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田舎の蛙88
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薫さんの実家で、そのまま泊まる。
薫さんは、モドキとマロンと一緒に自分の部屋。僕は、客間に布団を用意してもらって就寝する。
田舎の夜、蛙の声がそうとう五月蠅い。
ボモーボモーとウシガエルの声。ずっと鳴き続けているのは、カジカガエルだろうか。薫さんも家の人も、みんな慣れているのか平気で寝ているようだ。
鳴いている蛙の姿を想像すれば、可愛い。モドキがいれば、どんな会話をしているのか教えてもらえるのに……。明日、帰る時にでも教えてもらおう。
扉を遠慮がちに叩く音に気付いて起きて開ければ、お父さんが立っている。
「少し、話そう。」
お父さんに言われて、他の家族が寝静まった後のダイニングへ向かう。
促されてダイニングの椅子に座れば、お父さんが前に座る。
なんだか、面接試験のようだ。
「何か飲む?」
お父さんに言われて、首を横に振る。
「いいえ。その、お酒も体質的に飲めませんし」
僕の言葉に、「そうか……」と少し残念そうなお父さん。……申し訳ない。
「薫、料理も出来ないし、掃除もそこそこ。ガサツだし、人の話も聞かない。酒は煽るし、お調子者だし……」
唐突に話し出したお父さん。
なんだか、ずいぶん相槌の打ちにくい内容。
ここで『そうですね』といえば、薫さんの悪口になるし、『そんなことないです』と言えば、お父さんの話を否定したことになる。
黙って聞いていれば、
「だがな、案外いい奴なんだ。あれは」
と、お父さんが締めくくる。
「結婚するんだろう? いつ?」
「それは、これから薫さんと相談して決めようと思っています。まず、ご両親にご挨拶をして、許可をいただいてから話を進める気でいました」
「ふうん。そうか……」
それだけ言って、また、お父さんは、黙ってしまった。
沈黙が辛い。
外の蛙の鳴き声が、やたら大きく聞こえる。
どうしよう。駄目ってことだろうか? もっと、キチンと計画を練ってから出直して来い的な話なのだろうか?
寝袋とテント持ってきてよかった。今から追い出されたとしても、なんとか車中泊で乗り切れる。
叱られるのを覚悟で、じっと待っていると、
「まあ、詳細が決まったら。連絡だけ頼む」
お父さんは、それだけ言って、「じゃあ、おやすみ」と、話し合いを終わらせてしまった。
どういうことだったんだろう??
許可してくれたってこと?
客間に戻って、布団に入っても、なかなか寝付けなくて困った。
朝、起きて朝食をいただいた時にも、お父さんは散歩でいなかった。
近くにパン屋で買ってきたパンとジャム、色々な種類のスープの素が並ぶ。好きなスープを各自で選んでお湯で溶けというのだろう。なんだか合理的だ。
「ごめんなさいね。気まずいみたいで、逃げちゃった」
薫さんのお母さんは、そう言って笑っていた。
「敵前逃亡ってやつ?」
諒太君が、笑う。
「まじ、許せん」
薫さんが、ムッとしている。
後で、昨日二人で話をしてもらったことを伝えよう。
もし、将来自分に娘が出来て、彼氏を連れてきたら、僕もお父さんのように顔を合わせるのが気まずく感じるのだろうか?
