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5黄金狐
村のうわさ
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村では、少し騒ぎになっていた。
旅の二人組が、村を通り過ぎようとしていたのだが、その内の一人が、白い髪の見たこともないような美女だった。
雪のように白い肌、整った顔立ち、スラリとのびた手足。長い睫毛の下の黒い瞳を向けられると、村の若い衆は、はあ、とため息をついた。
女の連れも、見目の良い男であったことから、夫婦なのだろうとは思うが、女の美しさは、この世の物とは思えなかった。白髪であることから、何かの病気でも患っているのかも知れないが、それでも、村の者は女から目を離すことができず、旅の二人は行く先々で注目を浴びていた。
「どちらへ行かれるのかの?」
村の年寄りが、男に話しかける。
「徳川様の世でなくなってから、何年も経ち旅もしやすくなりましたので、こうして二人で気ままに世間をみて回っております」
男は、気さくにニコリと笑いながら答える。
「お気をつけた方がよいでしょう。その、この辺の山には、怪異が出ると言われています。そちらの奥方様のような美しいお方は、攫われてしまうかも知れません」
年寄りの言葉に、男は、女と顔を見合わせる。女が、男の袂をきゅっと握ったのは、不安だったからかもしれない。
「ご心配ありがとうございます。まあ、暗くなる前に通り過ぎれば、大丈夫でしょう」
男が、のん気に答える。
「あの……。どのような怪異が?」
女が、震える声で、年寄りに聞く。
年寄りは、手短に話す。
年寄りの話では、ここから京都へ向かう方向の山で、猫の怪異が出たのだという。
猫は、旅の女を攫い、攫われた女は、二度と戻ってはこないということだった。
連れの女を攫われた男が、村に戻ってきて、あらましを話したのだという。
男の話を聞いた村の若い衆が、何人かで山に女を探しに行ったが、猫の声がするだけで、女は見つからなかったということだった。
「くれぐれもお気を付けください」
年寄りの言葉に、旅の二人は、頭を下げて答えた。
「面白過ぎるんだが。笑いそうになって、手も声も震えてしまった」
村を離れて、すぐ、白金が、黄金に耳打ちした。
「親切で言ってくれたのだから、面白がるのはどうかと思うぞ」
「私は、お前の奥方だそうだ」
「まあ、お前は、修練をさぼっていたから、筋肉もついていないし、色も白い。おまけに尾の数も俺より少ないから、年も若く見える。女に見えても仕方ないさ」
「ふふ、修練をさぼったことを言われるのは、耳が痛い」
白金は、面白そうに笑う。笑えば、さらに花のように美しくなると黄金は思う。
元々、妖狐には、雌雄はない。変じれば、女の身にもなれる。白金は、旅の途中ということもあり男のなりをしているのだが、それでも、人間からすれば、女に見えるらしい。
素戔嗚尊の娘たる稲荷神の瑞獣となりうる妖狐は、見目の良いものが多い。
そのため、歴史上では、惑わされて国を滅ぼした王もいるくらいだ。
「なあ、あの猫の怪異、どう思う?」
「どうとは?」
まずい。興味を示したか。
黄金の言葉に、また面倒くさいことが起こるのではと、白金が身構える。
黄金は、優しい。何か困っている者があれば、人だろうが妖だろうが、助けようとする。
そのため、面倒ごとに巻き込まれることも多いのだが、黄金の良さでもあると思うから、白金には文句は言えな い。
「俺たちで、猫の怪異を封印してはどうだろう?」
「また、面倒なことを考えているな」
まあ、お前が、そう言うのならば、協力するよ。
白金は、しぶしぶ囮を引き受けた。
旅の二人組が、村を通り過ぎようとしていたのだが、その内の一人が、白い髪の見たこともないような美女だった。
雪のように白い肌、整った顔立ち、スラリとのびた手足。長い睫毛の下の黒い瞳を向けられると、村の若い衆は、はあ、とため息をついた。
女の連れも、見目の良い男であったことから、夫婦なのだろうとは思うが、女の美しさは、この世の物とは思えなかった。白髪であることから、何かの病気でも患っているのかも知れないが、それでも、村の者は女から目を離すことができず、旅の二人は行く先々で注目を浴びていた。
「どちらへ行かれるのかの?」
村の年寄りが、男に話しかける。
「徳川様の世でなくなってから、何年も経ち旅もしやすくなりましたので、こうして二人で気ままに世間をみて回っております」
男は、気さくにニコリと笑いながら答える。
「お気をつけた方がよいでしょう。その、この辺の山には、怪異が出ると言われています。そちらの奥方様のような美しいお方は、攫われてしまうかも知れません」
年寄りの言葉に、男は、女と顔を見合わせる。女が、男の袂をきゅっと握ったのは、不安だったからかもしれない。
「ご心配ありがとうございます。まあ、暗くなる前に通り過ぎれば、大丈夫でしょう」
男が、のん気に答える。
「あの……。どのような怪異が?」
女が、震える声で、年寄りに聞く。
年寄りは、手短に話す。
年寄りの話では、ここから京都へ向かう方向の山で、猫の怪異が出たのだという。
猫は、旅の女を攫い、攫われた女は、二度と戻ってはこないということだった。
連れの女を攫われた男が、村に戻ってきて、あらましを話したのだという。
男の話を聞いた村の若い衆が、何人かで山に女を探しに行ったが、猫の声がするだけで、女は見つからなかったということだった。
「くれぐれもお気を付けください」
年寄りの言葉に、旅の二人は、頭を下げて答えた。
「面白過ぎるんだが。笑いそうになって、手も声も震えてしまった」
村を離れて、すぐ、白金が、黄金に耳打ちした。
「親切で言ってくれたのだから、面白がるのはどうかと思うぞ」
「私は、お前の奥方だそうだ」
「まあ、お前は、修練をさぼっていたから、筋肉もついていないし、色も白い。おまけに尾の数も俺より少ないから、年も若く見える。女に見えても仕方ないさ」
「ふふ、修練をさぼったことを言われるのは、耳が痛い」
白金は、面白そうに笑う。笑えば、さらに花のように美しくなると黄金は思う。
元々、妖狐には、雌雄はない。変じれば、女の身にもなれる。白金は、旅の途中ということもあり男のなりをしているのだが、それでも、人間からすれば、女に見えるらしい。
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そのため、歴史上では、惑わされて国を滅ぼした王もいるくらいだ。
「なあ、あの猫の怪異、どう思う?」
「どうとは?」
まずい。興味を示したか。
黄金の言葉に、また面倒くさいことが起こるのではと、白金が身構える。
黄金は、優しい。何か困っている者があれば、人だろうが妖だろうが、助けようとする。
そのため、面倒ごとに巻き込まれることも多いのだが、黄金の良さでもあると思うから、白金には文句は言えな い。
「俺たちで、猫の怪異を封印してはどうだろう?」
「また、面倒なことを考えているな」
まあ、お前が、そう言うのならば、協力するよ。
白金は、しぶしぶ囮を引き受けた。
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