女王様は猫ですから!

ねこ沢ふたよ

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その名はフェラーリ

くっそ生意気な烏め

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 烏の名前は、クロウというらしい。
 自分で名付けたとか。ふむ。野生の生き物である烏。拙者と違い主を持たぬなら、確かに名前は自分で付けることになろうか。

「で、クロウ殿は、お嬢の特訓のために何が必要だというのだ?」

 今日も今日とて、時間のない中、お嬢の筋力をあげるべく特訓をし、公園でへたり込むお嬢を横目に、拙者とクロウは、お嬢に秘密の相談を重ねる。

「餌だよ餌」
「餌……とな?」
「そう、餌」

 拙者は首をかしげる。
 つまりは、目標と言うわけか? それならばある。お嬢は、ただ足が速くなりたいのではない。
 好いた殿方と一緒にかけっこをするチャンスがほしくて、速くなりたいのである。

 まあ、拙者がお嬢のために特訓しているとは、気付いているかどうかは分からないが。

「例えば……そうだな。お前が速く走る特訓をされたとして、この公園に美味い肉があればどう思う?」
「嬉しい」
「そうだろう? そして、また来たいと思うだろう?」
「なるほど。しかし、お嬢のためには、どうしたら良い? 散歩が楽しくなるためには、どうしたら良い?」

 枝の上ですまし顔のクロウ。ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
 
「これだから脳筋は!!」

 うぬ! 生意気な烏め。
 また拙者を笑うか。

「もういい。クロウ殿の言っていることは、拙者には分からん」

 そもそも、お嬢が拙者と親睦を深める最良の方法である散歩を嫌うわけもない。
 そもそも、散歩は楽しいものなのである。
 よって、クロウの申す「餌」とやらは、初めからいらぬのだ。そうに違いない! お嬢と拙者の絆はかたいのだ!

「ちょ、ちょと私じゃ無理かも……。お父さんに散歩任せようかなぁ……」

 ぬぬっ! やはりやり過ぎたか!!

 お嬢の呟きに慌てる拙者の横で、クロウが腹を抱えて笑う。

「そりゃそうなるって、脳筋!」
「くくっなんとも無念!」
「いいか? 最初から答えは決まっている。お嬢の目的は?」
「それは、好いた殿方とかけっこをすること」

 可愛らしい乙女の清らかな夢。
 決まっている。

「だろう? だから、散歩コースに無理矢理、その男の家の前を組み込むんだよ」
「ふぁあ?」
「あわよくば、その男の外出する時間に合わせて通りすがるようにする」
「な、何と腹黒い! あ、いや烏だから全身がそもそも真っ黒か」

 確かにそれならば、お嬢もさらに楽しく散歩出来そうだ。

「し、しかし。拙者には、その男の外出時間なんて分からんぞ?」
「そこは、ほら。俺ならば調べられるだろう?」

 クロウは、そう言ってウインクした。
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