死霊の指

ねこ沢ふたよ

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世の真理

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「なんでよ?? どういうことなのよ!!」

 めぐみの絶叫が、祈りを捧げる厳かな部屋であるはずのお御堂の中でこだまする。
 『穢れなき者』の該当者が、自分とゴリ崎だけなのが、めぐみには納得がいかないのだろう。

「だって、ほら。唯先輩と竜彦先輩は、お付き合いされていますし」
あすかが、小さい子をなだめるように、めぐみに説明する。

「そこはまあ、仕方ないわよ。でも、あすかや信じらんないことに、この眼鏡義弘まで……」

 納得がいかない。学年が下のあすかや、自分よりも堅物で通っている義弘まで、そういった恋の相手がいるなんて、信じられない。

「いいですか? この学校は、お嬢様やお坊ちゃんの多い、ミッション系の私立で、制服だってまあ可愛いんです」

「それがどうだって言うのよ」

「モテるんですよ。他校の生徒に」

「えっ?」

 めぐみはたじろぐ。
 他校の生徒に……モテる?

「登下校の際に、他校の生徒から、ナンパされたりして、恋愛に発展するなんてパターンは、山ほどです」

 なんだと? 登下校時なんて、英語の単語を聞きながら、できるだけ高速で歩くものではないのか? 他校の生徒が声を掛ける?? そんなイベントが存在する空間だったのか。

「そ、そりゃ、あすかは可愛いし、胸だって大きいし……モテるかもだけれど」

 そうだ。あすかが特殊なのだ。そうに違いない。

「ていうか、なんで、義弘まで。虚偽なんじゃないでしょうね?」

「何をいうか。眼鏡キャラというものは、一定の需要があってだな。この眼鏡に好意を持ってくれる素敵な方もいるのだ」

 まじか。私と同じボッチなのだとばかり思っていた。

「逆に先生が、『穢れなき者』に該当するのが、ドン引きっていうか……」

 竜彦が、憐れな者見る目で、ゴリ崎を見つめる。

「そうよね。大人なのに」

「同類として警告する。八十田よ。世の真理として、大人になったからって自動的に恋人が出来て、結婚できる訳ではないのだ」

 ゴリ崎が高らかに宣言する。

「え……嘘でしょ? 二十歳過ぎたあたりで普通にしてたら、恋人的な人ができて、社会人になって四、五年で結婚できるのだとばかり思っていたわ」

「甘い。俺も昔はそう思っていた。だが、違うのだ。大人になろうが、非モテは、非モテなのだ。世の中は、非情なのだよ!」

 ゴリ崎の言葉に、めぐみがワナワナと震える。
 た、確かにそうだ……。そうでなければ、この世に独身の男女がこんなにたくさんいる訳がない。
 小学校、中学校と自動的に入学して卒業する世の中。世間のレールから道を踏み外さないのであれば、自動的に恋愛や結婚も降って湧くような気でいた。

 なぜ、その恐ろしい真実に今まで気づかなかったんだろう……。
 めぐみは、今日一番に震えあがる。

「いいから。ねえ。早くしないと指また増えちゃうし。その非モテを存分に生かして、祈りを捧げてちょうだい」

 唯が、世の真理に恐れおののくゴリ崎とめぐみを急かした。

 こうして、金の十字架の光を浴びた聖なる水は、穢れなき者達の祈りをもって浄化され、悪しき者を退ける力を持った。
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