女王様は猫ですから!

ねこ沢ふたよ

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アンジュ様の言う通り

緊急招集

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 ち、遅刻、遅刻!

 アンジュの肉球にふみふみされて気持ち良くなって、そのまま寝落ちした。

 最悪だ。

 お母さんに起こされて、辛うじて起きたけれど、無理な姿勢で寝たから腰は痛いし。時間はギリギリだし。園芸係で緊急招集がかかっていたから、早く行かないとダメなのに!

 漫画ならトーストを咥えて走るところだが、そこは街角で転校生と衝突している場合じゃあないし、現実にやれば、くるまにぶつかりそうだし。
 朝ご飯は諦めて、一心不乱に学校への道を急ぐ。

 ま、間に合った!!

 安堵した私の視界に飛び込んできたのは、召集された教室で座る杉下君の姿。

 そう。私の推しである杉下君が、遅刻なんてする訳がない!
 今日も爽やかな笑顔で、そこに……あれ?

 杉下君が笑顔を向けている相手は、隣の席に座る女子。
 あれは、軟式女子テニス部のキャプテンをしている二階堂さんでは? 確か……とてもお金持ちのお嬢様で、スポーツの出来て成績だって良い。そして、美人だ。

 杉下君とお似合い。

「ほら、早く座って!!」

 崖から突き落とされて瀕死のところに、大岩を投げつけられてとどめを刺された感じで、精神が瀕死の私に、先生が容赦なく促す。

 二階堂さんと付き合うならば、きっと杉下君は幸せ……推しの幸せは、私の幸せ……? 
 うう。頭では分かっているのだ。
 ストーカー寸前の私なんかよりも、魅力的な二階堂さんのような子が、杉下君にはお似合いだって。
 ほら、あんなに楽しそうに杉下君は、笑っている。

 先生に早くと促されて空いている隅の席に座れば、杉下君が、私に気づいて、小さく手を振ってくれる。
 猫友だもんね。
 そういう、虫けらみたいな私にまで気を使ってくれる杉下君の優しさが好きなんだよね。

 私は、杉下君に、さよならをするように、小さく手を振るが、未練がましい私の心は、とてもこの想いを捨てきれない。

 私が席に着いた後で、会議は始まり、何だか先生が熱弁を振るっているが、目の前の衝撃的な光景に、私の耳は、先生の言葉を一つも拾わない。
 何か大変なことが起きたらしく、深刻そうに話す先生に、議論は進んで行く。

 何が起きたんだろう?
 いいや。どうでも……。とりあえず、今の私は、心がいっぱいなのだ。


「先生! それは、違うと思います!!」

 ガタンを席を立って、杉下君が発言する。

「そんなことをすれば、怪我をするじゃないですか!! それに、まだ犯人と決まったわけでは!!」

 え、怪我? 先生が、誰かを傷つけそうなことを提案したの?
 まさか。
 花を愛してこの園芸係を立ち上げて、生徒に園芸の素晴らしさを布教することをモットーとしている心優しき先生か?

 てか、犯人ってなんだ!!

「ですが、花壇が荒らされていることは、事実ですから!!」

 バンと先生が叩いた黒板に書かれていた文字は、『有刺鉄線』。

 は? なんだか、私が葛藤している間に、物騒な話になっていない?

 どうやら、先生の愛する花々が、荒らされていたようだ。
 それの解決策として……頭に血が上った先生が、有刺鉄線で花壇を囲もうとしている……。そういう事?
 犯人(誰?)が、怪我するかもしれないからって、杉下君が、反対しているってことでいいのかな?

 とにかく、話の内容は、まるっきり分からないが、推しである杉下君が、そんなの駄目だと言っているなら、それは良くない。
 推しが白と言うならば、それは黒くても白。推しが黒というならば、それは、白くても黒なのだ。

「あ……、有刺鉄線は物騒かと、私も思います」

 よく分からないが、私も杉下君に加勢する。
 私の意見に、杉下君の顔が、パアアと、笑顔になる。

「そうだよね!! そう思うよね!!」
「は、はい!!」

 私は、コクコクと首を縦に振って応じる。
 どうやら、会議に参加している生徒達も、内心そう思っていた者が多かったようで教室がざわつき始める。
 さすがに、校内の花壇に有刺鉄線はやり過ぎだろう。

 先生の眉間に深っっかい皺がよる。
 不満なのだろう。自分の案が否定されたことが。

「では、一週間。一週間待ちましょう! それまでにあなた達が犯人を見つけられなければ、有刺鉄線を実行いたします!!」
「分かりました!! 僕たちで、犯人を見つけます!!」

 杉下君が、堂々と先生に言い放つ。
 わあ、探偵物のドラマみたいだ。杉下君格好良い!!

 て、あれ? 僕……達?
 会議が終わって教室を出ていく生徒達から、「頑張ってね」「協力はするから」なんて、私は声を掛けられる。
 どうやら、『達』というのは、私も含まれているようだ。
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