死霊の指

ねこ沢ふたよ

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メイデン

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 ミッション系のこの学校のお御堂は、校舎の端にあった。
 いつ誰が祈りに来ても入れるようにという宗教的信条のより、その扉は施錠されていない。義弘が開けば、その重々しい扉は、簡単に開く。

「あった」

 細々と前の部分だけ点灯されたままの照明の下。義弘の目の前に輝くのは、金色に装飾された五十センチほどの高さの十字架。
 朝の眠い時間に半分居眠りしながら見つめることはあっても、今日ほどこれが神々しく見えたことはない。
 金色で良かった……。
 義弘は、十字架に近づく。

 油断していた。

 十字架に手を伸ばした瞬間に、バラバラと天井から指が落ちてくる。

「う、うわっ!!」

 指が服の間に入って這いまわる。
 バサバサと服を引っ張っても、指は容易には離れてくれない。指の爪が、ガリガリと皮膚を削ろうとしてくる。
 こいつら、攻撃を覚えやがった!!
 パニックになって悶える義弘の耳に、

「義弘!!」
と叫ぶめぐみの声がする。

「この、クソ指どもめ!!」

 めぐみが、義弘の体を這いまわる指を捕まえて引きはがしてくれる。
 引きはがされた指が、諦めずに、義弘とめぐみに飛びかかってくる。

「この、指らが!!」
  
 スパーンと小気味よい音を立てて、ゴリ崎の来客用スリッパが指をはじき返す。
 体育教師なだけあって、ゴリ崎のスマッシュは正確だ。
 一本の指をはじくだけでなく、その指を他の指にぶつけることで、指にダメージを与えている。この、温泉卓球のような和やかそうな攻撃で、信じられないことに、指らは攻撃をし損ねて攻めあぐねている。

「俺のグレート・雷神ショットに敵うわけないだろう。クズ指」

 ゴリ崎が、カッコつけて指にどや顔をする。

 ダサ……。
 めぐみは、思わず、小声で本音をもらした。

 思わぬ攻撃で指たちがたじろいでいる間に、他のメンバーも到着する。
 皆で、十字架を囲み、指を攻撃して、辺りの指を駆逐する。

「竜彦、十字架あったわよ。後、どうすんのよ!」
駆逐しながらめぐみが聞けば、

「ええっとね。十字架で反射させた光を、水に当てるんだ。そして、その水に『穢れなき者』の祈りを捧げる」
と、竜彦が答える。

 そう、それが問題。なんだ、その『穢れなき者』とは。めぐみには、ちっとも分からない。

「こういうのは、あれか」

 義弘が竜彦に尋ねる。義弘にも、見当はついていそうだ。あれってなんだよ?

「たぶん。そうだよね。えっと、女だけなら、乙女とか、メイデンとか、処女とか、そんな書き方になると思うんだけれども、そういう区分は無さそうだから、男女共にオッケーかと思うんだけれども、該当者、居る?」
竜彦が尋ねる。

 乙女……メイデン……しょ、処女? えっとマリア様的な?

 めぐみの脳内を巨大なマリア像が通り過ぎる。

「は? なんでそんな括りなのよ。なに、その作者、エロじじいなの?」

 めぐみは眉間に深い皺を寄せる。

「仕方ないでしょ。今は。で、該当者は?」

 唯の言葉に、おずおずと手を挙げたのは、
 ゴリ崎とめぐみだけだった。
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