死霊の指

ねこ沢ふたよ

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決死の攻防

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 走り出しためぐみは、ゴリ崎と唯とあすかと合流して、屋上に向かう。
 目指すは、受水槽。そこの水を聖水に変えてしまえば、調理室のあれに供給されるはずだ。そして、あれは、煙を感知して発動する。

 スプリンクラー

 そう。スプリンクラーから、部屋一面に聖水を大量に放水すれば、火事を鎮火するときのように、竜彦の呪文で呼び寄せられた指は消滅してくれるはず。
 ゴリ崎が、昔一度だけボヤ騒ぎでスプリンクラーが発動した時のことを覚えてくれていた。わが校のスプリンクラーを管理している業者は、確かに、受水槽の水が流れてここから排出されると言っていた。

 めぐみとゴリ崎で、スプリンクラーに供給される水を全て聖水に変えなければならない。
 つまり、指が消えるまで、流れる水に祈り続けるのだ。

 祈り続けている最中は、無防備になるから、あすかと唯が、祈る二人を霧吹きで守る。

 調理室で呪文を唱えるのは、竜彦。そして、それを義弘が防御する。
 霧吹きの数は、三つ。それを最大限に生かして考えられた布陣。

 調理室。竜彦と義弘は、霧吹きに聖水を入れ、足元のバケツを確認する。
竜彦のスマホに、唯から受水槽の水の聖水化が始まったと連絡が入る。

「ここが、一番危険な場所になる」
「ああ。だけれども、これが失敗したら、どのみち俺たちは終わりだ」

 竜彦と義弘は、拳を合わせて、互いに気合を入れる。

「スプリンクラー、発動させるぞ!」

 義弘が、スプリンクラーの下のガス台の火を入れる。フライパンを出してきて、その油に引火する。
 ボヤ騒ぎの時と同じ状況を作り出す。

 けたたましい非常ベルの音と共に、水が降ってくる。

 竜彦が、呪文の詠唱をはじめれば、廊下からざわざわと嫌な音が鳴り響いてくる。
 義弘がのぞけば、無数の指が、何かに引っ張られるように、調理室に向かってくる。

 これで、スプリンクラーが効かなければ、俺たちは指に殺されるかもしれない。

 義弘は、最悪の光景を思い浮かべて、身震いをする。

 竜彦を守らなければ。
 義弘は、呪文を詠唱する竜彦の横に立って、霧吹きを構える。

 ガサガサガサガサガサ・・・。

 大きな音がして、指が何本も竜彦と義弘に飛びかかってくる。

「うわっ」

 震える手で義弘は霧吹きを構えるが、指は、義弘たちにたどり着く前に消えていく。

「せ、成功だ。スプリンクラー効いている!!そのまま聖水を作って!!」
義弘は、あすかに連絡する。

◇◇◇◇

 屋上の受水槽の横で、あすかは、義弘の電話を受けた。

「聖水、効いているみたいですよ」

「呪文で呼び寄せるのも、平気みたいね」

 唯も胸をなでおろす。
 めぐみとゴリ崎は、金の十字架を持って、受水槽の水に祈りを捧げまくっている。

 カツン!!

 めぐみの頬をかすって、指が壁に突き刺さる。

「ごめんなさい。一匹逃がしてしまいましたぁ」

 にこやかにそう言いながら、あすかが指を霧吹きで処分する。

「バレたみたいね。作戦」

 唯の言葉にめぐみが振り返れば、指が殺意を持って、めぐみ達を取り囲んでいる。

「竜彦先輩の呪文がまだ効いていない指が、阻止しようと集まった感じですか?」

 ほがらかなあすかの言葉。まるで状況を楽しんているようにも思える。

「もうちょっとで、一回詠唱が終わるみたいだから。全部詠めれば、この指も呪文に導かれると思うんだけれども……」

 唯が、言いよどむ。きっと、呪文が効きにくいということは、指の中でも強い精鋭達。
 受水槽の聖水化を防ごうだなんて、知能を持った指達。でも、めぐみとゴリ崎を守り切れなければ、聖水は作れなくなるし、指をわざわざ呼び寄せている竜彦たちが危ない。

 死んでも祈り続けてやる。

 流れ続ける受水槽の中の水を見ながら、めぐみは、祈り続ける。
 ゴリ崎とめぐみの祈りが途切れて、聖水の供給が止まれば、仲間が死んでしまう。

 神様、仏様、天使様、誰でもいい、もうほんと、頼む。このうんざりする面倒な指を打ち滅ぼす力を貸して下さい。

 こんなので本当に効くのかと疑いたくなるような雑な祈りを、めぐみは捧げ続けた。
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