死霊の指

ねこ沢ふたよ

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ゴリ

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 キャアア!!

 ガッと肩を掴まれて、唯が悲鳴をあげる。

「お前ら、何やっているんだ!」

 かなり不機嫌な顔をした体育教諭の小西崎。通称ゴリ崎。
 ゴリマッチョな体つきから、生徒からそう呼ばれている。本人も、そのあだ名をなぜか気に入って、ゴリラマークをプリントにスタンプして返してきたりする。
 こんなお約束の登場をしたゴリ崎に若干の理不尽な怒りを覚えながら、

「あの、ちょっと虫が出て退治していました」
とめぐみが答える。

 皆、首を縦に振って、それに同意する。
 誰も、ゴリ崎に死霊の指のことを説明する自信はない。

「騒ぎ過ぎだ。お前ら。それになんだそのハンマー。たかが虫相手に大げさ過ぎだろう」
めぐみのハンマーを見て、ゴリ崎が注意する。

「ほ、本当ですね。ごめんなさい」

「……も、もう帰るところですから」

 皆、自分の荷物を持って、慌ててゴリ崎から逃げ出す。
 ネチネチと生徒を叱ることで有名なゴリ崎。

 噂によれば、制服のボタンを一つ外して歩いていただけで、一時間怒られた生徒がいるのだそうだ。
 こんな奴に捕まったら、せっかく指を退治したのに、いつ帰れるか分からなくなる。

 ダッシュで慌てて逃げ出したから、気づかなかった。

 本を落としたことにも、生徒会室の儀式の後を放置していたことも・・・。

 家に帰れば、母親がにこやかに出迎える。

「ねえねえ。恋バナはどうなったの?」

 ウキウキわくわくしながらそう尋ねる母親ののん気さに、ちょっとあきれる。
 こっちは、地球が指であふれかえるのを阻止してきたのだ。それどころではない。

「知らない。無いから。健全な女子高生が皆恋愛に勤しむだなんて古い考え、いい加減捨てたら。時代遅れだから」

 めぐみがそう言って母をにらめば、母は残念そうに、ええ~、なんて言っている。
 そんなに恋愛が見たいなら、ドラマでも勝手にみていろ。
 カレーを完食して皿を片付けて、風呂に入って、部屋に戻って宿題を終えて……ありきたりの日常をこなして、平和にベッドに入る。
 平和。最高だ。

 だが、平和は、いともたやすく、夜中の一本の電話によって崩された。

「めぐみちゃん、ゴリ……小西崎先生から、電話」

 母親にそう言われて起こされて電話にでれば、焦った声のゴリ崎。

「八十田、や、八十田。あれ、あれ何なんだ。うわっ!また増えた!!」

 ゴリ崎が必死でバンバンと何かを叩いている音がする。

「クソッ。早い!」

 ゴリ崎が電話の向こうで何やら暴れている。

 めぐみの血の気が引く。

「嘘でしょ。ゴリ……小西崎先生、あの本の儀式やったの??」

「生徒の間で流行っていることは、気になるだろうが!! それよりも、これなんだ。これどうすればいいんだ」

 ゴリ崎が孤軍奮闘している。

「とにかく、外に出したら厄介よ。結界の項目があるでしょ。それを実行して。……分からなかったら、竜彦、新藤竜彦に連絡して聞けばいいから!」

 呪文を読んだのは、竜彦だ。竜彦が一番詳しいはず。

「わ、分かった。新藤だな。き、切るぞ!」

 ゴリ崎との電話は、それで切れてしまった。

 指は増殖する。今、ゴリ崎の前には、何本の指があるのだろう?

 一時間で二本に、二時間後には四本……二十四時間後には、二の二十四乗……一千六百万本を超える。
 指数関数が襲ってくる。

 ゴリ崎だけには、とても任せていられない。手に負えないだろう。
 めぐみは、他のメンバーに連絡を入れると。着替えて、再び学校に向かう準備をした。
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