女王様は猫ですから!

ねこ沢ふたよ

文字の大きさ
上 下
17 / 53
その名はフェラーリ

特訓なり!

しおりを挟む
 足が速くなるコツ。
 それは、前足と後ろ足、四つの足のバネを生かして軽やかに……。
 だが、お嬢は残念ながら二足歩行。
 お嬢も四足歩行出来れば話は早いのだが、人間には難しい。

 ならばどうするか……。
 決まっておる!

 特訓あるのみ!!!!

 何のひねりも必要ない!
 とっぷあすりぃと! それは、日々の鍛錬の先に成るものなのだ! 鍛錬こそ正義! 筋肉こそ正義なのだ!

「フェラーリ!! は、速い! 速すぎる!」

 散歩の時間、リードを持つお嬢を引っ張って拙者は走る。お嬢を鍛えるために!
 
 もちろん、手加減はしている。 
 雑種といえども大型犬の拙者。本気で走ればお嬢は追いつけない。
 有能な指導者たる拙者は、お嬢の走れるギリのスピードをちゃんと保っている。

 さあ、お嬢よ!!
 いにしえの忍者のごとく己の足を鍛えるのだ!!

  どれほど走ったであろうか。

 いつもの散歩コースである河川の土手を走り抜け、休憩に立ち寄る公園。
 えっと、ここまでは三十分かけて歩く道程であるが、本日はお嬢の特訓のために、十分も掛からずに来てしまった。もっと走っても良いのだが、どうやらお嬢が限界だ。
 元々インドア派のお嬢にあまり無理をさせるのも酷だ。
 ここは、少し休憩といこう。

 ぜいぜいと息をするお嬢。

「ふぇ、フェラーリ……どうしちゃったのよ? 何か面白い物でも見つけたの?」

 公園のベンチに崩れ落ちるお嬢。
 ……ちっと、ちっとだけやり過ぎたか?

 お嬢の足元に控えて、尻尾を振りながら拙者はお嬢を見つめる。
 ベンチで突っ伏すお嬢。大丈夫か?
 お嬢! 頑張れ。
 好いたお方に一歩でも近づくために!!
 そのためには、心身ともに鍛えねばならぬであろう?

「ワン!!」

 拙者の激励をどのように聴いたのか、お嬢は優しい顔で撫でてくれる。
 ああ、お嬢の願いが叶えばよいのに。

 そのためには、拙者が特訓して差し上げねば!!

「何やっているんだ。馬鹿犬」

 馬鹿にされて見上げれば、烏が一羽。
 あの烏は知っている。
 この間、ゴミ置き場で近所のおばさんにほうきで追い立てられていた。
 その時に動物好きのお嬢が、おばさんに抗議したのを覚えていたのであろう。

「そなたには関係ない」
「でも、その女の子、もうヘロヘロじゃねえか。翼も四本足もない人間に無理させんなよ」
「しかしだな。こちらにはこちらの事情があるのだ」

 拙者は、この烏野郎にこちらの事情を話す。

「へぇ……好きな人とかけっこ競技ねぇ……」

 クスクスと笑う烏。
 イケすかねぇ野郎だ。

「俺も協力してやろうか? てめえみたいな脳筋だけじゃ、この子潰れちまう」

 烏め。拙者の完璧な筋肉作戦に文句を申すか!!

「要らぬ!! 拙者さえいれば大丈夫だ!!」
「結果がこれだろう?」

 クッ!! いまだに立ち上がれずにベンチでのびているお嬢。

「し、仕方あるまい!!」

 拙者は、お嬢の幸せのためにやくざ者の烏を仲間に引き入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

鎮魂の絵師

霞花怜
キャラ文芸
絵師・栄松斎長喜は、蔦屋重三郎が営む耕書堂に居住する絵師だ。ある春の日に、斎藤十郎兵衛と名乗る男が連れてきた「喜乃」という名の少女とで出会う。五歳の娘とは思えぬ美貌を持ちながら、周囲の人間に異常な敵愾心を抱く喜乃に興味を引かれる。耕書堂に居住で丁稚を始めた喜乃に懐かれ、共に過ごすようになる。長喜の真似をして絵を描き始めた喜乃に、自分の師匠である鳥山石燕を紹介する長喜。石燕の暮らす吾柳庵には、二人の妖怪が居住し、石燕の世話をしていた。妖怪とも仲良くなり、石燕の指導の下、絵の才覚を現していく喜乃。「絵師にはしてやれねぇ」という蔦重の真意がわからぬまま、喜乃を見守り続ける。ある日、喜乃にずっとついて回る黒い影に気が付いて、嫌な予感を覚える長喜。どう考えても訳ありな身の上である喜乃を気に掛ける長喜に「深入りするな」と忠言する京伝。様々な人々に囲まれながらも、どこか独りぼっちな喜乃を長喜は放っておけなかった。娘を育てるような気持で喜乃に接する長喜だが、師匠の石燕もまた、孫に接するように喜乃に接する。そんなある日、石燕から「俺の似絵を描いてくれ」と頼まれる。長喜が書いた似絵は、魂を冥府に誘う道標になる。それを知る石燕からの依頼であった。 【カクヨム・小説家になろう・アルファポリスに同作品掲載中】 ※各話の最後に小噺を載せているのはアルファポリスさんだけです。(カクヨムは第1章だけ載ってますが需要ないのでやめました)

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒しのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

夜に駆ける乙女は今日も明日も明後日も仕事です

ぺきぺき
キャラ文芸
東京のとある会社でOLとして働く常盤卯の(ときわ・うの)は仕事も早くて有能で、おまけに美人なできる女である。しかし、定時と共に退社し、会社の飲み会にも決して参加しない。そのプライベートは謎に包まれている。 相思相愛の恋人と同棲中?門限に厳しい実家住まい?実は古くから日本を支えてきた名家のお嬢様? 同僚たちが毎日のように噂をするが、その実は…。 彼氏なし28歳独身で二匹の猫を飼い、親友とルームシェアをしながら、夜は不思議の術を駆使して人々を襲う怪異と戦う国家公務員であった。 ーーーー 章をかき上げれたら追加していくつもりですが、とりあえず第一章大東京で爆走編をお届けします。 全6話。 第一章終了後、一度完結表記にします。 第二章の内容は決まっていますが、まだ書いていないのでいつになることやら…。

処理中です...