57 / 73
5黄金狐
村のうわさ
しおりを挟む
村では、少し騒ぎになっていた。
旅の二人組が、村を通り過ぎようとしていたのだが、その内の一人が、白い髪の見たこともないような美女だった。
雪のように白い肌、整った顔立ち、スラリとのびた手足。長い睫毛の下の黒い瞳を向けられると、村の若い衆は、はあ、とため息をついた。
女の連れも、見目の良い男であったことから、夫婦なのだろうとは思うが、女の美しさは、この世の物とは思えなかった。白髪であることから、何かの病気でも患っているのかも知れないが、それでも、村の者は女から目を離すことができず、旅の二人は行く先々で注目を浴びていた。
「どちらへ行かれるのかの?」
村の年寄りが、男に話しかける。
「徳川様の世でなくなってから、何年も経ち旅もしやすくなりましたので、こうして二人で気ままに世間をみて回っております」
男は、気さくにニコリと笑いながら答える。
「お気をつけた方がよいでしょう。その、この辺の山には、怪異が出ると言われています。そちらの奥方様のような美しいお方は、攫われてしまうかも知れません」
年寄りの言葉に、男は、女と顔を見合わせる。女が、男の袂をきゅっと握ったのは、不安だったからかもしれない。
「ご心配ありがとうございます。まあ、暗くなる前に通り過ぎれば、大丈夫でしょう」
男が、のん気に答える。
「あの……。どのような怪異が?」
女が、震える声で、年寄りに聞く。
年寄りは、手短に話す。
年寄りの話では、ここから京都へ向かう方向の山で、猫の怪異が出たのだという。
猫は、旅の女を攫い、攫われた女は、二度と戻ってはこないということだった。
連れの女を攫われた男が、村に戻ってきて、あらましを話したのだという。
男の話を聞いた村の若い衆が、何人かで山に女を探しに行ったが、猫の声がするだけで、女は見つからなかったということだった。
「くれぐれもお気を付けください」
年寄りの言葉に、旅の二人は、頭を下げて答えた。
「面白過ぎるんだが。笑いそうになって、手も声も震えてしまった」
村を離れて、すぐ、白金が、黄金に耳打ちした。
「親切で言ってくれたのだから、面白がるのはどうかと思うぞ」
「私は、お前の奥方だそうだ」
「まあ、お前は、修練をさぼっていたから、筋肉もついていないし、色も白い。おまけに尾の数も俺より少ないから、年も若く見える。女に見えても仕方ないさ」
「ふふ、修練をさぼったことを言われるのは、耳が痛い」
白金は、面白そうに笑う。笑えば、さらに花のように美しくなると黄金は思う。
元々、妖狐には、雌雄はない。変じれば、女の身にもなれる。白金は、旅の途中ということもあり男のなりをしているのだが、それでも、人間からすれば、女に見えるらしい。
素戔嗚尊の娘たる稲荷神の瑞獣となりうる妖狐は、見目の良いものが多い。
そのため、歴史上では、惑わされて国を滅ぼした王もいるくらいだ。
「なあ、あの猫の怪異、どう思う?」
「どうとは?」
まずい。興味を示したか。
黄金の言葉に、また面倒くさいことが起こるのではと、白金が身構える。
黄金は、優しい。何か困っている者があれば、人だろうが妖だろうが、助けようとする。
そのため、面倒ごとに巻き込まれることも多いのだが、黄金の良さでもあると思うから、白金には文句は言えな い。
「俺たちで、猫の怪異を封印してはどうだろう?」
「また、面倒なことを考えているな」
まあ、お前が、そう言うのならば、協力するよ。
白金は、しぶしぶ囮を引き受けた。
旅の二人組が、村を通り過ぎようとしていたのだが、その内の一人が、白い髪の見たこともないような美女だった。
雪のように白い肌、整った顔立ち、スラリとのびた手足。長い睫毛の下の黒い瞳を向けられると、村の若い衆は、はあ、とため息をついた。
女の連れも、見目の良い男であったことから、夫婦なのだろうとは思うが、女の美しさは、この世の物とは思えなかった。白髪であることから、何かの病気でも患っているのかも知れないが、それでも、村の者は女から目を離すことができず、旅の二人は行く先々で注目を浴びていた。
「どちらへ行かれるのかの?」
村の年寄りが、男に話しかける。
「徳川様の世でなくなってから、何年も経ち旅もしやすくなりましたので、こうして二人で気ままに世間をみて回っております」
男は、気さくにニコリと笑いながら答える。
「お気をつけた方がよいでしょう。その、この辺の山には、怪異が出ると言われています。そちらの奥方様のような美しいお方は、攫われてしまうかも知れません」
年寄りの言葉に、男は、女と顔を見合わせる。女が、男の袂をきゅっと握ったのは、不安だったからかもしれない。
「ご心配ありがとうございます。まあ、暗くなる前に通り過ぎれば、大丈夫でしょう」
男が、のん気に答える。
「あの……。どのような怪異が?」
女が、震える声で、年寄りに聞く。
年寄りは、手短に話す。
年寄りの話では、ここから京都へ向かう方向の山で、猫の怪異が出たのだという。
猫は、旅の女を攫い、攫われた女は、二度と戻ってはこないということだった。
連れの女を攫われた男が、村に戻ってきて、あらましを話したのだという。
男の話を聞いた村の若い衆が、何人かで山に女を探しに行ったが、猫の声がするだけで、女は見つからなかったということだった。
「くれぐれもお気を付けください」
年寄りの言葉に、旅の二人は、頭を下げて答えた。
「面白過ぎるんだが。笑いそうになって、手も声も震えてしまった」
