狼さんと私

えりー

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隠し事の理由

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男の耳が本物かどうか確かめたくなった麻美は思い切り引っ張った。
「いたっ!痛い!痛いからやめてくれ!!」
男は半泣きになりながら訴えた。
麻美の手を払いのけ耳を擦っている。
麻美の手には脈打つ男の耳の感触がはっきりと残っていた。
「それ・・・本物?」
麻美は少し男から距離を取った。
「俺が怖いか?」
「・・・ううん、びっくりしただけ」
驚くことに麻美は怖がっていなかった。
その事に本人の麻美も驚いた。
普通は動揺したり信じなかったりするはずなのにすんなり納得できた。
男はきょとんといした表情で麻美を見つめている。
「・・・もうここまできたんだから隠し事はやめにしない?」
「・・・だが、真実を知ったら麻美は人里へ帰れなくなってしまう」
今度は麻美がきょとんとする番だった。
「え?何・・・?どういうこと?」
「山の掟だ」
「山の掟?」
麻美はさっぱりわからなかった。
混乱する頭で一生懸命考えてみた。
「真実を知ると山の掟でこの山から出られなくなるんだ」
「・・・そうなの!?」
「ちなみに普通の人間からも姿が見えなくなる」
「どういうことなの?」
「そのままの意味だ」
(そうか、だから今までこの人は名乗らないし、自分の事を一切話さなかったのね・・・)
そう思うと愛おしさがこみあげてきて気が付くと麻美は男を抱きしめていた。
「麻美?どうした!?」
男は顔を真っ赤にして照れている。
「何も知らないでゴメン。あなたは私を守ってくれていたのね!?」
「ああ、本当は全て話したかった。そうすれば麻美は俺のものになるだろう?」
かぁっと顔が熱くなるのを感じた。
「お前がもしこの山に残るというのならすべて話そう」
麻美は迷った。
「一晩じっくり考えてこい」
こうして短い逢瀬は終わった。
やんわり山から追い出された気分になった。
(私はどうしたいんだろう)
(わからないわ)
来た道をとぼとぼ帰っていると祖父が怒りながら麻美の方へ向かってきた。
「あの山には入っちゃいけないと言っておるじゃろう!?」
祖父はそれから真剣な表情で言った。
「昔からあの山は神隠しが起こるんじゃ」
「神隠し・・・」
確かにそうかもしれないと麻美は思った。
未だに名乗らないあの人は私を自分の物にしたいと言っていた。
(一晩なんていらないわ)
私の答えはもう出ているんですもの。
麻美は両手を握り締め山を見上げた。

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