妖狐

ねこ沢ふたよ

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5黄金狐

向月

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 狼の一族の長、夜風に聞いた場所に、酒蔵はあった。

 綺麗な川が流れる街。水質は、そのまま酒の質になるからか、昨今では珍しいくらいに澄んでいる。

「わくわくしますね。酒蔵だなんて!」

日本酒好きの白金がソワソワしている。

「仲間の気配は感じるか?」
黄金が蒼月に聞けば、

「なんとなく……人の匂いがきつくて鼻が利かないが、それでも清らかな水のお陰で空気は清浄だから、気配は感じる。……こっちか?」
蒼月が、気配を頼りに皆を先導する。

「白金様! 白金様!!」

聞き覚えのある声に呼ばれて白金が運河を覗けば、そこにいつかの河童がいる。

「わあ、こんな遠い所まで……どうしたんだい?」

白金が尋ねれば、河童が手招きする。
どうしよう……。黄金と蒼月は、ドンドンと先に進んでしまう……。
だが、河童を無下にするのも可哀想だ。

白金は、管狐を一体、黄金たちの傍に飛ばして、河童の後についていってしまった。

「あのアホは、またフラフラと……」

管狐が一生懸命に説明するのを聞きながら、黄金はため息をつく。
ため息をつきながらも、白金の管狐を撫でてはいるのだが。

「まあ、管狐がこちらにいるのなら、再会も難しくはないだろう」
蒼月が苦笑いする。

歩いた先にあったのは、老舗の酒蔵。
そこで酒樽を河に浮かぶ船に乗せる仕事をしている人足の中に、体の大きな一風変わった者がいる。

「向月《こうげつ》?」
蒼月が声をかけると、男が振り返る。

「蒼月か!」
男の顔が、パッと明るくなる。

「黄金、兄の向月だ」

「黄金と申す。もう一人、白金という仲間がいるのだが、そいつはフラフラと知り合いを見つけてどこかへ行ってしまった」

黄金は、向月と握手を交わした。


 向月に案内されたのは、古びた長屋。その一角に向月は住んでいるのだという。

「妖狐に出会えたのも何かの縁。ちょっと話を聞いてもらえるだろうか」

向月は、そう言って、長屋の扉を開ける。
中には、金の毛並みの七尾の妖狐が一匹。苦しみながらうずくまっていた。

「こ、これは?」
慌てて黄金が、妖狐に近づく。ずいぶんと弱っている。
その胎には、赤子がいる。
試しに、手に持っていた河童の薬を、この見知らぬ妖狐に使ってみたが、残念なことに、薬は思ったような効力を発揮してくれない。

 烏天狗の矢で致命傷を負ったか……。
 では、この妖狐は、悪行をして烏天狗に制圧されたか? だが、そういった妖狐が出たならば、黄金の元にも連絡が来てもよいはずなのに、そういった連絡は来ない。

「拾ったのだ。そこの運河の傍で」
向月が、説明する。

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