「お父さん、いい人ですね」
僕が、ぽそりとそう言えば、薫さんが、目を丸くしていた。
帰りの車の中、昨日の夜にお父さんと話をしたことを、薫さんに報告すれば、
「は? 意味が分かりませんが? なんで夜中に? 何してんの、あの親父は?」
と、怒っていた。
「でも、お父さんなりに認めてくれたのかな?」
と、僕は苦笑いした。
「娘の結婚に思う所があるんじゃろう。察してやれ。薫」
とモドキちゃんが、薫さんを諫めていた。
「それよりも、あの蛙たち。夜通しミュージカル……ライオンキングか? の練習をしておって、うるさかった」
モドキちゃんが、大きなあくびをした。
薫さんは、モドキとマロンと一緒に自分の部屋。僕は、客間に布団を用意してもらって就寝する。
田舎の夜、蛙の声がそうとう五月蠅い。
ボモーボモーとウシガエルの声。ずっと鳴き続けているのは、カジカガエルだろうか。薫さんも家の人も、みんな慣れているのか平気で寝ているようだ。
鳴いている蛙の姿を想像すれば、可愛い。モドキがいれば、どんな会話をしているのか教えてもらえるのに……。明日、帰る時にでも教えてもらおう。
扉を遠慮がちに叩く音に気付いて起きて開ければ、お父さんが立っている。
「少し、話そう。」
お父さんに言われて、他の家族が寝静まった後のダイニングへ向かう。
促されてダイニングの椅子に座れば、お父さんが前に座る。
なんだか、面接試験のようだ。
「何か飲む?」
お父さんに言われて、首を横に振る。
「いいえ。その、お酒も体質的に飲めませんし」
僕の言葉に、「そうか……」と少し残念そうなお父さん。……申し訳ない。
「薫、料理も出来ないし、掃除もそこそこ。ガサツだし、人の話も聞かない。酒は煽るし、お調子者だし……」
唐突に話し出したお父さん。
なんだか、ずいぶん相槌の打ちにくい内容。
ここで『そうですね』といえば、薫さんの悪口になるし、『そんなことないです』と言えば、お父さんの話を否定したことになる。
黙って聞いていれば、
「だがな、案外いい奴なんだ。あれは」
と、お父さんが締めくくる。
「結婚するんだろう? いつ?」
「それは、これから薫さんと相談して決めようと思っています。まず、ご両親にご挨拶をして、許可をいただいてから話を進める気でいました」
「ふうん。そうか……」
それだけ言って、また、お父さんは、黙ってしまった。
沈黙が辛い。
外の蛙の鳴き声が、やたら大きく聞こえる。
どうしよう。駄目ってことだろうか? もっと、キチンと計画を練ってから出直して来い的な話なのだろうか?
寝袋とテント持ってきてよかった。今から追い出されたとしても、なんとか車中泊で乗り切れる。
叱られるのを覚悟で、じっと待っていると、
「まあ、詳細が決まったら。連絡だけ頼む」
お父さんは、それだけ言って、「じゃあ、おやすみ」と、話し合いを終わらせてしまった。
どういうことだったんだろう??
許可してくれたってこと?
客間に戻って、布団に入っても、なかなか寝付けなくて困った。
朝、起きて朝食をいただいた時にも、お父さんは散歩でいなかった。
近くにパン屋で買ってきたパンとジャム、色々な種類のスープの素が並ぶ。好きなスープを各自で選んでお湯で溶けというのだろう。なんだか合理的だ。
「ごめんなさいね。気まずいみたいで、逃げちゃった」
薫さんのお母さんは、そう言って笑っていた。
「敵前逃亡ってやつ?」
諒太君が、笑う。
「まじ、許せん」
薫さんが、ムッとしている。
後で、昨日二人で話をしてもらったことを伝えよう。
もし、将来自分に娘が出来て、彼氏を連れてきたら、僕もお父さんのように顔を合わせるのが気まずく感じるのだろうか?
「お父さん、いい人ですね」
僕が、ぽそりとそう言えば、薫さんが、目を丸くしていた。
帰りの車の中、昨日の夜にお父さんと話をしたことを、薫さんに報告すれば、
「は? 意味が分かりませんが? なんで夜中に? 何してんの、あの親父は?」
と、怒っていた。
「でも、お父さんなりに認めてくれたのかな?」
と、僕は苦笑いした。
「娘の結婚に思う所があるんじゃろう。察してやれ。薫」
とモドキちゃんが、薫さんを諫めていた。
「それよりも、あの蛙たち。夜通しミュージカル……ライオンキングか? の練習をしておって、うるさかった」
モドキちゃんが、大きなあくびをした。
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