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図書館の本
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ミッション系を中高一貫校。共学。地域では、お嬢様とお坊ちゃまが通う伝統校と認識された学校。放課後、生徒達が帰った図書館で、図書係の新藤竜彦と八木唯は、怪しげな本を見つけた。
二年間続けた図書係で初めて見る本。古ぼけた本だから、以前からある本なのだろうが、二人はこの日初めてその本が棚に並んでいることに気づいた。
「なにこれ、怪しすぎ」
唯は、本の表題を見て笑う。
『悪魔教本』
竜彦も笑う。重々しい分厚い本。西洋の錬金術や占星術の古本を真似た印刷が施された黄ばんだ本。
「ギャグだろ? だって、こんなのって、普通、ラテン語とかじゃない?昭和四十年くらいの出版で、悪魔教本って、ウケる。大体、出版社が『小鳥の森社』って、平和すぎ!」
めくれば、筆者の名前も記されている。『悪魔博士』と言う名前に、また、竜彦と唯は笑う。
「やばい。作者。中二病」
「ライダー系とか特撮のファンかもよ?」
唯と竜彦は、お腹がよじれるほどに笑う。
高校二年生の唯と竜彦、迫りくる大学受験の陰に怯えながらの日々。くさくさした日々の中で、二人は、この本に俄然興味を惹かれる。
二人で閲覧スペースにこの本を持って座り、ページをめくる。
この本の内容は、学術的な興味によって記された物であり、決して興味本位に再現しないように。読者の責任ある行動を求める。などと、お約束の仰々しい前置きの後で書き記されている本の内容は、悪魔の呼び出し方、ホムンクルスの作り方、死者の蘇らせ方など。
「本格的。悪魔を呼び寄せる呪文……退魔の法……ゾンビの殺し方。何者? 悪魔博士」
ケラケラと唯が笑いながらページをめくる。
新月の夜に、白い石を敷き詰めた十字路でまだ卵を産んでいない雌鶏を・・・などと、唯と竜彦が実践するには、なかなか難しい内容ばかり。ホムンクルスの作り方に至っては、材料が、動物チンキ、朝の青薔薇のしずく、マンドラゴラのつま先などと、なんだかわけが分からない物ばかりだった。
「あ、これなら、出来るんじゃない? 必要なものは、米粒五粒と、紙と黒ペン。ロウソクだけだって」
竜彦の目に留まったのは、『死霊の指の呼び出し方』だった。
本によれば、呼び出した死霊の指は、一時間に一本ずつ分裂するらしい。必ず、一本残らず駆除するようにと、筆者は忠告する。
「一時間に一本ってことは、二時間で四本?」
「三時間に八本、四時間で十六本、五時間で三十二本……うわ、これなんて言うんだっけ? 定期テスト思い出しそう……」
唯が、うんざりした顔をする。数学は苦手だ。この間のテストでも、先生に呼び出されて、この分だと、希望する進路に進めないと、釘を刺されたところだ。
「指数関数だっけ? やばいね、八時間で二百五十六本。九時間で五百十二本……笑える。そんなに指だらけになったら、どうやって駆除するんだか」
竜彦の言葉に、唯がまた笑う。
「ゴキブリみたい。殺虫剤利かないかな? 燻煙剤とか」
二人以外は誰もいない放課後の図書室。
笑い声が、部屋を明るく彩っていた。
二年間続けた図書係で初めて見る本。古ぼけた本だから、以前からある本なのだろうが、二人はこの日初めてその本が棚に並んでいることに気づいた。
「なにこれ、怪しすぎ」
唯は、本の表題を見て笑う。
『悪魔教本』
竜彦も笑う。重々しい分厚い本。西洋の錬金術や占星術の古本を真似た印刷が施された黄ばんだ本。
「ギャグだろ? だって、こんなのって、普通、ラテン語とかじゃない?昭和四十年くらいの出版で、悪魔教本って、ウケる。大体、出版社が『小鳥の森社』って、平和すぎ!」
めくれば、筆者の名前も記されている。『悪魔博士』と言う名前に、また、竜彦と唯は笑う。
「やばい。作者。中二病」
「ライダー系とか特撮のファンかもよ?」
唯と竜彦は、お腹がよじれるほどに笑う。
高校二年生の唯と竜彦、迫りくる大学受験の陰に怯えながらの日々。くさくさした日々の中で、二人は、この本に俄然興味を惹かれる。
二人で閲覧スペースにこの本を持って座り、ページをめくる。
この本の内容は、学術的な興味によって記された物であり、決して興味本位に再現しないように。読者の責任ある行動を求める。などと、お約束の仰々しい前置きの後で書き記されている本の内容は、悪魔の呼び出し方、ホムンクルスの作り方、死者の蘇らせ方など。
「本格的。悪魔を呼び寄せる呪文……退魔の法……ゾンビの殺し方。何者? 悪魔博士」
ケラケラと唯が笑いながらページをめくる。
新月の夜に、白い石を敷き詰めた十字路でまだ卵を産んでいない雌鶏を・・・などと、唯と竜彦が実践するには、なかなか難しい内容ばかり。ホムンクルスの作り方に至っては、材料が、動物チンキ、朝の青薔薇のしずく、マンドラゴラのつま先などと、なんだかわけが分からない物ばかりだった。
「あ、これなら、出来るんじゃない? 必要なものは、米粒五粒と、紙と黒ペン。ロウソクだけだって」
竜彦の目に留まったのは、『死霊の指の呼び出し方』だった。
本によれば、呼び出した死霊の指は、一時間に一本ずつ分裂するらしい。必ず、一本残らず駆除するようにと、筆者は忠告する。
「一時間に一本ってことは、二時間で四本?」
「三時間に八本、四時間で十六本、五時間で三十二本……うわ、これなんて言うんだっけ? 定期テスト思い出しそう……」
唯が、うんざりした顔をする。数学は苦手だ。この間のテストでも、先生に呼び出されて、この分だと、希望する進路に進めないと、釘を刺されたところだ。
「指数関数だっけ? やばいね、八時間で二百五十六本。九時間で五百十二本……笑える。そんなに指だらけになったら、どうやって駆除するんだか」
竜彦の言葉に、唯がまた笑う。
「ゴキブリみたい。殺虫剤利かないかな? 燻煙剤とか」
二人以外は誰もいない放課後の図書室。
笑い声が、部屋を明るく彩っていた。
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