八代とお嬢

えりー

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みくるは夜が近づくとそわそわしだした。
夕飯の時も上の空で適当に八代と会話をした。
(鵺は一体どんな姿をしているのだろうか)
自室にもどり考えると怖くなり少し手足が震えてきた。
(一応護符も持って行こう)
そう思い護符をポケットに忍ばせた。
夜になり迎えの使者がやってきた。
使者は着物を着た幼い少女だった。
結界がある事を伝えようとしたが、少女は結界を破らずに家の敷地へと入ってきた。
(この子、邪な者じゃない)
そう思うと少し安心できた。
「あなたが使者なの?」
着物の少女は何も話さず頷いた。
「私、この結界から出られないの」
そう言うと少女は無言でみくるの手を取り膜を張った。
少女はみくるの手を引き結界の外へ連れ出した。
みくるはシャボン玉のようなものに包まれて外へ出た。
結界は破られていないかった。
まだ八代は異変には気が付いていないようだった。
急いで使者の少女とその場を後にした。
少女が空間を切り裂き異空間へと繋げた。
「あなた・・・妖ものなの?凄いのね」
少女は頷き、先へ進むように促した。
恐る恐るみくるは少女に続いて入って行った。
周囲は漆黒の闇が広がっていた。
少し歩いて行くと光が見えた。
「眩しい・・・!」
「人間だ・・・人間が来たぞ」
すると声が聞こえてきた。
とても小さな声なので聞き逃しそうになった。
足元にたくさんの小さな妖者たちがいた。
「皆静かに!この方は鵺様の花嫁になられる方ですよ」
次の瞬間しんとその場は静まり返った。
「あなた、話せるの?」
少女が答えた。
「はい、外では話せませんがこの空間の中でなら会話が出来ます」
そんな事より聞かなくてはならないことがある。
「それより私が鵺の花嫁ってどういうこと?」
少女は不思議そうな顔をしてみくるを見た。
「鵺様は貴方との婚姻を望んでおられます」
みくるはくらりと眩暈がした・・・。
まさか、妖から求婚されるだなんて思ってもみなかったからだ。
(1人で来てよかったかもしれない・・・)
こんな事が八代に知られたらなんて言われるかわからない。
それよりも激昂しそうだ。
「妖の花嫁なんて嫌よ」
「鵺様は人型にもなれるので問題ありません」
いまいち話がかみ合っていない。
大きな扉が見えてきた。
「ここに鵺がいるの?」
「鵺様はいつもこのお部屋にいらっしゃいます。とてもお優しい方です」
少女はそう言うと、鵺の絵やの扉をノックした。
「鵺様。みくる様をお連れいたしました」
少女が言うと扉が開き、鵺と呼ばれていた男の姿が見えた。
銀色の髪に琥珀色の瞳整った顔立ち。
あまりの美しさに見惚れていると鵺が少女に声をかけた。
「お前はもう下がって良いぞ。ご苦労であった」
「はい、鵺様。失礼しました」
少女は急いでその場を後にした。
大妖怪の鵺と2人きりにされみくるは途方に暮れた。
「そんなところにいつまで立っているつもりだい?」
「・・・」
「用心深いんだねぇ」
クスクスと笑いながらみくるを観察した。
「何もしないから一緒に菓子でも食べよう」
「本当に何もしないですか?」
真剣な瞳でみくるを見つめ、もう一度言った。
「ああ、何もしない。私は君と話がしたいだけだよ」
みくるは怖かったが、用意されている椅子に腰かけた。
鵺と向き合う形となった。
見れば見るほど美しい男性だ。
長い前髪から時折見える琥珀色の瞳に吸い込まれそうになる。
「大妖怪のあなたが私に何の用があるんですか?」
「私の花嫁になってもらいたい」
「!?私は人間です」
「だが、それだけの霊力を持っていては人間界では暮らしにくいだろう?」
確かにその通りだ。
「・・・娶った後、私を食べるんですか?」
「そんな野蛮な事はしない」
その言葉を聞きみくるは安心した。
「抱くだけだ」
「抱くって・・・抱きしめるとかの意味じゃないですよね?」
分かっていてみくるは訊ねた。
「ああ、交わり君の霊力を少しずつ頂いていきたい」
「・・・私には想う人がいます」
「知っているよ。八代という男だろう?」
何でもお見通しらしい。
随分、調べたのだろう。
一体鵺はどこまで知っているのだろうか・・・。
「この世界でなら君は自由だ。私が創った世界だからね」
「・・・でも私は・・・やっぱり八代が好きなんです。婚約の話は無かったことにしてください」
「強情だな。それに気も強い」
嬉しそうに鵺はそう言った。
椅子に座っていた鵺が立ち上がりつかつか歩いてみくるのところまでやってきた。
その瞳は妖しく煌いていた。
みくるは身の危険を感じ自分に小さいながらも結界を張った。
鵺はそっとみくるに触れようとした。
しかし結界に弾かれてしまった。
「ほう、結界も張れるのか。ますます興味深い」
(どうしよう・・・この人の瞳は本気だわ)
この世界の主から逃げる術がない。
みくるは絶望した。
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