妖狐

ねこ沢ふたよ

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4 紫檀狐

有国

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 夜のとばりの下の清涼殿。
 清涼殿には、藤原有国の姿がある。
 都の政治を牛耳る藤原家の四男。有能な男だと、宮中の評判は高い。
 ひと気のない廊下を歩み、誰もいないことに慌てている。

「帝には、避難していただいている」
にこやかに声をかけたのは、晴明。

式神の鬼を二体従えた晴明を、有国は、睨む。

「何やら物騒な。なんの話でございましょう。なにやら災いが迫っているというならば、私も帝と共に避難いたします」

有国は、帝の居場所を教えろと晴明に迫る。

「泰山府君祭を陰陽師でもない貴方が成功させて、父君を生き返らせたとか。おかしな話ですね」

 有国の言葉を無視して、晴明は涼やかな表情で世間話でもするように、有国に語る。

 泰山府君とは、冥界の君主。泰山府君祭は、陰陽道の最終奥義と言われている。それをただ人の藤原有国が若き日に行い、自らの父を生き返らせた。

「お聞き及びでしたか。となると、あなたは安倍晴明様。生きておられましたか」

有国は、笑う。

「ふうん。西と東で暴れているのは、あなたの使役する妖ですかね?」

「使役? 使役なぞしてはいない。その前に、西と東に、既に倒されたはずの鬼と幽鬼を放ったのは、有国であろう?」

晴明の言葉に、有国が答えない。

「いや、藤原有国に憑りついた伴善男の幽鬼か」

 そう晴明に指摘されて、有国の表情が変わる。
 伴善男とは、応天門の放火事件で源信を貶めようとして、それが発覚したことで流罪になった男。流罪先で亡くなったと言われている。
 その伴善男に、藤原有国は、似ていると評判であった。

「死してなお、生者を煩わすのは、如何なものかと思う。眠れる死者を、起こすのもよくない。それは、死者のやるべき仕事ではない」

「うるさい。俺を認めなかったこの都、この都の恨みを向ける者の力で崩壊させて何が悪い。大きく国を変え、我らを追いやった者どもの子孫を根絶やしにしてやる」

 有国の放った人型の紙が、大きな鬼に姿を変える。
 晴明の式神が、有国の式神を囲む。
 式神の力は、作った術師の力量によって大きく変化する。
 有国の式神は、晴明の式神に追われて、たちまち劣勢になる。

「すごいな。式神まで操る」

晴明が褒めれば、有国の表情が歪む。

「舐めおって!!」

有国が、床に札を貼り、印を結べば、冥府への道が出来る。

 ぬっと大きな手が姿を現す。

「大嶽丸か」

 鈴鹿の山で暴れた大鬼神。坂上田村麻呂に打ち破られた雷鳴や火を操る鬼。
 姿を現した鬼を晴明は見上げた。
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