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披露宴その後104

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「あっはっはっは。あれは、本田さんの仕業だったんですね」

 給湯室で水島が大笑いする。

 幸恵の披露宴の後、私はさっさと帰ってしまったのだが、水島たちは二次会に行くために残っていたのだそうだ。

 あれから、披露宴の開催されたホテルでは、大騒ぎだったらしい。
 中から「開けて~!!」と叫ぶ女性達。入り口には、「掃除中」の札とつっかえ棒。慌てて従業員が扉を開ければ、女性客が数名。
 けっこうな長時間叫び続けていたようで、ボロボロに疲れ切っていたそうだ。

 「幸恵の仕業よ!!」と怒る彼女たち。
 だが、幸恵は他の人と記念撮影している最中だし、そんなこと知るわけもない。誰が見ても、幸恵が関係ないのは明らか。
 しかし、理由も言わずに幸恵のせいだと言い続ける女性達。自分達が、幸恵の悪口を言いまくっていたから、幸恵が怒って悪戯したのだと思い込んでいたようだ。

 幸恵の父に、なんて失礼な客だと怒鳴られて、彼女たちは逃げ帰ったのだそうだ。

「だって、文句があるなら、そもそも結婚式には来なきゃいいのに。披露宴に来て、親族もいる場所で、あんな風に見下げた発言をするのは、ちょっと駄目かと思って」

 私は、人より穏やかな性格だと思う。だが、やるときはやるのだよ。
 ポンコツだけれども。

「本田さんは、披露宴しないんですよね? 残念だな。観たかったかも。晴れ姿」
と水島。

 私と柏木のどっちの晴れ姿をご所望だい? まあ、分かるけれども。

「うーん。でも、幸恵と柏木は因縁があるからね。会社のメンバーに柏木を紹介するのは憚られるから」

「そうでしたね。残念」

 水島にも話した。マロンを救出した時の話を。あの一件があるのに、社の人間に柏木を紹介するのは、無理がある。だから、社の人間に柏木を紹介するような場を設ける気はない。

「でも、いいな。そうやって好きな人と結婚して世に認めてもらえるのは」

「そうか……。駄目なんだよね。まだ日本では」

 水島が、正式な結婚を求めるならば、海外に移り住む必要がありそうだ。

 偏見を持つ人も多いから、表に出すことも難しい。
 ただ、好きな人が同性って言うだけで、何の違いがあるというのか?
 柏木に手を出されるのは困るが、それぞれに幸せになるのに、何の不都合があるというのか。いや、ないだろう。

「まあ、そこは適当になんとかしちゃうんですけれどもね」
と、にこやかな水島。

 強いな。悲壮感は全くない。

「披露宴の時に可愛い子見つけましたし」

 水島の見せてくれたのは、ホテルの従業員の男性とツーショットの写真。
 連絡先の交換もしたんだそうだ。
 つ、強いな。
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