妖狐

ねこ沢ふたよ

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4 紫檀狐

酩酊

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 鳴神が自らの雷撃で、大嶽丸の雷撃を封じる。
 雨雲を呼び、火を消そうと試みるが、大鬼神の火の雨は、なかなか消えてくれない。

「紫檀、狐火で浄化だ!! 大嶽丸の黒雲を消せ!!」

「んあ~?」

 晴明に命じられて、抜けた返事を紫檀が返す。

 酒に染まった酒呑童子を喰って、酩酊している紫檀。ケラケラと笑いながら、狐火で黒雲をかき消していく。

「紫檀め。大丈夫か?」

様子のおかしい紫檀に普段冷静な晴明ですら不安になる。

「らいじょ~ぶだぁ~!!」

紫檀が、そう叫んで、とんでもない量の狐火を大嶽丸にぶつける。
大嶽丸が、紫檀の夥しい数の狐火をうけて、のたうち回る。それでもなお、妖力はつきないようで、かえって紫檀の周りの妖力が高まっている。

 ただの酩酊ではないな。これは。

「尾成りでしょうか?」
鳴神の問いに、

「恐らくは」
と晴明が答える。

 酒呑童子の妖力を取り込んで、ついに妖力の器が満たされたのだろう。酒呑童子の妖力が巨大すぎて、その妖力に翻弄されているからの酩酊なのだろう。

「とにかく、今は大嶽丸を制する」

晴明は、そう言って、大嶽丸の首を狙う。かつて大嶽丸を滅ぼした坂上田村麻呂が狙ったのも、その場所だ。それに、晴明の手にある頼光の鬼切丸は、鬼の首を切るための刃。
 
ざっくりと首に切り一撃を晴明がくわえる。逆方向からも、鳴神が大嶽丸の首に宝剣を叩きつける。

「やあ、こりゃ楽しいな」

 紫檀が、晴明と鳴神が太刀を入れて不安定になった大嶽丸の頭をつかんで引き千切る。

 鬼の首は、その胴体から離れて床に転がった。

 千切れた首は、伝承のように飛んで反撃に出るが、晴明の式神に抑え込まれて、そのまま潰されてしまった。首が無くなれば、胴体はあっけなく倒れて、冥府に帰っていった。


「紫檀様?」

床に倒れたままの紫檀を、鳴神が心配する。

あれだけ大騒ぎをしていたのに、急に静かになって動かない。

「紫檀、酒じゃ」

 晴明が、紫檀の持っていた徳利をとって、酒を浴びせかける。
 もし、まだ酒呑童子の妖力が呑み切れていないならば、これで暴れ出すだろう。
 暴れ出して、手が付けられないようになってしまったら、その時は、晴明が紫檀を制しなければなるまい。

「冷たい。酒は浴びせるもんじゃなかろう? 晴明は、儂の扱いが荒過ぎじゃ」

むくりと起きた紫檀が、フルフルと犬のように体を振るう。

「尾が成ったか? 九尾」
晴明がそう聞けば、

「ああ。ようやくな」
と、紫檀がヘラリと笑った。
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