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悪い大人
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白洲が終わって、帰り支度をしていれば、佐和と清吉が仲睦まじそうに話しているのが目に入る。
穏やかな表情の二人。
奉行の沙汰が終わってホッとしたのだろう。
まだ、清吉の悪い噂は、完全に消えたわけではない。
一度広がって悪い噂が消えるまでには、まだ時間がかかるだろう。
それでも、きっと清吉と佐和ならば、協力して乗り越えていくだろう。
とても幸せそうな二人の様子。めでたいことのはずなのに、お七は胸がチクンと痛む。
「お七ちゃん?」
お鈴が心配そうに見ている。
「大丈夫よ。お鈴ちゃん。あたしは、ちゃんと吹っ切って前を向くから」
お七は、お鈴に笑ってみせる。
「宗悟。いつウチに来てくれるんだ? 囲碁はいつ打つ?」
「当分は無理ですね。寺は今、忙しいんです。焼け出された人たちの世話がありますからね」
「冷たい」
「奉行様は、いいから仕事して下さい」
全く、子どもなんだからと、この場で誰よりも年齢的には子どもの宗悟が、奉行をあしらう。
「冷たいな。そんな態度で良いのか? 知っているぞ? 宗悟がどうして寺を継ぐのを渋ったのか」
「わ、ちょっと! 奉行様!!」
「好いた女子がいるのであろう?」
宗悟が慌てている。
「駄目ですってば!!」
「それは……茶屋の……」
「え、お鈴?」
「え、私?」
「おい、マジかよ」
「ちょっと! 本当、最悪!!」
宗悟がその場に崩れ落ちる。
宗悟の言う通りだ。
この奉行、最悪すぎる。
お七は、宗悟が憐れでならない。
「はい! 皆、忘れて!! 聞かなかったことにして!」
半泣きの宗悟。
だが、そんな訳にはいかない。
だって、ここにお鈴本人がいるのだ。
「え、でも……宗悟はまだ小さいし……まだ十二歳でしょ?」
戸惑うお鈴。
そりゃそうだ。
弟のように思っていた宗悟相手に、そんな話を急に言われても、困るだろう。
「だから、もっと大きくなった時にっ、言おうと!!」
宗吾は顔を両手で覆ってしまう。
だって、こんなの公開処刑だ。
告白なんてものは、こんなしっちゃかめっちゃかな状態のお白洲で奉行から沙汰されるものではないのだ。
「わ、私!」
お……。
お鈴の言葉に、皆が注目する。
皆の注目していることに気づいて、お鈴は慌てる。
「ごめんなさい!!」
真っ赤な顔のお鈴は、そのまま走ってどこかへ行ってしまった。
恥ずかしさで消えてしまいそうになってその場にしゃがみ込んでいる宗悟。
どうしたら良いのか分からないお七と祐。
この事態を巻き起こした奉行は、しれっと涼しい顔をしている。
佐和と清吉が、目が点になっている。
と組の親方が、腹を抱えて笑い転げている。
「お前らいい加減ににしてくれ! 笑い過ぎて腰に響くだろうが!!」
そうだった。親方はマトイ持ちを腰の持病で引退したんだった。
お七は思い出す。
どうしてこう、悪い大人が多いのか。
笑い転げている親方と楽しそうな奉行を、お七は冷たい視線で見ていた。
穏やかな表情の二人。
奉行の沙汰が終わってホッとしたのだろう。
まだ、清吉の悪い噂は、完全に消えたわけではない。
一度広がって悪い噂が消えるまでには、まだ時間がかかるだろう。
それでも、きっと清吉と佐和ならば、協力して乗り越えていくだろう。
とても幸せそうな二人の様子。めでたいことのはずなのに、お七は胸がチクンと痛む。
「お七ちゃん?」
お鈴が心配そうに見ている。
「大丈夫よ。お鈴ちゃん。あたしは、ちゃんと吹っ切って前を向くから」
お七は、お鈴に笑ってみせる。
「宗悟。いつウチに来てくれるんだ? 囲碁はいつ打つ?」
「当分は無理ですね。寺は今、忙しいんです。焼け出された人たちの世話がありますからね」
「冷たい」
「奉行様は、いいから仕事して下さい」
全く、子どもなんだからと、この場で誰よりも年齢的には子どもの宗悟が、奉行をあしらう。
「冷たいな。そんな態度で良いのか? 知っているぞ? 宗悟がどうして寺を継ぐのを渋ったのか」
「わ、ちょっと! 奉行様!!」
「好いた女子がいるのであろう?」
宗悟が慌てている。
「駄目ですってば!!」
「それは……茶屋の……」
「え、お鈴?」
「え、私?」
「おい、マジかよ」
「ちょっと! 本当、最悪!!」
宗悟がその場に崩れ落ちる。
宗悟の言う通りだ。
この奉行、最悪すぎる。
お七は、宗悟が憐れでならない。
「はい! 皆、忘れて!! 聞かなかったことにして!」
半泣きの宗悟。
だが、そんな訳にはいかない。
だって、ここにお鈴本人がいるのだ。
「え、でも……宗悟はまだ小さいし……まだ十二歳でしょ?」
戸惑うお鈴。
そりゃそうだ。
弟のように思っていた宗悟相手に、そんな話を急に言われても、困るだろう。
「だから、もっと大きくなった時にっ、言おうと!!」
宗吾は顔を両手で覆ってしまう。
だって、こんなの公開処刑だ。
告白なんてものは、こんなしっちゃかめっちゃかな状態のお白洲で奉行から沙汰されるものではないのだ。
「わ、私!」
お……。
お鈴の言葉に、皆が注目する。
皆の注目していることに気づいて、お鈴は慌てる。
「ごめんなさい!!」
真っ赤な顔のお鈴は、そのまま走ってどこかへ行ってしまった。
恥ずかしさで消えてしまいそうになってその場にしゃがみ込んでいる宗悟。
どうしたら良いのか分からないお七と祐。
この事態を巻き起こした奉行は、しれっと涼しい顔をしている。
佐和と清吉が、目が点になっている。
と組の親方が、腹を抱えて笑い転げている。
「お前らいい加減ににしてくれ! 笑い過ぎて腰に響くだろうが!!」
そうだった。親方はマトイ持ちを腰の持病で引退したんだった。
お七は思い出す。
どうしてこう、悪い大人が多いのか。
笑い転げている親方と楽しそうな奉行を、お七は冷たい視線で見ていた。
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