女王様は猫ですから!

ねこ沢ふたよ

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その名はフェラーリ

走れ! お嬢!

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 お嬢が全力で走る。
 拙者も走る。
 公園から学校は遠い。間に合うかどうか分からない。

「もう、もう無理!」

 無理じゃない! きっとクロウが何とか頑張ってくれている。
 その頑張りに報いるためにも、どんな結果になろうとも頑張って走らねば!

 お嬢が諦めそうになるたびに、拙者はお嬢を鼻で突っつき袖を引っ張って励ます。

 諦めない。それが今のお嬢には、一番大切なこと。

 ようやくたどり着いた学校。
 何やら様子がおかしい。
 学校中が笑いに包まれている。

 何事?

 見れば、騒ぎの真ん中にはクロウがいる。
 クロウが、何かを咥えて運動場を飛び回っている。
 その後ろを教師と思しき大人が数名、大慌ての様子で必死で追いかけている。
 皆はどうやら、その様子を見て笑っているようだ。

「校長先生のカツラだ……」

 お嬢の言葉を聞いて、クロウが咥えている物をよく見れば、確かにそうだ。ありゃ、カツラだ。
 クロウを追いかける校長先生の頭が日光を反射してキラリと輝く。
 先生達が慌てれば慌てるほど、クロウは揶揄うような仕草で運動場を飛び回る。
 ますます校内は、笑いに包まれる。
 もはや競技は中断され、先生達は、クロウを捕まえようと躍起になっている。

 お嬢は、この混乱に乗じてクラスに潜り込む。
 どうやら間に合ったようで、お嬢は杉下達と一緒にリレーの準備に取り掛かる。

「ワン!」

 拙者がクロウに合図を送れば、クロウが気付いてカツラをポトンと校長先生の頭の上に落として飛び去っていった。

 ダイレクトキャッチ

 綺麗に校長先生の頭にカツラが被さったのが可笑しくて、運動場は、またドッと大きな笑いに包まれていた。

「あ、ええ~。き、競技を再開する!」

 教師の言葉に、バタバタと運動会は再開される。
 
 その後、運動会は無事終了した。

 お嬢は、無事リレーを走り終えることが出来たが、やはりそれだけでは、恋は実らなかったようだ。

 拙者とクロウの努力も、大した結果は見出せなかったということか。
 しかし、大切なのは、精一杯最後までやり遂げたこと。諦めなかったことで、きっとお嬢の中で何かが成長したはずだ。

 たぶん。

「ワン」

 引っ越し当日、寂しそうなお嬢。
 手に持っているのは、クラスの仲間で優勝した記念に作ったというキーホルダー。

「フェラーリ、私諦めない」
「ワン」
「お父さんが、またこの街に戻れるように、転属願い出してくれるって、約束してくれたの」

 お嬢は、今回の引っ越しはどうしようもないとしても、何とかならないか御父上に相談したらしい。
 ダメだったら、高校生になってから、一人暮らしする覚悟だったそうだ。

「だから、私、もう一度この街に戻ってくるまでに、杉下君に振り向いてもらえるような素敵な女の子になるの!」

 どうやら特訓で自信をつけたお嬢は、頑張る勇気を身につけたようだ。

「ワン!!」

 拙者は、そんなお嬢に心からのエールを送った。

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