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写真86

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 私の部屋で、モドキとマロン、柏木と弟の諒太で遊ぶ、

 というか、諒太は、モドキとマロンを気に入って、猫じゃらしを振りまくっている。モドキとマロンは、それに応じて、遊んでくれている。
 諒太は、猫と犬と遊んであげている気分なのだろうが、その実は、全くの逆。
 モドキとマロンが、気を使って諒太と遊んでくれているのだ。

「薫、いいなぁ。俺も一人暮らししたら、ワンコかニャンコ飼おうかなぁ」

 この弟は、私のことを呼び捨てにする。
 根本的に馬鹿にしているような気がするが、さして尊敬されるようなことをした事もないので、そのまま受け入れている。

「諒太、安易に飼うのはやめときなよ? ちゃんと、飼い方とか調べないと」

「分かっているって」

 どうだか……。なにかトラブルが起きて、泣きの電話が来る未来しか想像できない。
 まあ、まだ高校生の諒太だから、一人暮らしなんてまだまだ先だ。

「あ、そうだ。薫、昔のアルバムとか柏木さんに見せてあげたら?」

 こ、こいつ余計なことを!!
 柏木にアルバムを見せる。そんなの……まじか。

 以前、柏木の実家を訪問した時に、柏木の昔の写真は見せてもらった。とても可愛くラクシュと一緒に写っていた。だが、私の写真を見せるの? ええ……。

 ご両親が、ウチの子とウチの猫、最高! というコンセプトで撮った柏木の写真とは、私の写真は、コンセプトが違う。

 私は、後で見返した時に、面白いようにというコンセプトのもとで、変顔やへんなポーズを撮っている写真が多い。

 このパンドラの箱(ただのアルバム)には、あらゆる厄災(変顔)が込められている。
 最後には、希望は出てこない。あるのは、後悔と羞恥心のみ。

「見たいです。駄目ですか?」
柏木がおずおずと聞いてくる。

「ちょっと、お見せできるレベルにはないので……」
できれば、断わりたい。

そして、過去の自分にテレパシーを送りたい。
 楽しく自分用に変顔で撮るのは良い。友達も喜んでくれた。
 だがな、薫。写真とは、後で他の人の目にも止まる物なのだよ。だから、人に見せるように普通に撮ったアルバムも作っておくべきだと。

 何がどうなって、過去の恥がさらされるかなんて、人生分からないのだから……。

「いいだろ、もったいぶって!!」

 諒太が勝手にアルバムを引っ張り出して広げる。

 繰り広げられるは、私の黒歴史。友達とふざけて撮った本気の変顔も数々。

 モドキとマロンまで覗き込んでいる。
 諒太はゲラゲラと笑い、モドキとマロンがジト目で見る視線が痛い……。

「なんだか面白いですね。」

 にこやかに柏木がそう言った。
 その穏やかな笑顔が、心に鋭く刺さる……。

 諒太め。後で覚えていろよ。
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