村を離れて、すぐ、白金が、黄金に耳打ちした。
「親切で言ってくれたのだから、面白がるのはどうかと思うぞ」
「私は、お前の奥方だそうだ」
「まあ、お前は、修練をさぼっていたから、筋肉もついていないし、色も白い。おまけに尾の数も俺より少ないから、年も若く見える。女に見えても仕方ないさ」
「ふふ、修練をさぼったことを言われるのは、耳が痛い」
白金は、面白そうに笑う。笑えば、さらに花のように美しくなると黄金は思う。
元々、妖狐には、雌雄はない。変じれば、女の身にもなれる。白金は、旅の途中ということもあり男のなりをしているのだが、それでも、人間からすれば、女に見えるらしい。
素戔嗚尊の娘たる稲荷神の瑞獣となりうる妖狐は、見目の良いものが多い。
そのため、歴史上では、惑わされて国を滅ぼした王もいるくらいだ。
「なあ、あの猫の怪異、どう思う?」
「どうとは?」
まずい。興味を示したか。
黄金の言葉に、また面倒くさいことが起こるのではと、白金が身構える。
黄金は、優しい。何か困っている者があれば、人だろうが妖だろうが、助けようとする。
そのため、面倒ごとに巻き込まれることも多いのだが、黄金の良さでもあると思うから、白金には文句は言えな い。
「俺たちで、猫の怪異を封印してはどうだろう?」
「また、面倒なことを考えているな」
まあ、お前が、そう言うのならば、協力するよ。
白金は、しぶしぶ囮を引き受けた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
時は平安と呼ばれていた時代、平和かと思われた京の都にも、物の怪の類が連日連夜、悪さを働こうとしていた。
それらをほとんど未然に防ぐ活躍をしていた、稀代の天才陰陽師『安倍晴明』。
ところが、晴明は「後は任せた」と言い出して、突然(部分的な)休暇に入ってしまう。
弟子である五人の女の子たちが、師匠の代わりに物の怪退治へと赴くも、思わぬ事態が発生してしまって……!?
新感覚の平安妖退治ファンタジー、ここに幕開け!
『猫たちの時間+(プラス)』〜『猫たちの時間』14〜
segakiyui
キャラ文芸
朝倉財閥を仕切る朝倉周一郎も23歳。様々な事件に一緒に巻き込まれた滝志郎は現在作家稼業中。その滝の初のサイン会が催される日に、彼が載っているはずの電車が事故を起こした。青ざめる周一郎は逡巡しつつも滝に連絡を取るが、実はもう一つの案件が重なっていた。
『猫たちの時間』のキャラクターの5年後あたり。個人サイト10000ヒットごとの御礼SSとして連載予定。
妖しい、僕のまち〜妖怪娘だらけの役場で公務員やっています〜
詩月 七夜
キャラ文芸
僕は十乃 巡(とおの めぐる)
降神町(おりがみちょう)役場に勤める公務員です
この降神町は、普通の町とは違う、ちょっと不思議なところがあります
猫又、朧車、野鉄砲、鬼女…日本古来の妖怪達が、人間と同じ姿で住民として普通に暮らす、普通じゃない町
このお話は、そんなちょっと不思議な降神町で起こる、僕と妖怪達の笑いあり、涙ありのあやかし物語
さあ、あなたも覗いてみてください
きっと、妖怪達と心に残る思い出ができると思います
■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)
※本作の外伝にあたる短編集「人妖抄録 ~「妖しい、僕のまち」異聞~」もご一緒にお楽しみください
麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
14 Glück【フィアツェーン グリュック】
隼
キャラ文芸
ドイツ、ベルリンはテンペルホーフ=シェーネベルク区。
『森』を意味する一軒のカフェ。
そこで働くアニエルカ・スピラは、紅茶を愛するトラブルメーカー。
気の合う仲間と、今日も労働に汗を流す。
しかし、そこへ面接希望でやってきた美少女、ユリアーネ・クロイツァーの存在が『森』の行く末を大きく捻じ曲げて行く。
勢い全振りの紅茶談義を、熱いうちに。
お江戸のボクっ娘に、若旦那は内心ベタ惚れです!
きぬがやあきら
歴史・時代
酒井悠耶は坊さんに惚れて生涯独身を決め込み、男姿でうろつく所謂ボクっ子。
食いしん坊で天真爛漫、おまけに妖怪まで見える変わりっぷりを見せる悠耶に興味津々なのが、本所一のイケメン若旦那、三河惣一郎だった。
惣一郎は男色一筋十六年、筋金入りの男好き。
なのに、キュートながら男の子らしい魅力満載の悠耶のことが気になって仕方がない!
今日も口実を作って悠耶の住む長屋へ足を運ぶが、悠耶は身代金目当てで誘拐され……
若旦那が恋を自覚するときは来るのか?
天然少女×妖怪×残念なイケメンのラブコメディ。
※当時の時代考証で登場人物の年齢を設定しております。
ちょっと現代の常識とはずれていますが、当時としてはアリなはずなので、ヒロインの年齢を14歳くらい
とイメージして頂けたら有難いです。
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫(299)
キャラ文芸
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
⚠最新話投稿の宣伝は基本しておりませんm(。_。)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる