復縁ふくえんを迫るんです。私はもう他の人と仲良くなり掛けているから、いい迷惑なんです。本田先輩がなんとかしてください」

 は?

「いや、もはやどこから突っ込んでいいのやら。ストーカー化してんのか、あいつ。ドン引き通り越して滑稽こっけいだな。松本さんは松本さんで、変わり身早いな。もう次の相手がいるのか。そして、もう一度言おう。私は関係ない」

 早口でまくし立てる。
 しかし、私の言葉は幸恵の耳には全く入らないらしい。

「先輩、私、お願いしましたからね。もう付きまとわないでって言っといてください」

 そう言い残して、幸恵はトイレから去っていった。
 ちょ、待てよ。おい。
 正樹ともう一度話をするぅ……? 嫌なこった。


 会社の帰り、猫様スティックを買って帰ってきた。
 家のかぎを開けていると、隣の部屋の住人に声を掛けられる。

「こんばんは」

 大人しそうな感じの男性がにこやかに会釈えしゃくしてくれる。
 この男性は引っ越してきたときに、蕎麦そばを持って挨拶あいさつに来た。
 確か大学生と言っていた。名前は……柏木かしわぎだった気がする。

「あの、すみません。猫飼っているんですか?」

 柏木が話し掛けてくる。

「あ、すみません。留守中に鳴きましたか?」

 モドキにかぎって、私の留守中にニャアニャアと鳴くことはないと思うのだが、可能性はゼロではない。
 どちらかと言えば、時代劇の決めゼリフに合わせて『成敗せいばい』とか叫んでいそうだ。

「いいえ。その……袋の中の猫様スティックが見えたので」

 あ、確かに。袋の中には、ビールと猫様スティックが入っている。
 まさか、私が猫様スティックをアテにして晩酌ばんしゃくするなんて考えないだろう。
 普通は、猫に猫様スティック。そして、私用にビールと考えるだろう。
 ま、モドキは猫様スティックをアテにして、ビールを飲むのだが。

「ええ。猫、いますよ」

 私がそう言うと、柏木の目がキラキラと輝く。

「モフモフですか?」
「ええ。長毛種ですから」
「長毛種! どんながらですか? 肉球は何色?」
「えっと、白黒の縞々しましまで、肉球はピンク」
「か、可愛かわいい。写真、写真は? てか、一目ご尊顔そんがんが見たい。できれば、モフりたい。猫様スティックあげたい。猫じゃらしで遊びたい」

 どうやら、柏木は猫ガチ勢のようだ。圧がすごい。

「あ……ごめんなさい。猫と聞いて、つい。実家で猫を飼っていて、一人暮らししてからえていたもので……これは、ちょっと駄目だめでした」
「まあ、ちょっとだけなら……部屋にはれないけれども……モドキ!」

 玄関のドアを開けて呼ぶと、モドキが玄関にってくる。
 私以外の人間の気配を感じて、ちゃんと四足歩行で歩き、ニャアと鳴くところが、モドキのかしこいところだ。
 モドキを抱き上げて、柏木に抱かせてあげると、モドキが目で『何をしやがる』と訴えている。

可愛かわいい! 可愛かわいい! 猫だ!」

 モドキの背中に柏木が顔をうずめている。

「モドキちゃん、吸っても?」

 スリスリスリスリと高速でほおずりをして、柏木が満面の笑みで聞いてくる。
 吸う?

「まあ、ちょっとならいいんじゃない?」

 よく分からないままに、適当に返事をする。
 すると、柏木が思いっきりモドキの背中に顔をくっつけて、大きく深呼吸する。
 ああ、聞いたことがある。
 猫ガチ勢の間では、猫は吸うものだと。これがうわさの吸うという行為か。
 初めて会う人間に背中を吸われて、なんとも言えない表情のモドキ。
 顔が硬直している。
 柏木を引きはがそうと体をひねり、前足の肉球で柏木の顔を押して突っ張っている。
 しかし、その肉球の感触すら柏木は嬉しそうで、これはご褒美ほうびにしかなっていなそうだ。
 猫ガチ勢。恐るべし。

「あの、そろそろ……」

 私が手を伸ばすと、恍惚こうこつとしていた柏木が我に返って、名残惜なごりおしそうにモドキを私に返してくれる。
 モドキは、私にしがみつく。

「ありがとうございました」

 ニコリと笑って、柏木は礼を言う。
 悪いやつではなさそうだが、猫相手に完全に愛情が空回りしている。

「ずいぶん、猫好きなんですね」

 少し引き気味で、私は聞く。

「ええ。動物全般大好きで、特に猫に目がなくて」

 動物全般に対してこの態度なのか。すごいな。

「なので、僕、獣医じゅういを目指しているんです」

 柏木の言葉に、モドキが「ヒエッ」と小さな悲鳴を上げていた。


     ♢ ♢ ♢


 それから数日後。
 我が社の経理の仕事にはリズムがある。
 暇なときにはそれなりに時間があるが、今は月末。忙しい時期だ。
 これが決算月になれば、『殺す気か? んのかこら?』と、殺意を覚えるほどの忙しさに進化する。
 とにかく領収書を確認して、締め日までに全ての出入金がとどこおりなく終わるように手配する。私も柿崎も無言で作業を進めていく。

「あのう、本田先輩」

 すると幸恵が話し掛けてきた。

「何? 分からないところがあるの?」

 どんなに忙しくても、後輩が困っているならば、それに応えるのが先輩の役割だ。
 円滑に仕事を片づけるためにも必要なこと。あくまで、業務上の話に限るが。

「この間お願いした件、まだ彼に言ってくれていませんよね? 本当に困るんですけど」

 この間? このあいだ……

「え、どの案件? 交通費の領収書に不備でもあった?」

 そんなの頼まれていたっけ? すっかり忘れているけれども、私が引き受けた件だろうか? ええっと……

「違います。正樹の件です」

 小声で幸恵が私に耳打ちする。

「はあ?」

 割と大きめの声が出てしまった。

「あんた、今言う?」

 ちょっと殺意がく。いや、ちょっとではないか……結構く。
 このてんてこまいな状況が、目に入らないのだろうか。
 てか、そんなこと言ってないで、お前も早く仕事しろ。
 お前の目の前の書類が一刻でも早く片づけば、私の仕事も、もう少し余裕を持って進められるんだ。
 お前がギリギリまで書類を溜め込むから、その後の作業を進める人間の締め切りがタイトになるという事実。どうして気づかないんだ。

「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。ともかく業務を進めてね。その話は、もう少し時間のあるときにしよう」

 言いたいことをギュッと喉の奥にとどめて、角が立たないような言い方を選んで、幸恵に注意する。

「だって先輩、ちっとも正樹を止めてくれないから」

 幸恵がねる。
 本当に私の言うことを一ミリも聞いてないな、お前。
 そもそもその件を、私は引き受けた記憶がない。
 幸恵を無視して、業務を進める。
 ああ早く、モドキに会いたい。
 モドキは手のかからない猫だ。放っておいても勝手に缶詰を開けて食べるし、自分で蛇口をひねって水を出す。
 けれども、六畳にずっと一人きりにして、テレビを観させるなんて、ちょっと可哀想かわいそうだ。できれば早く帰って話をしたい。
 ご飯もモドキが食べるときに一緒に食べたい。晩酌ばんしゃくも一緒にしたい。
 モドキがうちに来てから、私はなるべく早く帰りたいし、無駄むだな時間は過ごしたくない。
 鬼のような速さでキーボードを連打し続けていると、メールが一通届く。
 幸恵からだ。

『今日の昼休み、まず先輩と話をつけるように、正樹に連絡しました。研修室で待っているそうです。よろしくお願いします』

 そう書いてある。
 チラリと幸恵のほうを見ると、鼻歌まじりでのんびりと書類を整理している。
 幸恵の任されている仕事は少ない。
 本人がやる気がなくて覚えないのと、仕事をするのが遅いから、柿崎と私でその分の仕事をこなしている。だから、この時期でもこんなに余裕があるのだ。
 ふざけんな、この女。

『くっそ、マジムカつく』

 心の中で幸恵に対して悪態をつく。いかりでどうにかなってしまいそうだ。
 なんで世間の男は、あんな勝手な女が好きなんだろうか?
 甘やかされるのを当たり前と思って、周囲に無意識に仕事を押し付ける。
 思い通りにいかなければ、すぐに泣いたりねたり。
 落ち着け、おこっても無駄むだだ、無駄むだだから……
 駄目だめだ。忙しくてイライラして、いつもなら我慢できることも気になる。

