死霊の指

ねこ沢ふたよ

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魔法陣

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 生徒会室に持ち込まれた本をめくりながら、生徒会長の八十田やそだめぐみが、新藤竜彦と八木唯を睨む。

 なんて胡散臭い本なんだろう。めぐみは、にこやかに笑う二人がこの本を気に入った訳が分からない。

 図書委員の二人が、今日は残業をして書架の整理をしていたのは知っている。生徒会としては、委員活動の終了を待ち、安全が確認されてから帰宅する予定だった。

 嫌に遅いとは思っていたが、まさかこんな馬鹿な物に熱中して遊んでいるとは思わなかった。最近付き合い出した二人。毎日が記念日で、毎日がクリスマスの浮かれた状態。何を見ていても、二人ならば楽しいのかもしれない。

 もう外は、だいぶ暗くなっている。生徒は誰も学校に残ってはいないだろう。

「で、それをやってみようって訳?」
めぐみは、羨ましさを隠して、ますます不機嫌なままの口調で二人に尋ねる。

「そうそう。二人だけでやろうかという話もあったんだけれども、せっかくだから、皆で楽しもうかと思って。めぐみ、こんなの嫌いだっけ?」
唯が、早くも生徒会室の机に白い正方形の紙を広げて、本にある魔法陣を書き始める。

「そもそも、その死霊の指って何ですか?」

 書記の宮島みやじまあすかが、めぐみの横から本を覗き込む。

「ええっと、犯罪して死刑になった人の指らしいよ」
竜彦は、本の内容を思い出す。

「それを呼び出したら、何のメリットがあるというんだ。下らない」

 副会長の志田義弘しだよしひろが、眉間に皺をよせる。
 めぐみ以上に堅物で有名な義弘には、こんな非科学的な遊びが理解できないのだろう。

「なんだっけ? そもそも、呼び出せるって思ってもみなかったから、深く考えていなかったんだけれども……占い的なことが出来るはず」

 唯が魔法陣を書く手を止めて、本をめくる。

「恋愛占い的な?」
と、あすかが聞く。

 あすかの目が占いと聞いて輝いている。

「待ってね。……あった。未来を指し示してくれる的な感じみたいよ」

 唯が、死霊の指の解説部分を読む。
 死霊の指は、悪行を積み重ねその罪により裁かれた罪人の指であり、その指に問えば、未来の自分の姿を指し示してくれることもある。

「何それ。『こともある』って、いい加減な。そもそも、犯罪者の指でしょ? なんで、そんな未来予知の能力が備わっているのよ。備わっていたら、自分が死罪にはならないはずでしょ?」
めぐみが、曖昧過ぎる情報にむくれる。

 指だけになってそんな能力があるならば、生前全身が揃っていたときには、もっとすごい予知能力を持っていたはず。それなら死罪にはならないはずではないかというのが、めぐみの主張。正論だ。

「確かに。どうしてそんな人生に失敗した奴に、未来を聞かねばならないのか」

 義弘もめぐみに同調して、イライラしながら眼鏡を触る。
 丹念に磨き上げられた眼鏡が、生徒会室の照明でキラリと光る。

「まあまあ。どうせ、指なんて出てこないんだから。お遊びってことで」

 竜彦が、にこやかに笑いながら、唯が書いた魔法陣の中心にロウソクを立てる。
 米五粒を紙の隅に置き、真ん中のロウソクの下にも米を置く。
 唯がロウソクに火を灯す。部屋の電灯を消せば、それなりに邪な雰囲気が盛り上がる。

「さて、これで呪文。……ほの暗き闇よりいでし悪魔に告ぐ。我……」
竜彦の声が、朗々と生徒会室に響く。

「米とロウソクなんてよくあったわね」
とめぐみが唯に小声で聞けば、

「図書委員の先生が、怖がりでさ。この間の大きな地震の時に、ビビッて非常用持ち出し袋に入れていたのを見たの。それを図書管理室から持って来たの」
と、唯が答える。

 まあ、ロウソクは、お遊びが終われば元に戻しておけばいいし、米五粒くらいなら、もらっても問題ないだろう。
 竜彦の呪文が終わる。
 魔法陣の真ん中で、ロウソクが変わらず揺らめいている。

「やっぱり駄目っぽいですね」
あすかががっかりする。少しは何かが起きるかと期待していたのだろう。

「はい、もう帰るわよ。満足したでしょ!」
と、めぐみが机の上を片付けようとした時に、カタンとロウソクが倒れて、火が消える。

「え?」

 びっくりして竜彦に唯がしがみつく。

「ただ、バランスを崩しただけだろ」

 義弘が、鼻で笑う。
 義弘は、冷静に生徒会室の明かりをつける。

「はい、遊びは終わり。満足した?」

 めぐみが、その場をお開きにしようと、部屋の隅に置いていた自分の鞄を取りに行く。

「いえ、待ってください! あれ」

 あすかが、倒れたロウソクを指さす。
 カタカタとロウソクが震え出して、徐々に形が変化していく。

「やだ、指の形?」

 めぐみは、眉間に皺を寄せてロウソクを凝視する。

 皆の見ている前で、ロウソクは、一本の男の指に変化した。
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