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ピッカピカの廊下
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やった。やり切った!!
お七は、数週間格闘し続けた廊下にぶっ倒れて転がる。
転がっても良いと思えるくらいにピカピカの廊下。
根気よくこびりついていた泥を落として、それでも次から次へと、現場でドロドロになった鳶達に汚されてしまうのだが、ついにここまで来た。
宗悟に教えてもらったのだ。
米ぬかで床を磨く方法を。
米ぬかで磨けば、木の床は光沢を持ち床の表面に膜のようなものが出来て、次に汚れるのを防いでくれる。
「宗悟、すごい」
廊下に転がりながら、ここに居ない宗悟を褒める。今度、お鈴ちゃんの茶店の団子を持って行って礼を言わないと駄目だろう。団子を持って行った時に見られるであろう宗悟の得意顔を想像して、お七は少し笑う。
「あ~。やり切った」
方法は宗悟に聞いたけれども、実際に頑張ったのはお七だ。
広く長い廊下を一人で一生懸命にここ数日かけて磨き上げたのだ。
幸い、何人分もの塩むすびをこしらえるから、米ぬかには全く困らなかった。
汗水流して半分意地になって、ようやく満足のいく状態にまでこぎつけた。
また、夕方になったら鳶達は帰ってくるだろう。
そして、親方のいる奥の座敷でワイワイと騒ぎながら賃金をもらい飯を喰らう。
その時に、泥足で大勢が歩き回るだろうが、宗悟に教えてもらった米ぬかが、汚れるのを防いでくれるだろう。
「気づくかな」
気づいた時のう吉達の表情を想像して、またお七は笑う。
きっと、驚いて滑って転ぶに違いない。
「おや、すごいじゃないか。綺麗になったね」
声に見上げれば、加代が立っている。
「わあ! 加代さん!!」
慌ててお七は廊下に正座する。
「頑張ったじゃないか!!」
「ありがとうございます」
褒められた!
お七の心がぱああっと晴れやかな気持ちでいっぱいになる。
「友達の……寺で小僧をしている宗悟に教えてもらって! その、米ぬかで磨けば良いんだって!!」
お七だけの手柄ではない。
宗悟に教えてもらわなければ、こんな風には出来なかった。
褒めてもらえるならば、宗悟も一緒に褒めてもらいたい。
「そうかい。良い友達だねぇ」
加代がピカピカの廊下を眺めながら宗悟も褒めてくれる。
加代に褒められれば、心がポカポカと温かくなる。
「これで、少しは認めて……」
お七が言いかけた時に、外でけたたましい半鐘の音が響く。
その途端に、優しかった加代の顔が厳しく変化する。
――火事だ!!
誰かの叫ぶ声が聞こえる。
「か、加代さん!!」
「何やっているんだい! お七! 寝転がっている場合じゃないよ! 準備して!!」
廊下に正座していたお七も、ぱっとタスキをかけたお加代についていこうと立ち上がる。
正座していたから、慌てて足がもつれる。転びそうになる。
踏ん張って堪えて、すたすたと小走りの加代の後をお七は追う。
心臓がバクバクいっている。
見習いの雑用係とはいえ、町火消になって初めての火事だ。
お七は、緊張で眉がヒクヒクと痙攣して体が強張るのを止められなかった。
お七は、数週間格闘し続けた廊下にぶっ倒れて転がる。
転がっても良いと思えるくらいにピカピカの廊下。
根気よくこびりついていた泥を落として、それでも次から次へと、現場でドロドロになった鳶達に汚されてしまうのだが、ついにここまで来た。
宗悟に教えてもらったのだ。
米ぬかで床を磨く方法を。
米ぬかで磨けば、木の床は光沢を持ち床の表面に膜のようなものが出来て、次に汚れるのを防いでくれる。
「宗悟、すごい」
廊下に転がりながら、ここに居ない宗悟を褒める。今度、お鈴ちゃんの茶店の団子を持って行って礼を言わないと駄目だろう。団子を持って行った時に見られるであろう宗悟の得意顔を想像して、お七は少し笑う。
「あ~。やり切った」
方法は宗悟に聞いたけれども、実際に頑張ったのはお七だ。
広く長い廊下を一人で一生懸命にここ数日かけて磨き上げたのだ。
幸い、何人分もの塩むすびをこしらえるから、米ぬかには全く困らなかった。
汗水流して半分意地になって、ようやく満足のいく状態にまでこぎつけた。
また、夕方になったら鳶達は帰ってくるだろう。
そして、親方のいる奥の座敷でワイワイと騒ぎながら賃金をもらい飯を喰らう。
その時に、泥足で大勢が歩き回るだろうが、宗悟に教えてもらった米ぬかが、汚れるのを防いでくれるだろう。
「気づくかな」
気づいた時のう吉達の表情を想像して、またお七は笑う。
きっと、驚いて滑って転ぶに違いない。
「おや、すごいじゃないか。綺麗になったね」
声に見上げれば、加代が立っている。
「わあ! 加代さん!!」
慌ててお七は廊下に正座する。
「頑張ったじゃないか!!」
「ありがとうございます」
褒められた!
お七の心がぱああっと晴れやかな気持ちでいっぱいになる。
「友達の……寺で小僧をしている宗悟に教えてもらって! その、米ぬかで磨けば良いんだって!!」
お七だけの手柄ではない。
宗悟に教えてもらわなければ、こんな風には出来なかった。
褒めてもらえるならば、宗悟も一緒に褒めてもらいたい。
「そうかい。良い友達だねぇ」
加代がピカピカの廊下を眺めながら宗悟も褒めてくれる。
加代に褒められれば、心がポカポカと温かくなる。
「これで、少しは認めて……」
お七が言いかけた時に、外でけたたましい半鐘の音が響く。
その途端に、優しかった加代の顔が厳しく変化する。
――火事だ!!
誰かの叫ぶ声が聞こえる。
「か、加代さん!!」
「何やっているんだい! お七! 寝転がっている場合じゃないよ! 準備して!!」
廊下に正座していたお七も、ぱっとタスキをかけたお加代についていこうと立ち上がる。
正座していたから、慌てて足がもつれる。転びそうになる。
踏ん張って堪えて、すたすたと小走りの加代の後をお七は追う。
心臓がバクバクいっている。
見習いの雑用係とはいえ、町火消になって初めての火事だ。
お七は、緊張で眉がヒクヒクと痙攣して体が強張るのを止められなかった。
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