「幸恵ちゃん、機嫌いいね。ここだけ花が咲いたように明るいよ」

 他部署の男性社員が、通り過ぎ様にそう言う。
 幸恵は「え~、ありがとうございます」なんて、ほがらかに答えている。
 すみませんね、私たちには花がなくて。

「コロス、コロス、コロス、コロス……」

 私の後ろの席の柿崎がのろいの言葉を吐きながら、キーボードを叩き続けている。
 一連の幸恵の言葉は、柿崎にも丸聞こえだったのだろう。

「落ち着け、のろいが口かられているぞ。呪詛じゅそ秘密裏ひみつりにやれ」

 私は柿崎に小声で注意する。

「おうよ。丑三うしみどきに十六ビートで藁人形わらにんぎょうくぎを打つ」

 するとそんな言葉が返ってきた。ノリのいいやつだ。
 柿崎は『彼氏いない歴イコール年齢』の女。
 少し変わっているが、見た目も性格も幸恵の百倍いい。
 この柿崎の良さが分からない世間の男の審美眼しんびがんなんて、たかが知れている。
 そう思うのは、やはりちょっと幸恵に対するねたみや恨みが、私の中にあるからなのだろうか?

「柿崎、あんたはこの部署の誰よりもいい女だよ。私が保証する」
「ありがとう。お前もだ、本田。だが、我々どちらも西根課長には負ける」
「課長はイケメン枠だから」
「納得」

 私と柿崎が二人でお互いをなぐさっていると、幸恵が口をはさんできた。

「先輩、忙しいって言うんなら、私語はひかえたらいかがですか?」

 すげえな、幸恵。メンタルの強さに逆に感心するわ。
 もういいや、なんでも。うん。

「今夜の藁人形わらにんぎょうはヘビメタ並みのヘドバンで、打ちつけてやろうか……」

 幸恵の発言に、私があきらめとさとりの境地に達したとき、ぽそりと柿崎が言った。


 昼休みの研修室。仕方なしに私は正樹に会いに行く。

「なんだよ。話って」

 研修室に着くと、正樹がそう言って、私をにらむ。

「松本さんが仕組んだことだよ。私からお前に話はない」

 私はため息をつく。

「ストーカーされていい迷惑だからやめさせろって。松本さんはもう、他に男がいるんだと言ってた」

 これが用件のはず。
 もう言った。終わった。聞き入れるかは正樹次第。帰っていい?

「はあ? 俺がストーカー? ……俺は、やり直そうって幸恵ちゃんを説得しただけだし。やり直せないなら、今まであげたブランドバッグとか指輪を返してほしいって言っただけ」
「なんだと。ブランドバッグに指輪。それであんたあんなに金欠だったのか。松本さんにたかられて、鼻の下伸ばしてホイホイ買ってあげていたんだ」

 本当にあきれる。気づかなかった自分のにぶさも嫌になる。

あきらめな。あげたものは返ってはこないし、プレゼントなんて見返りを期待してあげるほうが間違っている。次から誰かにみつぐときは、ノーリターン覚悟で渡しな」

 私の言葉に、正樹がムッとしている。納得がいってないんだろう。
 だが、幸恵は相手が誰だろうが、自分に尽くしてくれるのが当然と思っている人間だ。正樹に何をもらっていたとしても、それが特別だなんて思わないし、おごらせた罪悪感なんて微塵みじんも感じていないだろう。
 社内恋愛なんてするものじゃないな。別れた後もなかなか面倒くさい。

「あ、そうだ。合鍵あいかぎ返してよ。私の部屋のかぎ。持ったままでしょ」

 七年も付き合っていたから、合鍵あいかぎも渡していたんだった。不用心にも程がある。
 絶対に返してもらわないと。

「ええ? 本気でお前、俺とさっぱり切れる気なの? もう二十九歳だし、どうせ相手いないんだろ? 保留にしとけば?」
「は? ふざけんな。私をキープにするつもりか。ていうか、私ももう相手いるし」

 口から出まかせ。恋愛にうとい私に、そんなにホイホイ新しい相手ができるわけがない。
 うとすぎて正樹がクズ男だってことにも気づけなかったくらいだ。

「嘘だろ。ありえん」
「本当だし。今から電話掛けてやる。男がいるって理解したら、かぎ返せ」

 そう言って、私は私用携帯でモドキに電話する。

「薫、なんだ?」

 モドキが電話に出る。人語が話せるのなら持たせておいたほうが便利だろうと、携帯をモドキに新しく買って渡しておいてよかった。

「今日忙しいけど頑張って急いで帰るから、一緒に晩酌ばんしゃくしよう」
「分かった。頑張れ。待っている」
「ねえ、帰ったらスリスリさせて」
「分かっておる。このわしのラブリーバディが嫌いな人間はおらんだろう。存分にモフるがよい」

