女王様は猫ですから!

ねこ沢ふたよ

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アンジュ様の言う通り

朝からもう!

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 まただ。ああ! もう!

 私の通学用のリュックに乗るのは、三毛猫のアンジュ。体重7キロ。ちょっと太めの我が家の飼い猫。

 それが、私の通学用のリュックの上にデデンと載っているのだ。
 目が覚めて、初めて見た光景が、ふてぶてしいこの猫の姿。
 そりゃ、昨日の夜、部活で疲れていたからってリュックを床に放置していた私が悪いけれど、これで何度目?

「お母さん! アンジュが!」
「なぁに? お母さん、お弁当作るのに忙しいんだけど? て、あらら……」

 廊下から私の部屋を覗くお母さんが、アンジュの姿を見て、パァアアッと明るい笑顔になる。

「可愛い! アンジュちゃん! ア~ンちゃん! こっち見て~!」

 スマホでお母さんがアンジュを撮りまくる。
 ダメだ。猫ガチモード発動している。
 無類の猫好きのお母さん。
 アンジュを溺愛して、アンジュに激甘なのだ。

 お母さんのSNSは、日々猫画像に溢れて、猫好き界隈と互いの猫の可愛さを報告し合っている。
 どこかの見知らぬ猫が怪我をしたと知れば、身近な人が死んだのかと心配になるくらいに落ち込み、元気になったと聞けば、石油王に一億円くらいもらったのかと思うくらいに喜ぶのだ。


「ちょっと! お母さん! 違うから!」
「え、何? アンジュちゃんのポーズが可愛いから呼んでくれたんじゃないの?」

 心の底から分からないといった表情で、お母さんは首を傾げる。

「違う! 絶対に違う!」
「そう?」
「アンジュが私の部屋に勝手に入っていることがまずおかしいの」
「それは……菜々子が部屋の扉を閉め忘れたんでしょ?」
「閉めたの! 閉めたけどアンジュが勝手に扉を開けて入ってくるの!」
「アンジュちゃんったら! まぁ!」

 お母さんが目を丸くして驚いている。
 これは、さすがにアンジュに怒るか、対策を考えるべきだと考えを変えるか……。

「すっごい! 賢いのね~~!」

 お母さんは、アンジュをうっとりと見つめている。
 期待した私が悪かった。

「お母さん……だから……」
「そもそも、どうしてそんなに怒るの? 何かアンジュちゃんが乗ったくらいで困ることがあるの?」
「それは……」

 言えない。
 鞄の上にアンジュが乗るのは珍しいことではない。でも、今日だけは、避けたかった。
 今日だけは、猫毛の付いていないピカピカの完璧な私で登校したかっただなんて。
 そして、その理由が、今日限定で憧れの男子、杉下君と二人で登校できるからだなんて。

 運良く杉下君と同じ園芸係になれた私は、校庭の花に水をやる当番で、一緒に登校することになっている。水やりは毎回違う人と組むことになっているから、杉下君と一緒に登校できるのは、今日だけ。

 片想いを拗らせて話しかけることも出来なかった杉下君と一言でも言葉を交わせるかもしれない。その記念すべき初めての会話の時には、完璧な私でいたかったのだ。

 でも、そんなこと、お母さんに言えるわけがないのだ。

「とにかくアンジュちゃんに触って欲しくない物は、床に放置しない! ね?」

 その通りだ。
 その通りなのだ。
 私は、「はぁい……」。と、力なく返事した。
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