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5黄金狐
追っ手
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向月の話によれば、仕事の帰りにこの身重の妖狐が運河の脇で倒れていたのだという。
この衰弱しきった妖狐の名前は若草。
「同じ妖同士だ。人間に捕まって酷い目に合うのを見過ごすわけにもいかず、長屋に匿った。妖狐が来てくれたなら助かる。稲荷神にでも参って、どこかの妖狐を呼び出してもらえないかと思案していたところだ」
布団に寝かせた若草狐を、心配そうに向月が撫でる。
「同胞を助けてくれたこと、礼を言う。俺が妖狐の里に連絡を入れて、若草を妖狐の里で面倒が見られるように手配する」
黄金は、そう言うと、さっそく管狐を飛ばした。
管狐の行く先は、妖狐の里の里長、紫檀狐の所。
誰よりも長い年月を生きている紫檀狐なら、この若草を助けられるかもしれないと思ったのだ。
? 誰だ?
部屋の外に気配がする。
やたら強い瘴気を纏っている。
「向月、蒼月。若草を連れて裏から逃げろ」
黄金が、小声で指示する。
向月一人では、弱っている若草を守りきれまい。蒼月も行かせる方がいい。
黄金一人でなんとかここはくい止めて、若草を逃がした方が良いだろう。
「もうし、こちらに妖狐がいると聞いた。妖を匿っているとロクなことはない」
男が外から声をかける。
「どちら様でございましょう?」
黄金が、声を返す。
「佐門と申す」
男が答える。
この匂い……あの雲外鏡の中にいた男か?
黄金は警戒する。ならば、槍を持っているはずだ。
不用意に戸口に近づくのは、危険だ。
外に異様な気配がする。
蒼月達は、無事に長屋を出られたみたいだ。少しでも長く足止めして、逃がしてやらねば。
緊張で喉が渇いて、戸を挟んでも感じる男の殺気に身の毛がよだつ。
先ほどから、白金の管狐の様子がおかしい。
じっと動かずに震えている。
管狐が消えていないということは、白金の命は無事なのだろうが、管狐は妖狐の分身。
白金の身に何かあったのでないかと気になる。
『花のほかには 松ばかり 花のほかには 松ばかり 暮れ初めて 鐘や ひびくらん』
美しく歌う声が、外から聞こえる。
……白金?
ケラケラと笑う白金の声。
あいつ、どうしたんだ? また、ロクでもないことを始めたのか?
外に出て確認したいが、入り口で立ちはだかる男が邪魔で、外の様子が分からない。
「尾成りじゃな。妖力が暴走している。飲み込んだ大蛇、清姫の妖力に翻弄されている。だが、九尾狐がいるならば、あの程度の男は大丈夫そうだな」
「へ? あ、紫檀様?」
いつの間にか、どこからか入ってきた紫檀狐が、ニイッと笑う。
「紫檀様、ここよりも蒼月達が!」
「大丈夫だ。すぐに行く。それより……」
紫檀が、白金の歌に耳をそばだてる。
「満願じゃな。黄金。お前の望み通り、白金狐の尾が成った。九尾と成ってしまったのは、ちと残念であったが……」
「九尾……」
白金が九尾狐に成った。では、百年の時を稲荷神のもとで過ごさねばなるまい。
もし、黄金が傍にいれば、白金は、また行きたくないと駄々をこねるだろう。それは、妖狐として困る。
「可哀想なことを考えてくれるなよ? いいか? 九尾狐だって恋はするんだ」
紫檀が、黄金の頭をクシャクシャと撫でる。
そのまま、紫檀は、蒼月達を追って行ってしまった。
この衰弱しきった妖狐の名前は若草。
「同じ妖同士だ。人間に捕まって酷い目に合うのを見過ごすわけにもいかず、長屋に匿った。妖狐が来てくれたなら助かる。稲荷神にでも参って、どこかの妖狐を呼び出してもらえないかと思案していたところだ」
布団に寝かせた若草狐を、心配そうに向月が撫でる。
「同胞を助けてくれたこと、礼を言う。俺が妖狐の里に連絡を入れて、若草を妖狐の里で面倒が見られるように手配する」
黄金は、そう言うと、さっそく管狐を飛ばした。
管狐の行く先は、妖狐の里の里長、紫檀狐の所。
誰よりも長い年月を生きている紫檀狐なら、この若草を助けられるかもしれないと思ったのだ。
? 誰だ?
部屋の外に気配がする。
やたら強い瘴気を纏っている。
「向月、蒼月。若草を連れて裏から逃げろ」
黄金が、小声で指示する。
向月一人では、弱っている若草を守りきれまい。蒼月も行かせる方がいい。
黄金一人でなんとかここはくい止めて、若草を逃がした方が良いだろう。
「もうし、こちらに妖狐がいると聞いた。妖を匿っているとロクなことはない」
男が外から声をかける。
「どちら様でございましょう?」
黄金が、声を返す。
「佐門と申す」
男が答える。
この匂い……あの雲外鏡の中にいた男か?
黄金は警戒する。ならば、槍を持っているはずだ。
不用意に戸口に近づくのは、危険だ。
外に異様な気配がする。
蒼月達は、無事に長屋を出られたみたいだ。少しでも長く足止めして、逃がしてやらねば。
緊張で喉が渇いて、戸を挟んでも感じる男の殺気に身の毛がよだつ。
先ほどから、白金の管狐の様子がおかしい。
じっと動かずに震えている。
管狐が消えていないということは、白金の命は無事なのだろうが、管狐は妖狐の分身。
白金の身に何かあったのでないかと気になる。
『花のほかには 松ばかり 花のほかには 松ばかり 暮れ初めて 鐘や ひびくらん』
美しく歌う声が、外から聞こえる。
……白金?
ケラケラと笑う白金の声。
あいつ、どうしたんだ? また、ロクでもないことを始めたのか?
外に出て確認したいが、入り口で立ちはだかる男が邪魔で、外の様子が分からない。
「尾成りじゃな。妖力が暴走している。飲み込んだ大蛇、清姫の妖力に翻弄されている。だが、九尾狐がいるならば、あの程度の男は大丈夫そうだな」
「へ? あ、紫檀様?」
いつの間にか、どこからか入ってきた紫檀狐が、ニイッと笑う。
「紫檀様、ここよりも蒼月達が!」
「大丈夫だ。すぐに行く。それより……」
紫檀が、白金の歌に耳をそばだてる。
「満願じゃな。黄金。お前の望み通り、白金狐の尾が成った。九尾と成ってしまったのは、ちと残念であったが……」
「九尾……」
白金が九尾狐に成った。では、百年の時を稲荷神のもとで過ごさねばなるまい。
もし、黄金が傍にいれば、白金は、また行きたくないと駄々をこねるだろう。それは、妖狐として困る。
「可哀想なことを考えてくれるなよ? いいか? 九尾狐だって恋はするんだ」
紫檀が、黄金の頭をクシャクシャと撫でる。
そのまま、紫檀は、蒼月達を追って行ってしまった。
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