 彼氏と会話していると取れるかどうか微妙な会話をモドキと繰り広げる。
 正樹が怪訝けげんな顔で聞いている。疑っているようだ。
 だが、まさか猫と会話しているだなんて、思いもしないだろう。
 これ以上話してバレても面倒だから、早急に電話を切ってしまう。

「モフる?」
「ああ、彼、毛深いから」

 モドキは長毛種だ。モッフモフのラグジュアリーな毛が生えている。猫だから。

「薫の家にいるの?」
「うん。すで同棲どうせいしてる」
「どこで知り合った?」
「お前と別れた夜に、偶然に道端で」

 嘘は言っていない。モドキは正樹と別れた日に道で拾って、それ以来うちにいる。猫だしね。

「男?」
「当然」

 モドキはオスだ。猫だけど。

「くっそムカつく。なんだよそれ」

 正樹はそう言いながら、投げつけるように乱暴に合鍵あいかぎを返して、そのまま研修室を出ていった。
 合鍵あいかぎを返してもらえただけで、研修室に来た甲斐かいがあったというものだ。
 正樹が、幸恵との関係をあきらめるのかは知らない。
 だが、私に他の相手がいるとアピールすることができたし、合鍵あいかぎも返してくれたし、今後こちらに目を向けてくることはないだろう。たぶん。助かる。


 面倒なゴタゴタだらけだった会社から、なんとか無事、家に帰還してモドキと晩酌ばんしゃくする。
 モドキ用に買った一番小さなサイズのお猪口ちょこに、ビールを入れてあげて、缶に残った分は私が飲む。
 私は枝豆とお惣菜そうざいのかきげ、モドキは猫様スティックをアテにして一緒にコタツで並んで晩酌ばんしゃく
 コタツで仲良く、今日あったことや時代劇の話、いとしの推し様であるティミー様の話なんかをダラダラとしながらくつろぐ、至福のとき。
 サクサクのかきげは美味おいしいし、枝豆もビールを引き立ててくれる。

「なるほど、妙な電話を掛けてきたと思ったら、そんなことがあったのか」
「そう。利用して悪かったね」
「構わん。その設定を理解したから、今度はもっとうまく誤魔化ごまかしてやる……そうだな、『薫、愛してる』くらい言おうか?」
「マジ? 約束よ。じゃあ、『私もよ。大好き』くらい返そうか」

 一匹と一人でゲラゲラ笑う。
 そんな心が浮つく会話をしたことは、人生で一度もない。少女漫画の世界みたいな会話。私とモドキのいる環境とは、ずいぶん世界線が違うようだ。

「それにしても、美味うまい」

 ピンクの舌で大切そうにビールをめて、モドキが笑顔になる。

「ねえ、猫様スティックとビールって合うの?」
「合う。最高だ」

 私が聞くと、モドキが目をキラキラさせて、いい笑顔を返してくる。
 猫様スティックの原材料は、タラバガニ、和牛、魚介類、とりささみ……それをペーストにしている。確かに原材料を見れば、私のかきげや枝豆より豪華ごうかだし、ビールに合いそうな気になってくる。

「気になるなら一本食ってみたらどうだ?」

 モドキの突然の提案に、私は戸惑とまどう。

「食う……?」

 もう一度改めて、原材料を見つめる。
 ホタテ、カニ、イカ、牛肉、とりささみ……美味うまそうだ。
 だが猫用だぞ、これ。
 たまに、ペット用のおやつを飼い主が間違えて食べちゃったなんて話を聞く。
 安全面には十分配慮はいりょしているだろうから、ほんの一舐ひとなめくらいなら、健康に影響はないだろう。
 なんなら、今私が食べているかきげや枝豆よりも塩分は低いので、健康によさそうな気すらしてくる……
 いやいや駄目だめだろう。だって、私は人間だもの。
 もし、私がこれを食ったら、自分が人間なのかよく分からなくなってしまわないか?
 同じコタツに入り人語じんごで会話して、同じものを飲み食いすれば、モドキと私の違いは毛深さくらいになってしまう。どうだろう?
 猫もどきのモドキと人間もどきの本田薫。
 種族の境界が曖昧あいまいになって、わけが分からなくなる。

「ヤバイ。人間やめそうだった」

 私は、あわててモドキに猫様スティックを返す。

「大げさな」

 そうモドキは鼻で笑っていた。


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