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4 紫檀狐
獅子王丸
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鵺の横っ面をぶん殴れば、バラバラと鵺にまとわりつく髑髏が落ちる。
「いいの。ずいぶん頑丈だ」
紫檀が思い切り殴ったにも関わらず、平然としている鵺に、紫檀はゾクゾクする。これは、ずいぶん戦い甲斐のある相手だ。
「あいつ、遊んでやらなんだから、うっぷんが溜まっていやがった」
晴明が眉間に皺をよせる。
子供じみた紫檀。晴明や鳴神が相手をしてやらねば、その力を存分に使うことはできない。妖力の使いどころを探していたのだろう。
「では、ここは妖狐に任せて我々は……」
「うむ」
鵺が紫檀に集中している間に、鵺をここにつなぎとめている物を探さなければならない。
長年閉じ込められていた鳴神のしめ縄を故意に緩めた者がいたように、誰かが、川を下って沈む運命だった鵺の亡霊をこの巨椋池につなぎとめてしまっている。
「瘴気が濃くて視界が霞みますね」
「狐! 瘴気を浄化しろ!」
晴明が紫檀に叫ぶ。
本当は、探索の役目を紫檀にさせるはずであった。晴明が鵺の気を引き戦い、紫檀と鳴神で、つなぎとめる者を探るほうが、周囲を浄化しなければならない都合上、合理的だ。
なのに、紫檀が勝手に戦いたがってしまった。
「分かっておる」
そのぐらい自分でやれば良いのに、とぶつくさ言いながらも、紫檀は管狐を飛ばす。
何匹もの管狐が放たれて、周囲の瘴気を浄化していく。
「舐めるのも大概にしろ、化け狐。周囲を浄化しながら、私と戦うとは」
グルルと鵺が唸る。
「誰とも分からぬものに、いいように使われる間抜けを舐めるなと言われてものう」
フフフと紫檀が笑う。
「黙れ!!」
毒霧が紫檀を覆うが、紫檀の浄化の力でかき消してしまう。
晴明は、阿呆か。こんな毒霧を人間が浴びれば、たちまち命を失う。この面倒な敵は、浄化の紫檀の獲物であろうに。
ほんに、命を大切にしない奴だ。術師が妖を庇って如何する。
紫檀は、腕を食いちぎろうとする鵺の首を掴んでぶん投げる。
強いな。鵺が触れた場所から腐りかける。
浄化して治癒しながらの攻撃では、どうしても次の一撃が遅れてしまう。決定打を相手に与えられずに、体力だけが削られていく。
「この狐めが!!!」
バリバリと大きな音を立てて、鵺の渾身の雷撃が紫檀を襲う。
避けきれぬと紫檀が構えたところに、
ドンッ
と、大きな雷撃が落ちて、鵺の雷撃を打ち消してしまう。
鳴神?
紫檀が探せば、鳴神が、紫檀の下で、術を使って雷鳴を操っている。
「待たせた。紫檀よ。ようやく見つけた」
にこりと笑う晴明の手には、大剣が握られ、鵺を貫いている。
獅子王丸
かつて鵺を射殺した源頼政が、褒美としてもらった名刀。その獅子王丸を盗んできて依り代に使っていたのであろう。
憎い相手の気配に、鵺の執着は凝り固まり、この地に鵺をつなぎとめていた。
ひときわ甲高い声で鳴いたかと思えば、鵺の魂は、そのまま消えてしまった。
「おい、まだ獅子王丸に、破片がこびりついているぞ?」
紫檀が指摘した通り、鵺の魂の欠片が、獅子王丸に絡みついてどうにも取れそうにない。
「まあ良い。このくらいは、持ち主が負うべき業だろう」
晴明は、そう言って獅子王丸を鞘に戻した。
「いいの。ずいぶん頑丈だ」
紫檀が思い切り殴ったにも関わらず、平然としている鵺に、紫檀はゾクゾクする。これは、ずいぶん戦い甲斐のある相手だ。
「あいつ、遊んでやらなんだから、うっぷんが溜まっていやがった」
晴明が眉間に皺をよせる。
子供じみた紫檀。晴明や鳴神が相手をしてやらねば、その力を存分に使うことはできない。妖力の使いどころを探していたのだろう。
「では、ここは妖狐に任せて我々は……」
「うむ」
鵺が紫檀に集中している間に、鵺をここにつなぎとめている物を探さなければならない。
長年閉じ込められていた鳴神のしめ縄を故意に緩めた者がいたように、誰かが、川を下って沈む運命だった鵺の亡霊をこの巨椋池につなぎとめてしまっている。
「瘴気が濃くて視界が霞みますね」
「狐! 瘴気を浄化しろ!」
晴明が紫檀に叫ぶ。
本当は、探索の役目を紫檀にさせるはずであった。晴明が鵺の気を引き戦い、紫檀と鳴神で、つなぎとめる者を探るほうが、周囲を浄化しなければならない都合上、合理的だ。
なのに、紫檀が勝手に戦いたがってしまった。
「分かっておる」
そのぐらい自分でやれば良いのに、とぶつくさ言いながらも、紫檀は管狐を飛ばす。
何匹もの管狐が放たれて、周囲の瘴気を浄化していく。
「舐めるのも大概にしろ、化け狐。周囲を浄化しながら、私と戦うとは」
グルルと鵺が唸る。
「誰とも分からぬものに、いいように使われる間抜けを舐めるなと言われてものう」
フフフと紫檀が笑う。
「黙れ!!」
毒霧が紫檀を覆うが、紫檀の浄化の力でかき消してしまう。
晴明は、阿呆か。こんな毒霧を人間が浴びれば、たちまち命を失う。この面倒な敵は、浄化の紫檀の獲物であろうに。
ほんに、命を大切にしない奴だ。術師が妖を庇って如何する。
紫檀は、腕を食いちぎろうとする鵺の首を掴んでぶん投げる。
強いな。鵺が触れた場所から腐りかける。
浄化して治癒しながらの攻撃では、どうしても次の一撃が遅れてしまう。決定打を相手に与えられずに、体力だけが削られていく。
「この狐めが!!!」
バリバリと大きな音を立てて、鵺の渾身の雷撃が紫檀を襲う。
避けきれぬと紫檀が構えたところに、
ドンッ
と、大きな雷撃が落ちて、鵺の雷撃を打ち消してしまう。
鳴神?
紫檀が探せば、鳴神が、紫檀の下で、術を使って雷鳴を操っている。
「待たせた。紫檀よ。ようやく見つけた」
にこりと笑う晴明の手には、大剣が握られ、鵺を貫いている。
獅子王丸
かつて鵺を射殺した源頼政が、褒美としてもらった名刀。その獅子王丸を盗んできて依り代に使っていたのであろう。
憎い相手の気配に、鵺の執着は凝り固まり、この地に鵺をつなぎとめていた。
ひときわ甲高い声で鳴いたかと思えば、鵺の魂は、そのまま消えてしまった。
「おい、まだ獅子王丸に、破片がこびりついているぞ?」
紫檀が指摘した通り、鵺の魂の欠片が、獅子王丸に絡みついてどうにも取れそうにない。
「まあ良い。このくらいは、持ち主が負うべき業だろう」
晴明は、そう言って獅子王丸を鞘に戻した。
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